幼い頃の記憶・・・は、曖昧なのだが、ある日の私と友人の会話。
「英児、お前、俺の話信じないのか」 と宗太が、言った。
「だって、宗太、あの地区には、金持ちの家は無いぜ」 と私は答えた。
「俺は、中学の兄貴から、あの地区の家の庭の池で鯉を飼っている人がいるって、聞いたぜ」 と宗太は、一寸向きになって、言った。
「お前の兄貴は、その家の庭の池の鯉を見たのか」 と私は聞いた。
「いや、俺の兄貴が、直接見た訳じゃないよ。兄貴の友達が、その家に鯉を取りに行ったんだよ」
「えぇ、お前の兄貴の友達は、その家に鯉を盗みに行ったのか」
「ああ、そうだよ」
「鯉は、盗めたのか」
「ああ、デカいのを一匹取って来たってさ」
「へぇ~、凄いな。度胸が有るな」
「ああ、凄い奴だって、兄貴も言っていたよ」
結局、私は、少年時代から今に至るまで、あの地区のどの家が庭の池で鯉を飼っていたのか、知る事は出来ないでいる。
『 十月 宵の路地奥 物悲し 』
石 兎
宗太は、今思い返してみると幼い頃の思い出の中で、愉快なやんちゃ坊主であった。
私が、川沿いの草原に行くと、既に仲間達が、七,八人集まって、何やら騒いでいた。
私は、「どうした、宗太」 と高志とにらみ合っていた仲田宗太に、声を掛けた。
「此奴と決闘するんだ」 と宗太が言った。
「ええ、」 と声を上げて、小橋川高志の顔を見て、
「何が合ったんだ、高志」 と私は、聞いた。
「何もないんだよ。行き成り、宗太に決闘申し込まれたんだよ」 と高志は、赤い顔をして、言った。
「宗太、止めろ」 と私は言った。
「嫌だ。此奴になめられて、たまるか」 と宗太は、大声で言った。
結局、二人は、決闘を始めたのだが。宗太は、高志が振り回す左右の拳を制する事が出来ずに逃げ回る事に成った。私は、二人の息が切れた所で、間に入って決闘を止めた。
いや、全く、今でも思い出すと、馬鹿馬鹿しくて、笑いが込み上げて来る締まらない夏休み第一日目の朝の決闘で有った。
あれはあれで、小さな私たち成りの、凄くて、引き下がれないカッコよさだったのか・・・・・
『 曇り日の 体育の日は 弾み無 』
石 兎