徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 3 月下賢人、堂に垂せず』(ビーズログ文庫)

2018年05月29日 | 書評ー小説:作者ア行

『茉莉花官吏伝』の3が届いたので、バカンスの荷造りしなければいけないというのについつい読んでしまいました。

茉莉花が手っ取り早く手柄を立てられるように「荒れた地」に派遣するという話で2巻が終わっていたので、この巻では地方へ赴任する話かと思いきや、州牧補佐として赴任した地方から「地方官交流制度」を通じて更に隣国・赤奏国へ出向することになります。その赤奏国は皇帝位を巡る内乱の一歩手前状態。茉莉花は赤奏国皇帝の暁月に宰相補佐として国の立て直しと敵軍との「和平交渉」を任されますが、王城に残っていた官吏や武官は少なく、物資も足りない状態で、「指示を出す」ことに慣れていない新米官吏には荷が重い話です。

そんな中で彼女は舒海成(じょ・かいせい)という優秀だけどなぜか出世をきらい能力を隠してるっぽい文官に出会い、彼と仲良くなります。そうして内乱を回避するための作戦を練り、その第一段階は何とか成功します。

赤奏国皇帝の暁月は茉莉花を自分の手元に残そうと、舒海成に彼女との結婚を提案するところでこの巻は終了します。赤奏国編はまだ続きそうですね。

茉莉花は特に頭の回転が速いというわけでもなく、自己評価も随分と低いですが、「人として当たり前のこと」をするために文官の力を使うというその当たり前の感覚を持ち続けている善良なところが魅力です。『おこぼれ姫と円卓の騎士』の主人公の王女レティ―ツィアは「騎士王」という神の生まれ変わりで様々な超人的能力をもっており、眉目秀麗、頭脳明晰というスーパーキャラでしたが、茉莉花は「記憶力が超人的にいい」という以外はごく普通のお人好しなお嬢さんなので、今後の成長と活躍がより楽しみな感じですね。


書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 皇帝の恋心、花知らず』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『茉莉花官吏伝 2~ 百年、玉霞を俟つ 』(ビーズログ文庫)

書評:石田リンネ著、『おこぼれ姫と円卓の騎士』全17巻(ビーズログ文庫)


経過観察(がん闘病記25)

2018年05月29日 | 健康

今日は抗がん剤治療が終わってから2回目のがん専門医との経過観察面談でした。

血液検査は異常なし。ただ、CVポートからの採血には失敗し、腕から採血されてしまいました。正直、かなり痛かったです。

血液は異常なしだったので、その他は私の健康状態一般について話したわけなんですが、指先のしびれがまだあるとか、髪が伸びるのが遅いとか、傷の治りが遅いとか、歯槽膿漏が酷くなって歯がぐらぐらし、少なくとも2本は救いようがなく、来月から治療を始めるとか、そういうことをお話しして、「そういう諸々の症状や後遺症がなくなるのにはしばらくかかる」と言われて、面談終了。45分も待たされたのにあっけないものです。

次のアポは3か月後の8月21日。

抗がん剤治療終了から半年経ったので、CT撮影をしてがんマーカーがどうなっているのか見ましょうということになって、放射線治療を受けた病院とは別の放射線科医院を紹介してもらい、6月18日にそちらに行くことになりました。

取り敢えず明日からスペインでバカンスを楽しんでまいります。その後に歯医者に通うことになりますが、しばらくはそのことも忘れます(笑)

がん闘病記26


唐突ながん宣告~ドイツの病院体験・がん患者のための社会保障(がん闘病記1)

化学療法の準備~ドイツの健康保険はかつら代も出す(がん闘病記2)

化学療法スタート(がん闘病記3)

抗がん剤の副作用(がん闘病記4)

え、緑茶は膀胱がんのもと?(がん闘病記5)

ドイツ:傷病手当と会社からの補助金(がん闘病記6)

抗がん剤投与2回目(がん闘病記7)

抗がん剤投与3回目(がん闘病記8)

医者が満足する患者?(がん闘病記9)

マリア・トレーベンの抗がんハーブレシピ(がん闘病記10)

抗がん剤投与4回目(がん闘病記11)

化学療法の後は放射線治療?!(がん闘病記12)

抗がん剤投与5回目(がん闘病記13)&健康ジュースいろいろ

抗がん剤のお値段とがん代替治療の死亡率(がん闘病記14)

抗がん剤投与6回目&障碍者認定(がん闘病記15)

化学療法終了…その後は(がん闘病記16)

放射線腫瘍医との面談(がん闘病記17)

放射線治療の準備(がん闘病記18)

放射線照射第一回(がん闘病記19)

放射線治療の経過(がん闘病記20)

