徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:横山秀夫著、『半落ち』(講談社文庫)

2016年09月29日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

引き続き横山秀夫作品です。『半落ち』(講談社文庫、2005.9)はリレーのような小説です。短編集のような体裁で、1編ごとに主人公が変わるのですが、時系列に沿ってアルツハイマーの妻の嘱託殺人をしたと自首してきた現職警察官・梶聡一郎(49)を、警察の取り調べから検察・裁判所を経て刑務所まで追っていく構成です。

動機も経過も素直に明かす梶。だけど、殺害から自首までの2日間の行動だけは頑として語ろうとしません。梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは何か… これは最後に明かされます。

面白いのは、「半落ち」のまま梶は司法の「ベルトコンベア」に乗せられ、刑務所までたどり着いてしまうことです。目次は以下の通り:

  1. 志木和正の章 ->捜査一課強行犯指導官。梶の取り調べを担当。
  2. 佐瀬銛男の章 ->検事。梶の起訴を担当。
  3. 中尾洋平の章 ->東洋新聞記者。梶の殺害後の「空白の2日間」を追い、虚偽証言と警察と検察の裏取引を記事にする。
  4. 植村学の章 ->私選弁護士。梶の殺害後の「空白の2日間」を探ろうとするが、結局そっとしておくことに。
  5. 藤林圭吾の章 ->左陪席裁判官。梶に懲役刑の判決を下す。
  6. 古賀誠二の章 ー>刑務官。梶の監視担当。

この作品の本来の主役は梶総一郎のはずですが、彼はあくまでも他者目線で描き出されるだけで、自らは決して語らない謎めいた人物であることがストーリー構成として変わっていて、興味深いと思いました。

サブテーマとして、「人間五十年」があり、登場人物の多くが50手前だったりします。人生を振り返り、悔いたり失望したり。先が見えてきて失望したり。まああまり希望に満ちた年齢層ではないのは確かで、犯罪を犯したり、自殺したりするのが増えるのも50手前が多いらしいですね。その意味では、『半落ち』は中年以上向けの読み物ですね。(笑)

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書評:横山秀夫著、『第三の時効』(集英社e文庫)

書評:横山秀夫著、『64(ロクヨン) 上・下巻』(文春e文庫)

書評:横山秀夫著、D県警シリーズ『陰の季節』&『刑事の勲章』(文春e文庫)

書評:横山秀夫著、『臨場』(光文社文庫)

書評:横山秀夫著、『深追い』(実業之日本社文庫)

書評:横山秀夫著、『動機』(文春文庫)


ドイツ銀行危機~政府は緊急救済計画を策定中か?

2016年09月29日 | 社会

政府のドイツ銀行緊急救済計画を報じたのはツァイトで、具体的なソースは言及されていませんが、アメリカ政府が罰金140億ドルを一歩も譲らなければ、ドイツ銀行の財務は危機的状況に陥るとし、その場合は国がドイツ銀行株25%を取得し、部分国営化を実行する計画のようです。

本当のところは分かりません。ドイツ政府及びドイツ銀行が緊急救済計画をはなから否定しているからです。ドイツ政府は過去に何度も「ドイツ銀行救済のために税金を投入することはない」と主張してきました。しかし、ワーストケースシナリオとしてそのような救済計画が策定されていてもおかしくはないと思います。なんにでも「万一に備える」のがドイツです。冷戦時代は常に「第3次世界大戦シナリオ」を策定し、それに応じて準備・訓練などをしてきたのですから、現在、「テロシナリオ」や「金融危機シナリオ」が描かれ、その万一の時のための対策が練られているのはむしろ自明の理ではないかとも思います。ただ、それを公表して無用なパニックを起こさせたり、株式市場を不安にさせて余計に事態を悪化させるのは問題なので、公にはそれを否定する、ということでしょう。

ドイツ銀行総裁のジョン・クライアンも、アメリカ政府から科せられた罰金140億ドルがあったとしても、国の支援なしに困難を乗り切ることができると主張しています。「状況は外から見える印象ほど悪くはない」「去年より財務状況は改善された」とクライアン氏。

罰金140億ドルのインパクトは大きく、今週の初め、ドイツ銀行の株価は6%以上下落し、10.29ユーロとなりました。昨日(9月28日)は少し持ち直して、10.94ユーロでしたが、低迷が続いていることは確か。3年間で67.5%値崩れしました。

