徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:三橋健著、『カラー図解 イチから知りたい! 日本の神々と神社』(西東社)

2023年08月07日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

古事記・日本書紀の分かりやすい解説は数多くありますが、本書のように神話から始まって、ご神体や神社の分類、鳥居・本殿・拝殿などの建築様式の分類、神社の仕組みや神職の区分、お札・お守り・破魔矢・お神酒などの由来や意味、神社と人生との関わり、有名神社とその祭祀など包括的に図解してくれるものはあまりないのではないでしょうか。
おそらく、細かいところでは正しいとは言い難い所が含まれているのでしょうが、門外漢または普段なんとなく関わっているけれど、そもそもの意味を知らないといった人にとっては非常に分かりやすい図解入門書です。

目次
【1章】日本神話と神々の系譜
【2章】神社に祀られる神々
【3章】全国展開した神社信仰の分布
【4章】神社の仕組み
【5章】全国の有名な神社
【6章】暮らしの中の神々と神社
【付録】全国の主な神社一覧
 
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書評:岡本裕一朗著、『哲学と人類 ソクラテスからカント、21世紀の思想家まで』(文春e-book)

2022年10月12日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

タイトルからものすごく壮大な歴史的俯瞰的な考察を想像しますが、そこまで網羅的なものではなく、「技術」「メディア」という観点から見た人類の発展略史のような感じでした。

中心となるのは3つの技術革新とそれに影響を受けた思想の発展です。
一つ目は文字の発明。ここではギリシャ哲学者のソクラテスの「書き言葉」に対する否定的な見方と、それでもなお「対話」としてソクラテスの教えを書き留めたプラトンについて考察されます。
しかし書き留めて書物にするトレンドは変わらず、ついに「聖書」がベストセラーに。キリスト教の広がりは「書物」というメディアなしにはあり得なかったという考察。

二つ目は印刷技術の発明。手作業で書き写していた書籍がグーテンベルクの印刷技術によってある程度大衆化したこと。ここでの「大衆化」はラテン語・ギリシャ語ではなくドイツ語やフランス語などの現地語で書かれることと、ナショナリズム・国民国家の概念の誕生に結びついているという考察。

三つ目は、視覚情報を視覚情報のままに、音声を音声のままに保存・再生できる写真技術や畜音技術の発展、映画というメディアの登場。これらの技術革新と、それぞれ異なる種類の「無意識」がマルクス・ニーチェ・フロイトによって発見されたことが無関係ではないという考察。

そして、現在進行中のメディア革新は管理者を持たない分散型で、少数が他者を監視することと、多数が少数(の有名人など)を見ることの双方向性が成り立っている特異な環境と言え、今後、AIの発展に従って人類の終焉に向かっているのかもしれないと考察します。

目次
第1章 「21世紀の資本主義」の哲学
     ――メディアの終わりと世界の行方
第2章 「人類史」を世界の哲学者たちが問う理由
     ――ホモ・サピエンスはなぜ終わるのか?
第3章 私たちはどこから来たのか
     ――「ホモ・サピエンス」のはじまり
第4章 ギリシア哲学と「最大の謎」
     ――「文字」の誕生
第5章 キリスト教はなぜ世界最大宗教になったのか
     ――中世メディア革命と「書物」
第6章 「国民国家」はいかに生まれたか
     ――活版印刷術と哲学の大転回
第7章 「無意識」の発見と近代の終わり
     ――マルクス、ニーチェ、フロイト
第8章 20世紀、メディアが「大衆社会」を生んだ
     ――マスメディアの哲学

 メディアの哲学、または技術の哲学という切り口が興味深く、新鮮でした。


書評:F.J. Jeske著、『Das kleine Buddhismus 1x1』 (F.J. Jeske)

2022年09月24日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教
ドイツ語で仏教はどう語られるのか興味ありませんか?
日本文化は仏教とは切っても切り離せない関係にありますので、ドイツ語で日

日本の文化や思想を説明する際に、ドイツ語の仏教用語を知っていると便利です。
本書「Das kleine Buddhismus 1x1 小さな仏教入門」はわずか64ページの小冊子で、ごく簡単に仏教の基本概念を説明しています。