放射線治療半分終了~副作用キター!(がん闘病記21)

直線加速器メンテナンスのため別病院で放射線照射(がん闘病記22)

放射線治療終了(がん闘病記23)

段階的復職~ハンブルク・モデル(がん闘病記24)


書評:ヨハン・ガルトゥング著、『日本人のための平和論』(ダイヤモンド社)

2018年05月28日 | 書評ー歴史・政治・経済・社会・宗教

『日本人のための平和論』は、第二次安倍政権以後、安保関連法制や集団的自衛権の容認など安全保障をめぐる日本の政策が大きく変化し、また憲法改正の動きも活発になってきたことに危機感を抱いた平和学の権威であるヨハン・ガルトゥング氏が、日本人のための緊急提言を記した本です。

目次

はじめに

第 I 部 日本の安全保障

1.集団的自衛権 - 後戻りできる選択か?

2.沖縄問題 - いまだに占領下にある日本

3.専守防衛 - 丸腰では国を守れない

第 II 部 中国・韓国・北朝鮮

4.領土問題 - 解決のための発想転換

5.中国 ー 拡張主義の背景にあるもの

6.北朝鮮 - 理解不可能な国なのか?

7.歴史認識と和解 - 慰安婦・南京事件・真珠湾

8.日本の外交と防衛 ー 4つの基本政策

第 III 部 構造的暴力と戦争

9.構造的暴力 - 戦争がなければ平和なのか?

10.米国の深層文化 - なぜ戦争をするのか?

11.テロリズム ー つくられた新たな敵

第 IV 部 平和の文化をつくる

12.移民・難民と日本 - 新しい共同体を目指して

13.平和運動への提言 - 議論と勇気と想像力を

14.紛争解決の教育 ー サボナ・メソッド

ガルトゥング氏の提言の中で素晴らしいと思うのは「日米安保条約」を破棄するのではなく、そのまま寝かせて埃がかぶるに任せて有名無実化させるという提案です。その上で米国からの真の独立を目指し、専守防衛を日本の安全保障の軸に据えて、隣国との対話による平和を目指すというものです。

ここでいう「専守防衛」とは次の3つの要素で構成されます(p.48)。

  1. 国境防衛ー日本の場合は海岸線防衛ということになる。
  2. 領土内防衛ー自然環境や都市を使って、十分な装備を有する市民軍(日本の場合は自衛隊)によって行う防衛。
  3. 非軍事的防衛ー不幸にして外国から攻撃され、侵略され、占領された場合に非暴力抵抗行動によって行う防衛。

大切なポイントは、長距離兵器を保有せず、短距離兵器のみに特化し、近隣諸国を挑発しないことです。

その点で、米軍が日本から撤退すればリスクは増すどころかむしろ減るという指摘が実に興味深いです。

領土問題の解決には共有と共同開発・管理が提案されており、平和のためには領有権を棚上げして実利を取る方がよいという考え方で、基本的にドイツ・フランス間やドイツ・オランダ間の領土問題棚上げと同じ原則と言えるでしょう。日中間の尖閣問題にしても日中国交正常化されてからしばらくは「棚上げ」が暗黙の了解になっていました。これを先鋭化させたのは某元東京都知事のアホでした。そうなる前にさっさと日中共同開発を実現し、利益分配率を取り決めてあれば、今頃「中国の脅威」が話題になることなどなかったことでしょう。いつか戦争になることを前提に国境をかっちり線引きしようとするからおかしなことになるのだと私は思います。

歴史認識にしても、まずはお互いに「直接」話し合う必要があります。それをせずに間接的なやり取りに始終していれば、国同士の関係に進展があるわけありません。安倍政権の「圧力」一辺倒、米国追従一辺倒では日本を危険にさらすばかりでしょう。こうして日本は独立した交渉相手としての地位をますます失うばかりです。

第 III 部「構造的暴力と戦争」は非常に示唆に富んだ考察で、マスメディアによって拡散される米国中心主義が根底にある世界観のあらがより明確に認識できるようになります。

第 IV 部の最後で取り上げられている紛争解決教育のためのサボナ・メソッドは非常に興味深い教育方法です。サボナ・メソッドの取り組みを始めた学校では(すぐにではないが)いじめがなくなったという。これこそ日本の学校に必要な教育ではないでしょうか。是非とも全国的に導入して欲しいものです。こうした教育が未来の平和につながっていくのだろうと思います。圧力をかけて解決する紛争などありませんし、まして暴力的な方法では一時的には勝った方に利益があるかも知れませんが、禍根を残すため、長期的にはむしろテロリズムを生み、安全や平和を継続的に脅かすことにしかなりません。