もっとも株価は往々にして実経済とは異なる次元で動くので、実際のところは株価から読み取れないわけですが。

ドイツ銀行の第三四半期報告書は10月27日に公表予定。

 

参照記事:
ツァイトオンライン、2016.09.28、「政府はドイツ銀行のための緊急計画を策定中」 
ツァイトオンライン、2016.09.27、「ドイツ銀行: 酷い二日酔い
シュピーゲルオンライン、2016.09.28、「ドイツ銀行危機:政府はドイツ銀行救済計画を否定」 


ドイツ銀行の危機についてー【ドイツ財政危機】ではありません


書評:横山秀夫著、『動機』(文春文庫)

2016年09月28日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『動機』(文春文庫、2002.11)は、珍しく警察小説以外の作品が同時収録されています。

表題作は警察を舞台にしており、警務部提案で警察手帳一括管理を試験的に導入した矢先に、警察手帳30冊が一度に消える事件が起こります。普通に考えれば、外部犯行ではなく、内部犯行で、一番濃厚な疑いをもたれるのは手帳保管庫の鍵の管理責任者なのですが、当の本人は署内でも「軍曹」とあだ名され、恐れられるほど真面目一徹で礼儀にうるさい退官間際の老警官。警察手帳を盗む動機が何もない。警察手帳一括管理の提案者である警務課企画調査官貝瀬正幸は窮地に立たされます。捜査権限はないものの、居ても立っても居られず、独自に調査を開始。さて、犯人とその動機とは?

落としどころが人情的で、思わずほっこりしてしまいます。

その他の収録作品は、『逆転の夏』、『ネタ元』、『密室の人』の三編です。

『逆転の夏』は、結構ボリュームがある中編小説といったところでしょうか。12年の懲役を終えて出所した女子高生殺人犯の山本洋司が主人公。保護司の斡旋で遺体運送業で働くようになった山本はある日、謎の人物から殺しの依頼をしようとする電話を受けます。前科者であることが職場にばれることを怖れる気持ち。殺人事件の経緯や自分一人が悪者になってしまったことに対する悔しさや、「質の悪い女子高生に引っかかって人生を台無しにした」という被害者意識などが克明に描き出さされており、「殺人犯」というレッテルがいかに薄っぺらなものであるかが実感できます。

『ネタ元』では地方新聞の女性記者水島真知子が主人公。サツ回りを生業とし、「女の子」「娘っ子」扱いに反発しながら頑張ってますが。。。難しい世界ですね。刑事も事件報道もより強い「男の世界」。ダイバーシティがどうたらという建前はどうあれ、実際にはそうそう女性が輝いて活躍できるような場ではありません。それでも彼女には秘密の【ネタ元】があるらしい。。。

『密室の人』では裁判長安斎利正が主人公で、なんと彼が公判中に居眠りしてしまったことから物語がスタートします。しかも、こっくりと舟をこいだところを見られたのではなく、「美和」と奥さんの名前を寝ぼけて(?)呼んでしまい、法廷中の注目を浴びてしまうのです!記者連中には探りを入れられ、所長にはどやされ、被告人弁護士にはコート替えを要請され、奥さんの様子もかなりおかしい。

4編の中で一番サスペンス要素が多いのは『逆転の夏』で、結構読みごたえもあり、面白かったです。他の3作はそこそこ読めて、いい暇つぶしくらいのレベルのように感じました。

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書評:横山秀夫著、『第三の時効』(集英社e文庫)

書評:横山秀夫著、『64(ロクヨン) 上・下巻』(文春e文庫)

書評:横山秀夫著、D県警シリーズ『陰の季節』&『刑事の勲章』(文春e文庫)

書評:横山秀夫著、『臨場』(光文社文庫)

書評:横山秀夫著、『深追い』(実業之日本社文庫)


書評:横山秀夫著、『深追い』(実業之日本社文庫)

2016年09月26日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

引き続き横山作品です。

『深追い』(2005.5)もやはり警察を舞台にする短編集ですが、全編に一貫して登場する人物がいない群像劇で、それぞれの作品の関連性もありません。ただ舞台が【三ツ鐘署】という署と官舎が同じ敷地内に立っている職住一体化が進み過ぎたきらいのあるところが唯一の共通点となります。【三ツ鐘村】と揶揄される程プライベートがあまりない閉鎖的な環境における独特の葛藤みたいなものも描かれています。