目次は以下の通りです。
  • Einleitung はじめに
  • Verschiedene Traditionen 様々な伝統
  • Die Drei Juwelen 三宝
    • Buddha 仏陀
    • Dhamma 法
    • Sangha サンガ(僧伽)
  • Die Vier Edlen Weisheiten 四諦
  • Der Edle Achtfache Pfad 八正道
  • Fünf Silas 五戒
  • Karma 業
  • Samsara 輪廻
  • Nirvana 涅槃
  • Das Bodhisatva-Ideal 菩薩の理想
  • Wiedergeburt/Reinkarnation 再生/生まれ変わり
  • Verdienst 功徳
  • Die Vier Göttlichen Tugenden 四無量心
    • Liebe (Metta) 慈
    • Mitgefühl (Karuna) 悲
    • Mitfreude (Mudita) 喜
    • Gleichmut (Upekkha) 捨
  • Mönch und Nonnen 僧と尼僧
  • Meditation 瞑想
  • Vipassana ヴィパッサナー瞑想
  • Die Drei Daseinsmerkmale 三相
    • Unbeständigkeit 無常
    • Leiden 苦
    • Nicht-Selbst 無我・非我
  • Ehrung an den Buddha 仏陀への帰依
  • Weitere Informationen その他の情報

説明の仕方は実にシンプルで、専門家からすると「厳密には違う」などということもあると思いますが、仏教というものを全然知らないドイツ語圏の人が読んで理解しやすいように書かれてあります。
ドイツ語の文章がとても平易ですので、仏教用語としてサンスクリット語(梵語)やパーリ語の単語が出て来はしますが、きちんとドイツ語で説明されているのでさして気にならないと思います。

ドイツ語の仏教用語は、ドイツ出身の最初の仏教僧Nyanatiloka ニャナティローカ(俗名 Anton Walther Florus Gueth、1878-1957)の仏典翻訳によるところが大きいようです。

著者のF.J. Jeskeは、この本をミャンマーとタイの国境にある山寺で修行しながら記したそうです。だから、実践者としての重みが平易な言い回しの中にこもっている感じがします。
インド学者のように小難しい説明でないところが、ポイント高いです。

書評:宮田登著、『民俗学』(講談社学術文庫)

2022年07月11日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

宮田登著、『民俗学』(2019)は、民俗学とは何か、日本における民俗学の成り立ちから現在に至るまでの研究の発展や変遷、民俗学的に重要な「常民(性)」「ハレ」「ケ」「ケガレ」などの概念の説明など、非常に示唆に富んだ入門書です。

装丁や構成が現代的な意味で分かりやすくなっているわけではないので、その辺りは「学術文庫」であるところを考慮して大目に見る必要があるかと思います。
つまり、手っ取り早く読める本ではありません。

目次
まえがき
1 民俗学の成立と発達
2 日本民俗学の先達たち
3 常民と常民性
4 ハレとケとゲガレ
5 ムラとイエ
6 稲作と畑作
7 山民と海民
8 女性と子供
9 老人の文化
10 交際と贈答
11 盆と正月
12 カミとヒト
13 妖怪と幽霊
14 仏教と民俗
15 都市の民俗

先日一気読みした『準教授・高槻彰良の推察』シリーズの高槻淳教授の専門分野は、上の民俗学の分野の13と15にあたるのだな、と一人納得しながら読みました。

日本の民俗学がもはや農村、特に稲作文化ばかりを追わず、広く人々の営みと大小の「伝承」「伝統」に目を向けるようになったのはいいことだと思います。
やはり古いもの(失われつつあるもの)ばかりに囚われるのではなく、いかなる人の集団にも<民俗>が生まれることに着目するのは、現実に即しています。

私は古いものも好きですが、なぜかどこからともなく生まれて語り継がれる都市伝説の類も好きです。
そういったものが類型化できるのであれば実に興味深いと思います。




Frenkel & Kang著、An Ugly Truth: Inside Facebook's Battle for Domination (The Bridge Street Press)