この本は、「中国の脅威」とか「北朝鮮の脅威」とかやたらと脅威論を振りかざし、軍備増強と対立先鋭化に走るすべての日本人に読んでもらいたいものです。もっとも、戦争推進派というのはすべからく平和的解決を望まず、「脅威論」は建前で、本音は自らの利益のためでしょうから、一般市民の方にはその「本音」を見抜く力を養ってもらいたいものですね。戦争をしなくても、軍拡政策によって儲ける人たちが必ず居るのです。兵士たちは「国のために戦っている」と思い込まされていますが、実際のところはそのような一部の戦争商人のために戦わせられているわけです。様々な「脅威論」の行き着く先は結局のところそこなので、踊らされてはなりません。


書評:今野敏著、『蓬莱 新装版』(講談社文庫)

2018年05月28日 | 書評ー小説:作者カ行

『蓬莱』は、ゲームソフト開発会社「ワタセ・ワークス」社長・渡瀬邦男がある日やくざ者に「蓬莱」というファミコン用ゲームソフトの発売を中止するように脅され、翌日にはそのゲームソフトの企画とプログラミングの大部分を担った社員が電車事故(?)で亡くなるというところから始まり、誰がなぜ「蓬莱」の発売中止を求めるのかという謎を探っていく推理小説です。

20年以上前の1994年の作品ということで、PKO問題などの社会情勢や、ポケベルやフロッピーディスクなどのアイテムにその時代を感じさせるものの、着想の面白さは色褪せていないと思います。ゲームの中に歴史的設定を織り込むのはよくあることですが、「蓬莱」には2世紀ごろの日本が織り込まれているとのことで、話の中でどんどんそこに隠されているものが明らかになっていきますが、その「織り込まれた歴史」自体も興味深いものがあります。話のテンポもよく一気読み必至です。

「ワタセ・ワークス」社のほぼ全員で「蓬莱」の謎に迫り、発売中止の圧力に抵抗しようとする一方、安積警部補は警察としてできる範囲ところで捜査し、「蓬莱」発売中止に絡む背後関係を洗おうとします。つまり『蓬莱』は以後続く「安積班シリーズ」第2期「神南署」の原点でもあります。私はこのシリーズは読んだことありませんけど、面白そうなのでこれからおいおい読んで行こうと思います。

渡瀬の行き着けのバー「サムタイム」のバーテンダー・坂本建造も味わいのあるキャラです。彼のドラマシリーズがあっても良さそうな感じですね。


書評:石牟礼道子著、『苦海浄土 わが水俣病』(講談社文庫)

2018年05月27日 | 書評ー小説:作者ア行

『苦海浄土 わが水俣病』は、そのタイトルの通り水俣病の記録で、患者自身の訴えや家族の思い、報道記事、目撃者の回想、医療記録などを集めたものです。

残念ながらよく構想されているとは言い難く、記録と水俣弁で語られる患者の訴えが交錯して非常に分かりづらい読み物です。地の分の文章のリズムもよくないので、読み進めるのに苦痛を感じました。

歴史的記録なら別のものを読んだ方が分かりやすいだろうと思います。

もちろん水俣弁で切々と語られる患者の心情などは、非常に心に迫るものがあり、行政に長いこと放置された水俣病患者及びその家族たちの悲哀に同情せずにはいられないのですが、読破するのは断念しました。

 


ボン・ベートーベンハウスで室内楽コンサート(カルテット)

2018年05月26日 | 日記

昨晩(2018/05/25)は女3人でボンのベートーベンハウスで室内楽コンサートに行って参りました。

演奏者は以下の通り:

Latica Honda-Rosenberg, Violine (バイオリン)
Peijun Xu, Viola (ビオラ)
Jens-Peter Maintz, Violoncello (チェロ)
Evgenia Rubinova, Klavier (ピアノ)

曲目:

Ludwig van Beethoven, Klavierquartett C-Dur WoO 36 Nr. 3 (ベートーベン、ピアノカルテット、ハ長調、作品番号なし36、第3番)
Gabriel Fauré, Klavierquartett g-Moll op. 45(フォーレ、ピアノカルテット、ト短調、op. 45)
Johannes Brahms, Klavierquartett g-Moll op. 25(ブラームス、ピアノカルテット、ト短調、op. 25)

ピアノカルテットを間近で聞いたのは初めてだったので新鮮でした。特にオーケストラの中ではほとんど目立つこともないビオラの音がまともに聞けて、その温かな柔らかさに感動しました。Peijun Xu(简历)さんは背が高くてスレンダーでかっこいい!と思いました。中国人だろうな、と辺りをつけていた通り、上海出身の方でした。