収録作品は7編:『深追い』、『引き継ぎ』、『又聞き』、『訳あり』、『締め出し』、『仕返し』、『人ごと』。

警察を舞台にしている小説ではありますが、刑事事件が起こるのは『引き継ぎ』(空き巣)と『締め出し』(強盗殺人)くらいで、他はどちらかというと日常的(?)な事件です。

警察組織そのものの問題や組織内人事に関する問題、また警察官という職業ならではの葛藤などが生き生きと描かれているのは、「横山節」とでも命名できるのではないかと、彼の作品を何冊か読んだ今思い出しています。

その中で、一番ほっこりできたストーリーが『人ごと』。主人公は草花博士という異名をとる三ツ鐘署会計課の一般職員西脇大二郎。交通事故現場に花を植えたり、行く先々の警察署に花壇を作ったりする特殊性で、警察内ではちょっとした有名人。署に回って来た落とし物の一つに小銭と彼の馴染のフラワーショップの会員証の入ったお財布を見つけ、本来は交番に戻すべき案件を自分で引き受けたことで、そのお財布の持ち主の、市役所公園緑地課勤務だったという老人に出会います。この二人の縁と、老人の確執のできてしまった3人の娘たちの思いが最後にほっこりと温かい感動をもたらします。

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書評:横山秀夫著、『第三の時効』(集英社e文庫)

書評:横山秀夫著、『64(ロクヨン) 上・下巻』(文春e文庫)

書評:横山秀夫著、D県警シリーズ『陰の季節』&『刑事の勲章』(文春e文庫)

書評:横山秀夫著、『臨場』(光文社文庫)


書評:横山秀夫著、『臨場』(光文社文庫)

2016年09月25日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

横山秀夫尽くしです。あと4冊彼の小説が待機しています。

今日読んだのは『臨場』(2007.9)。「終身検視官」、「クライシス・クライシ」などの異名を持つ倉石義男が活躍する短編集。彼が主人公の物語はなく、収録作品にはそれぞれ別の主人公がいて、倉石は脇役として活躍します。誰もが自殺や病死と疑わない案件を殺人と見破り、また、殺人の見立てを「事件性なし」と覆すその慧眼で、敵多しと言えども、心酔者も多く、「倉石学校校長」の別名もあるほど。

収録作品は8編。

「赤い名刺」

「眼前の密室」

「鉢植えの女」

「餞」

「声」

「真夜中の調書」

「黒星」

「十七年蝉」

検視官が登場する話ですので、当然どの作品にも死体が出ます。偽装自殺、本当の自殺、他殺に見せかけた自殺、明らかな他殺。倉石は現場から、そして仏からどうしてその死に至ったかを的確に読み取っていきます。刑事ではなく、「鑑識」なので、犯人を挙げるようなことはしないのですが、場合によっては犯人の検討もつけてしまうこともあります。死んだ人に焦点が当たっているところが、刑事ものとは少し違っている部分でしょう。

スタイルは同じ短編集ということで、『第三の時効』や『陰の季節』と似たような感じで、「典型的な横山作品」と言えるのかも知れません。まだ彼の作品をそれほど読み込んでいないので、断言はできませんが。

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書評:横山秀夫著、『第三の時効』(集英社e文庫)

書評:横山秀夫著、『64(ロクヨン) 上・下巻』(文春e文庫)

書評:横山秀夫著、D県警シリーズ『陰の季節』&『刑事の勲章』(文春e文庫)




ドイツ:世論調査(2016年9月23日)~ドイツのための選択肢(AfD)全国的に支持率上昇

2016年09月24日 | 社会

ZDFの世論調査ポリートバロメーターが9月23日に発表されましたので、以下に結果を私見による解説を加えつつご紹介いたします。

まずはタイトルにあるように政党支持率から。

連邦議会選挙

もし次の日曜日が議会選挙ならどの政党を選びますか?:

DU/CSU(キリスト教民主同盟・キリスト教社会主義同盟) 33%(-2)
SPD(ドイツ社会民主党)  22% (変化なし)
Linke(左翼政党) 10%(+1)
Grüne(緑の党) 13%(変化なし)
FDP (自由民主党) 5%(-1)
AfD(ドイツのための選択肢) 13%(+2) 
その他 4% (変化なし)