2022年06月15日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

Blinkistというドイツ語書籍の要旨を聴けるアプリで「Inside Facebook: Die hässliche Wahrheit(フェイスブック・インサイド 醜い真実)」という本が紹介されていたので聞いてみました。
ここではオリジナルの英語版「An Ugly Truth: Inside Facebook's Battle for Domination(醜い真実:フェイスブックの覇権争いの内実)」の方を挙げておきます。2021/7/13刊行で、未邦訳です。



フェイスブックがヘイトスピーチなどを一切規制しなかったことで問題になっていたことを覚えている方は多いかと思います。
私も記憶の片鱗に留めておいた程度で、その影響力や問題の深刻さについて大して考えたことはなかったのですが、かなりの実害があるようです。
2016年にはすでにフェイスブックは米国内外合わせて数千万人の一次情報源になっており、そのユーザーたちの「いいね」を押す行動からその人の好みや行動傾向を割り出して、それに合ったコンテンツや広告を優先的に提示するアルゴリズムのせいで、ユーザーは自分の信念の正しさの確信をどんどん深めていき、過激化する傾向が見られます。
SNS内での思想の過激化が実際の暴力に発展するケースが往々にしてあり、例としてはミャンマーにおける2017年8月のロヒンギャ虐殺事件や2021年1月のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件などが最も有名な例です。
また、2016年の米大統領選挙においてロシアからのフェイクニュースが無制約でばら撒かれ、かつ民主党議員のデータがハッキングされたため、トランプ当選に有利となったと言われています。

こうした対外的な弊害はメディアでもだいぶ報じられていますが、社内事情も酷いもののようです。ホイッスルブロワーを徹底的に探し出して解雇することを専門にする専任エンジニアの存在など、ぞっとする企業ガバナンスです。

問題の根源はマーク・ザッカーバークその人にあります。企業成長すれば何でもありという態度は社内でも反感を買っているらしいのですが、ぎりぎりまで「言論の自由」の建前の元に明白な誤情報や誹謗中傷・ヘイト投稿などの規制に反対の立場を取り、世間の非難をかわすためだけの実効性の少ない措置ばかり講じてきたとのことです。
2020年以降、フェイスブックはデータ保護や投稿・広告のコンテンツ規制に注力するようになりましたが、どの程度本気で、どの程度実効性があるのかについては時が経ってみないことには分かりません。


書評:大野和基・編、『コロナ後の世界』 (文春新書)

2022年05月04日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教


新型コロナウイルスが国境を越えて感染を拡大させる中、現代最高峰の知性6人に緊急インタビューを行い、世界と日本の行く末について問うた本書は、2020年3月の時点から見た未来考察であるため、その後のパンデミックの展開や現在のウクライナ戦争などはもちろん考慮に入れられていません。
しかしながら、その時点でジャレド・ダイアモンド、ポール・クルーグマン、リンダ・グラットン、マックス・テグマーク、スティーブン・ピンカー、スコット・ギャロウェイの6人がどんな根拠を基にどのような未来考察を行い、どのような行動の提案を行ったのかを知るのは興味深く、示唆に富んでいます。
彼らの提案は、その後の状況変化によって修正されるべき点がほとんどない普遍性のある指針でもあるため、一読に値します。

[主な内容]
  • ジャレド・ダイアモンド「21世紀は中国の時代にはならない」
    (カリフォルニア大学ロサンゼルス校地理学教授。著書『銃・病原菌・鉄』)
  • マックス・テグマーク「AIで人類はもっとレジリエントになれる」
    (マサチューセッツ工科大学教授。著書『LIFE3.0 人工知能時代に人間であるということ』)
  • リンダ・グラットン「ロックダウンが日本人の新しい働き方を生んだ」
    (ロンドン・ビジネススクール教授。著書『ライフシフト 100年時代の人生戦略』)
  • スティーブン・ピンカー「人間の認知バイアスが感染症対策を遅らせてしまった」
    (ハーバード大学心理学教授。著書『21世紀の啓蒙 理性、科学、ヒューマニズム、進歩』)
  • スコット・ギャロウェイ「パンデミックでGAFAはますます強大になっていく」
    (ニューヨーク大学スターン経営大学院教授。著書『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』)
  • ポール・クルーグマン「経済は人工的な昏睡状態。景気回復はスウッシュ型になる」
    (ノーベル経済学賞受賞者。著書『格差はつくられた 保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略』)
結論から言えば、パンデミックによって人類の変化の方向性が180度転換したということはなく、兆しでしかなかった変化がパンデミックによって加速したと言えるでしょう。「いつか来る」と思われていたものが「今来た」、あるいは「まだ先」と思われていた話が「ほんの数年後」に実現の目途が立った、ということです。
ただ、誰もがこうした未来予測を普段から考察またはそうした考察を読んで知っているわけではなかったので、天変地異が起こったかのように感じられたのでしょう。