メルケル首相率いるCDUの支持率が2%下がった分、AfDが支持率を伸ばしています。メクレンブルク・フォアポンメルン州、ベルリン州の選挙でかなりの得票率で議会入りしたAfDは、政策的な深みはともかく、得票率ではすでに古くからの「国民政党」とほぼ並んでいます。それに合わせるように、難民への暴力も増えており、経済界からはドイツのイメージがそのせいで悪くなり、経済的なダメージを受けるかもしれないという心配する声が出てきています。CDUの政治家たちの中にはAfDに票を奪われるのを恐れるためか、かなり右翼的な発言をツイッターなどで呟いて物議を醸しています。

 

AfDが連邦議会で発言権を得たとしたら、政治は…?

ずっと良くなる 1%
よくなる 8%
変わらない 13%
悪くなる 29%
ずっと悪くなる 41% 

AfDは支持率を伸ばしていても、それは既成政党への反発を表現しているに過ぎず、AfDに政治能力があるとは誰も思ってないことが、「(すごく)悪くなる」と回答した人が70%も占めている結果によく表れています。AfDの能力がないことが分かっているのに、投票する人たちはまるで反抗期の子どものようです。

 

連立モデルの評価:

CDU/CSU+緑の党

いい 38%
悪い 40% 

CDU/CSU+SPD

いい 37%
悪い 41%

SPD+左翼政党+緑の党

いい 33%
悪い 51% 

 

AfDとの協力は:

全解答者

ない方がいい 55%
あってもいい 41%

支持政党別「ない方がいい」

CDU/CSU 65%
SPD 71%
左翼政党 56%
緑の党 74%
FDP 51%
AfD 6% 

 

政治家評価

政治家重要度ランキング(スケールは+5から-5まで)

  1. フランク・ヴァルター・シュタインマイアー(外相)、2.2(+0.2)
  2. ヴィルフリート・クレッチュマン(バーデン・ヴュルッテンベルク州首相、緑の党)、2.0 (-0.1)
  3. ヴォルフガング・ショイブレ(内相)、1.7(+0.1)
  4. アンゲラ・メルケル(首相)、1.1(+0.1)
  5. グレゴル・ギジー(左翼政党)、1.0(+0.1)
  6. トーマス・ドメジエール(内相)、0.7(-0.1)
  7. ジーグマー・ガブリエル(経済・エネルギー相)、0.5(+0.1)
  8. ウルズラ・フォン・デア・ライエン(防衛相)、0.3(-0.1)
  9. ホルスト・ゼーホーファー(CSU党首・バイエルン州首相)、0.3(-0.4)
  10. サラ・ヴァーゲンクネヒト(左翼政党)、0.2(+0.5)

 

メルケルとゼーホーファーの比較(スケールは+5から-5まで)

全回答者:

メルケル 1.1
ゼーホーファー 0.3

CDU/CSU支持者: 

メルケル 3.6
ゼーホーファー 1.0

AfD支持者:

メルケル -2.8
ゼーホーファー 1.6


CSU党首であるゼーホーファーが自政党支持者より、AfD支持者からの方が高評価を受けているのは注目に値します。彼は、CDUとCSUが姉妹政党であることが疑問に思われるくらい執拗にメルケル首相に嚙みついてます。決して建設的な批判とは思えないので、党内ではむしろ「調和を乱すもの」とちょっと白い目で見られているようですね。私はメルケル首相を無為無策の無能な政治家だと思ってますが、ゼーホーファーにキャンキャン噛みつかれても、おっとりと構えて「話し合いましょう」と態度を崩さない点では結構感心しています。

 

 首相候補はどちらがいい?

アンゲラ・メルケル: 全体 ― 54%、CDU/CSU支持者 ― 86%

ジグマー・ガブリエル:全体 ―41%、SPD支持者 ― 57%

ジグマー・ガブリエルは現経済・エネルギー相ですが、何かと反発の多いカナダとの自由貿易協定(CETA)を年内に締結する意向を公言しているので、CETAやTTIP(EU・アメリカ自由貿易協定)の反対者が多いSPD支持者から首相候補として支持されていないようです。

 

首相としてどちらが好ましい?


メルケル 56%
ガブリエル 30%
分からない 14% 

 

どちらが首相として好ましい?(支持政党別)

CDU/CSU支持者

メルケル 92%
ガブリエル 5%

SPD支持者

メルケル 36%
ガブリエル 57% 

メルケル首相はSPD支持者にも結構好かれているようです。対立候補のガブリエルが人気なさすぎるのかも知れませんが。

 

難民政策

バルカンルートが今年の3月に閉鎖されて、ドイツに来る難民は去年に比べてガクッと減りましたが、それでも難民ホットスポットのあるギリシャやイタリアの負担を軽くするために難民を一定数受け入れなければならないことは多くの人が承知しています。現在、年間20万人の上限を設けることが議論されています。どちらかと言えば賛成の人が多いようです。

年間20万人の上限には?

賛成 54%
反対 42%
分からない 4% 

 

EU難民政策における論争で、どちらが勝つ?

メルケル 54%
ゼーホーファー 38%
分からない 8% 


今日(9月24日)ウイーンで開催された難民サミットでは、不法入国ルートとしてのバルカンルートの閉鎖状態を今後も保持することが決議されました。同時にシェンゲン協定国外境界の強化及び不法入国斡旋業者撲滅のため、国境警備機関であるFrontexの増員も決議されました。しかし、EU内での難民配分に関しては合意に至らず、難民のための合法ルートについは議題にすらなっていないため、今後もたくさんの人たちが地中海の藻屑となってしまうことでしょう。

バルカンルートも完全には閉鎖されておらず、今でも少なくなったとはいえ、難民が流入してきていますが、セルビアから先には進めないようです。セルビアの国境警備強化は功を為さず、不法入国・滞在者が増える一方なので、サミットでEUの協力の必要性を訴えていました。

参照記事:ツァイトオンライン、2016.09.24、「難民サミット:難民は現在セルビアで難破

 

この世論調査はマンハイム研究グループ「ヴァーレン(選挙)」によって行われました。インタヴューは偶然に選ばれた有権者1.242人に対して2016年9月20日から22日に電話で実施されました。

次の世論調査は2016年10月16日ZDFで発表されます。


ドイツ・ベルリン州市議会選挙~東西差未だ歴然

2016年09月19日 | 社会

2016年9月18日はベルリン州の市議会選挙でした。ベルリン州はベルリン市一市のみからなる州です。そのため市議会イコール州議会となります。

選挙結果(全体)

さて、以下は選挙結果です。国民政党と呼ばれるSPD(社会民主党)とCDU(キリスト教民主同盟)の得票率が他政党とほとんど変わらないくらいまで下がっているのが特徴的です。CDUの得票率17.6%は史上最低レベルです。

AfD(ドイツのための選択肢)は今年州議会選挙のあった他州と比べると、得票率はそれほど伸びませんでした。投票率は66.8%で、前回(2011年)より改善されています。

SPD(ドイツ社会民主党)  21.6%
CDU(キリスト教民主同盟) 17.6%
Grüne(緑の党) 15.2%
Linke(左翼政党) 15.6%
海賊党 1.7%
FDP (ドイツ自由民主党) 6.7%
AfD(ドイツのための選択肢) 14.2%
その他 7.4% 


2011年の得票率との比較:

 
ベルリン市議会政党別議席獲得数(全160議席):
 

東ベルリンの結果(投票率66.6%、前回比+8.8%ポイント)
 
SPD(ドイツ社会民主党)  19.3%
CDU(キリスト教民主同盟) 13.1%
Grüne(緑の党) 12.6%
Linke(左翼政党) 23.4%
海賊党 1.9%
FDP (ドイツ自由民主党) 4.0%
AfD(ドイツのための選択肢) 17%
その他 8.6% 
 
 
 
政党ごとの得票率を東西ベルンに分けてみると、ベルリンは壁崩壊後27年経っても、未だに分断された都市であることが浮き彫りにされます。西ベルリンではSPDが最大政党であるのに対して、東ベルリンでは旧東独政権党の後継政党である左翼政党が最大政党となっています。また、AfDの得票率も東の方が約5%ポイント高くなってします。

西ベルリンの結果(投票率67.1%、前回比+5.1%ポイント)

SPD(ドイツ社会民主党)  23.2%
CDU(キリスト教民主同盟) 20.9%
Grüne(緑の党) 17.1%
Linke(左翼政党) 10.1%
海賊党 1.6%
FDP (ドイツ自由民主党) 8.6%
AfD(ドイツのための選択肢) 12.1%
その他 6.4% 

 
 