スコット・ギャロウェイ氏が、GAFAの棲み分けが破られた今、その中で勝ち残るのはAmazonだと予測しているのは面白いですね。
AI・イーコマース・物流を押さえているAmazonは確かに現状では最強ですが、トップ交代が起こって経営方針や事業戦略に変化があればその限りではないことは自明です。

日本については、少子・超高齢化社会プラス移民をあまり受け入れない体制の問題性が挙げられ、女性の労働力をきちんと活用できる制度にしていかないと日本の未来が暗い、という大筋で著者らの意見の一致があるようです。詳論では、それぞれの専門分野の違いもあってアプローチが異なりますが、全てを実行に移したとしても矛盾は出てこないように思えました。


書評:石角完爾著、『ユダヤ人の成功哲学「タルムード」金言集』(集英社ビジネス書)

2022年04月28日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『ユダヤ人の成功哲学「タルムード」金言集』は、ユダヤ教のウルトラオーソドックスの宗派に改宗した著者が、世界最古にして最大の議論集「タルムード」にある数々の説話とそれらの根底にある知恵を紹介しています。

【目次】
はじめに――タルムードに満載されているサバイバルの知恵
第一章 お金を引き寄せるユダヤ哲学
「この世には人を傷つけるものが三つある。悩み、諍い、空の財布。三つのうちからの財布が最も人を傷つける」
  • 魔法のザクロ~「ノーペイン・ノーゲイン」ー犠牲なくして成功なし
  • 七匹の太った牛と七匹の痩せた牛~豊かさの次には必ず対貧困が襲ってくるーしかし貧困の次に豊かさが来るとは限らない
  • お金を恵むなら全員に~借りたものを惨めに扱うなかれー尊厳を傷つけない貸し方をせよ
  • 土地は神が与えたもうもの~土地は誰のもの?ー土地の所有は50年でご破算に
  • ナポレオンとニシンの話~小さな儲けにとどめよーそれを繰り返せ
  • 金の冠をかぶった雀~財産を見せびらかすと身を滅ぼすー人目には普通の雀と映るのが安全
  • 正直な仕立て屋~偽装商法は幸せを遠ざけるー正直な生き方にお金は宿る
  • ソロモン王のウィズダム~懸命で賢明な生き方(ウィズダム)こそお金を引き寄せる
  • ウィズダムを売る老婆~ウィズダムにはお金を払うー対価(犠牲)なしで賢明さは身につかない
  • 悪魔と助産婦~人のためにお金を使えば、長く幸せになれる
「今日のあなたは、自分の穀物倉庫を見て穀物の量を数えようとした。その瞬間にあなたは神から見放される」
第二章 タルムードの知恵をビジネスに活かす
「なぜユダヤ人の目は中心が黒くてその周りは白いのか?」
「世界は暗い面から見た方が、物事がよく見えるからだ」
  • 神との交渉~しつこい交渉と少しの成果の積み重ねーユダヤの漸進主義を仕事に活かせ
  • デボラの闘い~権力者にも臆するなー日頃から議論の勉強を積め
  • 手と足と目と口、一番偉いのは誰?~口こそ最大の武器であるー日本人はプレゼン力を磨け
  • モーゼの反論~疑問の精神こそ道を拓くー「No」、そして「because」を言う訓練を
  • キツネと葡萄畑~何でも自分でやろうとすると危険がいっぱいー「サブコントラクト」と「ブラックボックス」
  • 用心しすぎたアラブの商人~過剰な要人は良い結果を生まないー「心配」ではなく「適性判断」をせよ
  • 難破船の三人の乗客~適正なリスク計算ー冷静に計算できる人間が生き残る
  • 明日に種を蒔け~企画・立案ができる人材養成をー売れる商品にはダイバーシティが必要
  • 二人の乞食~人とお金を動かす「仕組み」を作るープラットホーム作りは人の心理を読んで動け
  • ユダヤ人の黒い瞳~好調な時こそ、苦境への準備をせよー時に全部捨てる「レハレハ」の勇気を
  • あるラバイの最悪で最良の災難~最悪の事態はそれよりももっと悪いことから救ってくれることかもしれない
  • 道に迷ったお姫様~多くの失敗から学ぶー悪い時の経験が成功に導く
「最も良い教師とは、最も多くの失敗談を語れる教師である」
第三章 すべてを捨てる覚悟が道を拓く
「From Dust to Dust
人はDust(塵)から生まれてきた。生まれてきてから得たものに執着するな。いずれは人はDust(塵)に戻っていくのだから」
  • 青年アダムスの疑問~神の視点で物事を考えよー人間の及びもつかない見方で見よ
  • 悪いのは誰?~情報は疑って見よー思考停止が判断を誤らせる
  • ノアの方舟の真実の話~善と悪は、別々に存在しない。いつも一緒にいる。
  • 追い詰められたユダヤ人の奇策~命を奪えるのは神のみー命をあきらめない
  • 兵士とパスポート~決してあきらめないー起死回生の一打を必死で考え実行せよ
  • 小魚と水~目に見えないものこそ大切なものー日本人はものに囚われている
  • グルメは死罪だ~貧者のように食べよーグルメに走る者は神を忘れる者
  • パラダイスを見つけた男~幸せは単調な今の中にあるー「あなたのいる場所」を大切に
  • ヘブライの王の助言~幸福と幸福感は別のものー幸せの価値を見極める
  • 母鳥と三羽のヒナ~教育とは「教育することを教育する」ことだーユダヤ式教育の真髄
  • 一〇個のクッキーの与え方~子どもに苦労を教えるー人生は良い時ばかりではないという教育
  • 鶏の卵の運び方~子どもに教えるリスク分散ー答えは子ども自身に見つけさせる
  • 愚かな農夫~子どもの個性を大切にするー横並びの教育の重大な問題点
  • メロディーを買った青年~「形のないもの」に目を向けるー知的価値は物的価値に優る
  • 村人の三つの願い~今も生きる助け合いの精神ー持続してこその相互扶助
「どんなに裕福な金持ちであっても、助け合いの心を持たない人間は、豪華な料理に塩がないのと同じである」
あとがきにかえて

 この「タルムード」を介してユダヤ人がいかに考える習慣や質問するまたは議論することを身につけ、適正なリスクを取り、考えられるリスクに対応するための対策を講じるか等々が説かれています。

その中で、ユダヤ人の教えがいかに優れており、現代日本人がいかに考えなし、備えなしで損をし、自らの未来を危うくしているか警鐘を鳴らしているのですが、この辺りは少々度が過ぎているように思えます。というのは「ユダヤ人」というくくりと「日本人」というくくりを作って比較対照している時点で一面的な一般化・単純化をして、一方を礼賛し、他方を貶めているからです。

「だから日本・日本人はダメなのだ」的な論調に目をつぶれば、紹介されている説話は非常に興味深く、教訓・示唆に富んでおり、それらに含まれる知恵は確かにビジネスに有効活用できるものです。
目次を見るだけで教えのエッセンスがすでに分かりますが、1つ1つの説話も読み物として面白いので、お勧めです。

書評:両@リベ大学長著、『お金の大学』(朝日新聞出版)

2022年04月26日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

大分前に紙書籍で日本から送ってもらってそのまま積読本になってしまっていましたが、ようやく読むことができました。

著者はYouTubeのお金の教養チャンネル〈リベ大〉で日々日本人のマネーリテラシーを高めようとたくさんの動画を発信しており、本書はそれら多数の動画に通ずる基礎がまとめられています。
このため、詳細を知りたい読者のためにそれぞれの項目でQRコードをスキャンして該当動画に飛べるようになっています。