 
希望する連立政権:
SPD/左翼政党/緑の党 44%
SPD/CDU/緑の党 32%
SPD/CDU/FDP 28%
SPD/緑の党/FDP 21%
 
 
 
AfD(ドイツのための選択肢)投票者分析
 
AfD投票者を職業別にみると、労働者が25%で、最大グループとなっています。次に公務員16%、会社員12%、自営業12%。
 
年齢別にみると、45-59歳及び60歳以上のグループが多くなっています。
 
AfD投票者には高学歴者の割合が少なくなっています。
基幹学校卒 18%
中等教育終了(職業学校卒) 21%
大学入学資格 11%
大学卒 7% 
 
AfD投票者の2011年の投票先を見ると、半数近くの45%がその他または無投票だったことが分かります。
SPD(ドイツ社会民主党)  12%
CDU(キリスト教民主同盟) 22%
Grüne(緑の党) 2%
Linke(左翼政党) 7%
海賊党 10%
FDP (ドイツ自由民主党) 2%
その他または無投票 45%
 
 
投票先の決定により重要だったのは、ベルリン州政治39%に対して国政政治54%となっており、AfD投票者にとっては地元の政治より国政政治の方が重要だったことが浮き彫りになっています。
全投票者では、ベルリン州政治の方が重要と回答した人が63%で、国政が投票先決定に影響したという人は32%にとどまりました。各州の代表が連邦参議院において、内容によっては国政に参加するので、国政を投票先決定の基準にするのは必ずしも間違ってはいないのですが、AfD投票者たちの場合、ただ単にメルケル首相の難民政策への不満を表すためというのが主な動機になっているようです。
 
難民問題は投票先決定に重要?:
全体
はい 57%
いいえ 42%
 
AfD支持者
はい 98%
いいえ 2% 
 
98%というのは本当に圧倒的な数字です。AfD投票者たちは今回のベルリン市議会選挙で、難民問題という市議会では殆ど影響を及ぼすことができないことで投票先を選んだことになります。地方政治は関心が薄かったか、悪く言えば、視野狭窄が起こっていたと言えます。
 
重要な問題(全体)
難民/統合 44%
住宅市場/家賃 30%
学校/教育 23%
交通 14%
犯罪 13% 
 
 
 
東西ベルリンでは共通点と相違点のどちらが多い?
 
共通点 54%
相違点 42% 
 
今回初めて、「共通点の方が多い」という回答が「相違点の方が多い」という回答を上回りました。上の投票結果で見るとまだまだ東西の違いは顕著ですが、それでも「共通点の方が多い」と言えるだけ、東西ベルリンの風通しが良くなっているのかも知れません。
 
参照記事:ZDFホイテ、2016.09.19、「ベルリン選挙の分析

書評:横山秀夫著、D県警シリーズ『陰の季節』&『刑事の勲章』(文春e文庫)

2016年09月19日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

ドラマ化及び映画化で話題となった『64(ロクヨン)』のD県警シリーズは、この『陰の季節』という短編集が第1弾でした。『刑事の勲章』は同シリーズ第4弾の短編。

『陰の季節』は表題作他、『地の声』、『黒い線』、『鞄』の3作が同時収録されています。どの作品にも警務部の『陰の人事部長』と呼ばれる二渡真治が登場します。

表題作では二渡真治が主人公で、天下り人事で、1人天下り先での居座りを希望した人がいたので、今年勇退することになっている人の天下り先が無くなってしまうことになり、問題発生。二渡は事情を聴き、説得するために元ベテラン刑事の元に行きますが、けんもほろろにあしらわれてしまいます。さて真相は?

『地の声』では、監察官の新堂が主人公で、パブのママと浮気しているというタレコミのあった最年長警部を調べることに。彼が警部から警視に昇進するチャンスは今年が最後なので、新堂は中傷誹謗のせいでそのチャンスが無くなってしまうのは気の毒に思い、良心的に調査しようとしますが。。。

『黒い線』では若い婦警が突然無断欠勤するところから始まります。失踪?事故?47人の婦警たちを束ねる警務課婦警担当係長七尾友子は、未だ出勤してこない平野瑞穂巡査の行方を追います。平野瑞穂はひったくり犯の似顔絵をそっくりに描いたと新聞記事になったばかり。逆恨みを買った可能性もある。。。