お金のハウツー本は数多くありますが、本書(およびリベ大)の特徴は、バランスのよい再現性の高さにあります。つまり、誰が真似してもそれなりの結果が出せる方法とそれに必要な知識、さらにそれに伴うリスクとリスク対策がマンガ的に優しく解説されているので、真似しやすいのです。

煽りに明示されているように、著者のお金にまつわる思想は「貯める力」「稼ぐ力」「増やす力」「守る力」「使う力」の5つの力に集約されます。
本書ではその5つの力のうちの最初の3つの力を重点的に扱い、「守る」と「使う」の2つはある程度の資産が築けた後に重要度が増すため、最後に短く要点だけをまとめてあります。

固定費(通信費・光熱費・保険・家・車・税金)などを見直して支出を抑えてお金を貯め、稼ぐ力を身につけて収入を増やし、余剰金をさらに投資に回して資産を増やし、資産を減らさないように守りを固め、人生を豊かにすることにお金を使うという5ステップで経済的自由を手に入れる、というのがその5つの力による道筋です。

具体的なアドバイスは利用できる公的制度にも及ぶので、一家に一冊置いておく価値があると思います。
また、「稼ぐ」や「(資産を)増やす」にまつわる様々な詐欺行為や落とし穴が分かりやすく紹介されており、相場を知って「うまい話」に騙されないように何度も警告しているところが大変良心的です。

また、貯めるために極端な節約を奨励しているわけではなく、「人生を豊かにすることにお金を使う」というように、使うことも前提としている点でバランスのよい考え方と言えます。
FIRE(経済的自由、早期リタイヤ)を目指すために修行僧のようなミニマリスト的生活をして貯蓄に励む路線にはあまり再現性はありませんが、「無駄を見極めて節約し、本当に大切なことにお金を使う」であれば、本人が頭を使って行動することが必要ではありますが、そのためのアドバイスが盛りだくさんに提供されているので、再現性が高くなります。

非常にカラフルな図解やイラストがふんだんに散りばめられ、大部分が対話形式(一介のサラリーマンの不安や質問に著者が回答)で進行していくため、普段本を読まない人でもとっつきやすい構成になっているところが魅力です。
著者が多くの人に幸せになるためのマネーリテラシーを身につけて欲しいと本気で願っていることが伝わって来る一冊です。

海外に住んでいる私には実際に役に立たない情報も多々ありますが、基本的な考え方は参考になりました。



書評:ユヴァル・ノア・ハラリ著、『サピエンス全史』上下合本版(河出書房新社)

2022年04月25日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

いろいろと読書の寄り道をしたため、『サピエンス全史』の上下巻を完読するのに1か月余りかかりました。
概要は中田敦彦のYouTube大学の動画を見て、おおよそ知っていましたが、実際に読むとなるとかなりの量です。興味深い内容であることは確かですが、そのボリュームに相応しく膨大な詳細情報が記載されており、読んで咀嚼するのに時間がかかります。

目次
(上)
第1部 認知革命
第1章 唯一生き延びた人類主
第2章 虚構が協力を可能にした
第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし
第4章 史上最も危険な種
第2部 農業革命
第5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇
第6章 神話による社会の拡大
第7章 初期体系の発明
第8章 想像上のヒエラルキーと差別
第3部 人類の統一
第9章 統一へ向かう世界
第10章 最強の征服者、貨幣
第11章 グローバル化を進める帝国のビジョン

(下)
第12章 宗教という超人間的秩序
第13章 歴史の必然と謎めいた選択
第4部 科学革命
第14章 無知の発見と近代科学の成立
第15章 科学と帝国の融合
第16章 拡大するパイという資本主義のマジック
第17章 産業の推進力
第18章 国家と市場経済がもたらした世界平和
第19章 文明は人間を幸福にしたのか
第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ
あとがき―神になった動物

目次を見ても分かるように、著者は人類史を認知革命・農業革命・科学革命の3つの分岐点で区切って考察します。
「産業革命」は?と疑問に思うかもしれませんが、これは科学革命(プラス資本主義)の結果として起こった変化であり、本質的な革命ではないということです。

人類史において認知革命を取り上げられることは稀だと思いますが、これによってホモサピエンスは、アフリカ大陸の取るに足らない動物から食物連鎖の頂点に立ち得る知能を獲得したので、一番本質的な変化と言えます。
ただ「革命」というと、通常は人間が引き起こす社会的変化を指すので、偶然の生物的な進化と言っていい「認知革命」はその名称に多少語弊があるとは思いますが。

1万5千年前に起こったこの認知能力の変化によってサピエンスはネアンデルタール人よりも大きな集団で協力して計画を立てて実行する能力を勝ち取ったので、他のホモ属を凌駕し、唯一生き残った人類種となりました。

こうして数千年の間狩猟採集民として世界中に拡散していきましたが、およそ7千年前に中東で農業革命が起こります。
この農業革命も「革命」と言うにはあまりふさわしくないと思うのですが、何はともあれ栽培化しやすい穀物に恵まれた土地に定期的に採集していたサピエンスは、そのうち種を蒔き、作物(特に麦)の面倒を見て収穫するようになり、徐々に季節的な移動を止めて、一か所に定住するようになりました。
それは今日的な感覚では非常に緩やかな変化でしたが、人類の歴史を俯瞰するならば、比較的急な変化と解釈できます。

農業革命の結果起きたのは人口増加で、人口増加がまた生産増加につながる性のスパイラルに突入したため、今までにない大きな共同体を形成し、社会を成り立たせる必要が出てきました。
ここで大きな役割を果たすのが「物語」です。
神話や伝説などは言うまでもなく、法律や国家といった概念もサピエンスの想像力の産物であり、そうした虚構を見知らぬ他人と共有することでそれらは集団的に構築された現実となります。
物語の共有とは言うまでもなく価値観・価値体系の共有であり、それに従って社会の階層や主従関係などが構築され、狩猟採集民では想像もつかないような規模の複雑な共同体「国家」の出現に繋がります。

現在、西側諸国を始めとする多くの国で共有されている物語が資本主義・自由主義・個人主義です。思想の土台はヨーロッパで形成されましたが、その価値観の多くは世界中で共有されています。こうした動きが著者の言う「統一に向かう世界」です。中でも最も普遍性がある虚構は、宗教でも思想でもなく「貨幣」です。

「貨幣」が信用に基づく虚構であることは、信用が崩壊して価値がなくなることがある事実からも明白です。これはあくまでも多くの人が紙幣・硬貨またはデジタルの数字を受け入れ、物品やサービスと交換してくれるという相互信用と貨幣発行元の保証によって成立しており、米国と対立しているイスラム教国家でも米ドルを喜んで受け入れるというように、強い通貨は国家ばかりでなく主義主張や宗教を超えて共有されている虚構です。この意味ではサピエンスが作り上げた虚構の中で最強のものと言えるでしょう。

次に訪れる科学革命は、貨幣の力、すなわち資本主義と領土の拡大を求める帝国主義の結び付きによって協力に推進されますが、その出発点は「Ignoramus(私たちは知らない)」という無知の認識です。
知らないからこそ「知りたい」という探求心が湧き、それが調査や研究の推進力になるわけです。
これは全知全能の神が存在する世界観では発展しないと著者は指摘しています。なぜなら、全ては聖書なりコーランなりに記されているはずであり、人間は神の言葉を理解するために努力すれば十分ということになるからです。

ヨーロッパは中世や近世において特別に強力でも豊かでもありませんでしたが、大航海時代に「知りたい」と「富を増やしたい」と「領土を広げたい」が初めて統合され、前代未聞の原動力となり、新しい世界を「発見」して植民地化し、富を搾取強奪することで、それまで強大だった中国やイスラム世界をも凌駕するようになったと著者は言います。