『鞄』の主人公・警務部秘書課課長補佐・柘植正樹は県議会の「議会対策」が職務。定例議会における一般質問の内容をあらかじめ調べて、回答を用意するために飛び回っていましたが、ある保守系議員が「爆弾」質問を用意しているという噂を聞きつけ、その質問の内容を知ろうと右往左往することに。

どの作品も県警内の人事に関わることがテーマで、典型的な警察小説とは言えないストーリーですが、サスペンス要素は十分にあり、なかなか面白かったです。警察は良くも悪くも日本の「カイシャ」なのだなと納得してしまう内容です。


『刑事の勲章』は電子書籍オリジナル短編で、『64(ロクヨン)』に連なる「D県警シリーズ」未収録作。警務・観察を経て、いきなりN署の刑事官に配属された上原勇三が主人公。畑違いの人事に二渡の真意がつかめずに悶々とする上原。配属先ではOB会に事件の進捗をつつかれ、部下には憐憫と共に無視される有様。やはり懲罰人事だったのでしょうか?

ちょっと主人公が気の毒な感じですが、ストーリーとしてはあまり面白くなかったです。

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書評:横山秀夫著、『第三の時効』(集英社e文庫)

書評:横山秀夫著、『64(ロクヨン) 上・下巻』(文春e文庫)

 



書評:横山秀夫著、『64(ロクヨン) 上・下巻』(文春e文庫)

2016年09月18日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『64(ロクヨン) 上・下巻』は、2012年「週刊文春ミステリーベスト10」第1位、13年「このミステリーがすごい!」第1位など高い評価を得た警察小説です。2015年のテレビドラマ化につづき、2016年に前編(5月7日公開)・後編(6月11日公開)として映画化されたヒット作。

昭和64年に起きたD県警史上最悪の未解決誘拐殺害事件を巡り、時効1年前の平成14年になって、刑事部と警務部がなぜか全面戦争に突入し、刑事上がりの広報官三上は己の立ち位置を自問自答し続けることに。彼の娘は家出中で、そのことが弱みとなって、そりの合わない上司の手足にならざるを得なくなっている状況です。上司は彼を決して信頼せず、必要最低限の情報しか与えません。広報とマスコミの関係は匿名報道を巡って拗れまくり、こちらも全面戦争の様相を示してきます。そうした中で真相に少しずつ近づいていく三上を描く物語、とでもいうのでしょうか。上・下巻合わせて1100ページを超え、非常に読み応えがあります。

三上が少しずつ自己認識を掘り下げ、逃避している自分を自覚し、だんだん今現在の職責に目覚めていく過程、そして家出した娘及び奥さんへの理解を深めていく過程が、事件を追うサスペンス・メインストーリーにより深みを与えているように思います。

残念ながら三上の家出中の娘さんは最後まで見つからないままなんですけど。でも「ロクヨン」と記号化された誘拐殺人事件の「本ボシ」は見つかります。

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書評:横山秀夫著、『第三の時効』(集英社e文庫)


書評:横山秀夫著、『第三の時効』(集英社e文庫)

2016年09月17日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

なんとなくミステリーを読みたいと思い、「このミステリーがすごい」とかで薦められているものはないかと探した結果、横山秀夫の『第三の時効』にぶつかりました。

この文庫は、F県警捜査第一課を舞台にした短編集で、『第三の時効』は収録作品の一つ。収録作品は全部で6作:

  • 沈黙のアリバイ
  • 第三の時効
  • 囚人のジレンマ
  • 密室の抜け穴
  • ペルソナの微笑
  • モノクロームの反転

どれも何らかの殺人事件を扱っています。捜査第一課、強行犯係を舞台にしているので当然と言えば当然ですが。捜一には一斑から三班まであり、三人の班長達はそれぞれ癖があり、競争意識が激しく、互いにいがみ合ってる状況で、捜一課長の悩みも深いもよう。そうした捜一内の人間関係の絡みを描きつつ、担当事件のホシを挙げていく過程を割と淡々と描写しています。

登場人物はほぼおっさんばっかりなので、絵的にかなりむさくるしい感じですね( ̄∇ ̄;) それぞれのキャラも濃くて、どちらかというとうっとうしい。刑事だから仕方がないのでしょうけど、そうした濃ゆいキャラで執念深く事件を挙げていくんですね。

『第三の時効』と『密室の抜け穴』は特に真犯人が意外で、面白かったです。

難を言えば、どれも短すぎるということでしょうか。

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