ヨーロッパ人たちはダーウィンの進化論のアイデアを受け入れ、自分たちが優れた人種であるから世界で支配的な地位を築いたという新たな「物語」を語り始め、自分たちの科学や価値観を世界中に拡散しました。
第二次世界大戦後は、特に個人主義と「人権」が新たな物語として語られていると言えます。

何かの宗教やイデオロギーを信じ、唱える人たちは決して認めようとしませんが、どれをとっても「自然の摂理」などではなく、サピエンスの想像力に基づく物語の共有であり、共有主観の虚構に過ぎません。
科学万能主義もその一種です。
「自然の摂理」とは人類が滅亡しても変化しないであろう万有引力などの現象だけであり、それが誰かに認知されるか否かに関わらず存在します。

著者のこの指摘は、宗教や思想的・政治的対立の空しさを的確に示していると思います。
しかし著者は「全ては物語(虚構)」という指摘だけにとどまらず、最後に幸福について考察しているのが興味深いです。

農業革命は、食料余剰と人口増加をもたらした結果、大きな社会と分業化を可能にし、全体的に見れば繁栄をもたらしましたが、個人個人を見ると、一握りの支配階級を除いて皆苦役が増えたり、病気が増えたりして、必ずしも幸せをもたらしたとは見えません。
科学革命も人類に未曽有の物質的豊かさをもたらし、現在のサピエンスの能力を超える超人すら遺伝子工学で作り出せるかもしれないところまで理論と技術双方が発展してきましたが、それで人々はより幸せになったのかと著者は問いかけます。

最後の2章とあとがきは著者の幸福についての考察で、本当はこれを語りたいがために膨大な前置きをホモ属の発生から始めたのではないかと思えるくらい哲学的です。
サピエンスは今また新たな物語を必要としている。



書評:奥山真司監修、『サクッとわかる ビジネス教養  地政学』(新星出版社)

2022年04月01日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教


ロシアによる大々的なウクライナ侵攻の影響で、にわかに地政学が脚光を浴びているようで、関連書籍が注目を集めています。
このため、何冊か私の目にも止まり、そのうちの一冊『サクッとわかる ビジネス教養  地政学』をサクッと読んでみました。

私の地政学的知識は非常に断片的で、ヨーロッパに偏っていたのですが、本書によって多少その偏りが是正されたと思います。

まず、そもそもの話として地政学とは何か、という問題から始まり、宗教・文化等に関わらず、地理的な条件から国の振る舞いを見るために、世界勢力をランドパワー(内陸国家)とシーパワー(海洋国家)に分割し、外に出ようとするランドパワーとそれを抑え込もうとするシーパワーの対立と捉え、これを踏まえて世界各地の物流(主に海路)の要所をめぐる紛争の歴史的経緯を見て行きます。
基本的に地図上で状況を分かりやすくビジュアル化するのが地政学の本領なので、世界史でよく出てくる色分けされた地図も使われるのですが、各国がマンガ的に擬人化されているので、さらにマンガ的に理解しやすくなっています。
これならば確かに多忙なビジネスマンでも「サクッとわかる」と断言できます。
大まかな国際関係上の紛争問題の原因と経緯もサクッと把握でき、感情論や理想論抜きに各勢力・国家の持つ地政学的事情や動機から現状を理解し、今後の動きもある程度までは予想できるので、非常に面白いです。

なぜ北方領土は返還されることがないのか、なぜ沖縄に米軍基地が集中しているのか、なぜちっぽけな尖閣諸島が重要なのか、なぜロシアがクリミア半島を併合し、ウクライナを抑えようとするのか等々

もちろん本書は地政学の「さわり」くらいの表面的な入門書に過ぎませんが、そういうものと無縁な生活を送っている大抵の一般人にとっては、まずそのようなものの見方があるということを学ぶのが肝要かと思います。

目次
はじめに
Chapter 1 地政学のルールを理解せよ! 基本的な6つの概念
Chapter 2 関係国とのリアルな情勢を知る 日本の地政学
Chapter 3 世界を動かす大国の戦略が見える アメリカ・ロシア・中国の地政学
Chapter 4 さまざまな思惑が複雑に絡み合う アジア・中東・ヨーロッパの地政学
おわりに