ピアニストのEvgenia Rubinovaさんは小柄でほっそりしているのにどこからそんなパワーが出て来るのかと不思議に思うほどパワフルな演奏で、しかも楽しそうに弾いている感じなのが好印象でした。現在ドイツを拠点に活動しているようですが、元はウズベキスタンのタシュケント出身で、主にロシアで音楽キャリアを積んだようです。「ユージニア・ルビノヴァ」という名はスラブ系でもロシア人ではなさそうな感じだったのでどこの人なのか不思議に思ってましたが、ウズベキスタンということでなんとなく納得しました。

このお二人の演奏が特に気に入ったのでCDを買っちゃいました。

バイオリニストのLatica Honda-Rosenbergさんはドイツ人で、実は予定されていたアレキサンダー何とかというバイオリニスト(上の写真の左下の男性)の代打で入ったようです。ベルリン芸術大学の教授とのことで、演奏技術は文句のつけようがありませんが、でも特に「お~!」と感動するようなこともありませんでした。

チェリストのJens-Peter Maintzさんもドイツ人で、ハンブルク出身。やはりベルリン芸術大学の教授です。この方が代打のバイオリニストを引っ張ってきたのかも知れませんね。安定した素晴らしい演奏でした。


ドイツ:2017年度難民申請&認定数統計~申請総数186,644件

2018年05月23日 | 社会

現在ブレーメンの難民保護不正認定スキャンダルが話題になっており、そういえば2017年度の難民統計を確認していなかったことを思い出したので、こちらに記載しておきます。

2017年度の難民認定申請総数は186,644件で、前年より約524,000件、72.5%減少しました。

出身国別に見ると、シリア・アラブ共和国が最も多く、25.4%(48,974)。イラク11.3%(21,930)、アフガニスタン6.6%(16,423)、エリトリア5.1%(10,226)と続きます。

下の地図は出身国を申請数に応じて色分けしたもので、4,067件以上の上位10か国が最も濃い色になっています。ちなみに10位は国ではなく、「出身国不明」です。

色分けは少ない順に

  1. グレー =0件
  2. 薄オレンジ1=1~500件未満
  3. 薄オレンジ2=500~1,000件未満
  4. 薄オレンジ3=1,000~3,000件未満
  5. オレンジ=3,000~4067件未満
  6. 濃いオレンジ=上位10位

 

申請者のうち男性は60.5%でした。

申請者の75.2%は30歳以下で、18歳以下は45%(89,207人)。

保護者同伴なしの未成年者による難民認定申請は9,084件(2016年度:35,939件)で、うち7,786(85.7%)が男子でした。最も多い出身国はアフガニスタン(24.4%)、エリトリア(17%)、ソマリア(13.3%)でした。

 

2017年度の難民保護審査処理総数は603,428件で、うち123,909件(20.5%)が難民保護認定、 98,074件(16.3%)が二次的保護認定、39,659件(6.6%)が国外退去禁止(つまり滞在容認)、232,307件(38.5%)が保護の却下でした。残りの109,479件(18.1%)は形式的な決断です。保護認定率は43.4%となりました。

詳細は"Das Bundesamt in Zahlen 2017 - Modul Asyl(2017年度統計の難民保護の部)"をご覧ください。

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ドイツ:2016年度難民申請&認定数統計~新規入国者は28万人

ドイツ:ブレーメンで不正難民認定スキャンダル


ドイツ:ブレーメンで不正難民認定スキャンダル

2018年05月23日 | 社会

5月初頭から連邦移民難民庁ブレーメン外局での難民認定手続きに大量の不正があったとして騒ぎになっています。

シュピーゲルの報告によると、犯罪前科のある者やISとのつながりが疑われる者あるいは違法な運び屋なども難民保護認定を受けたらしい。ある難民認定申請者は弁護士に現金1,000ユーロを支払い、数か月後にはブレーメンで難民保護の認定を受けたようです。同様の報告が2017年夏にニュルンベルク連邦移民難民庁本部にメールで送られており、それによれば当該弁護士は事前に難民1人当たらり700ユーロを受け取り、ブレーメンへのバスツアーを手配しているとのことでした。

ブレーメン州検察は現在少なくとも1,176件の不正認定について、連邦移民難民庁ブレーメン市外局長およびヒルデスハイム出身の弁護士を始めとする容疑者6人を調査中です。

5月18日(金)、連邦移民難民庁長官ユッタ・コルトが中間報告を発表し、過去数年の容疑のかかっている弁護士が関わった難民認定4,586件を内部監査した結果、数百件(調査件数の約40%)は認定取り下げの必要があるとしました。

またユッタ・コルト長官は、ブレーメン外局で2000年以降に承認された難民保護認定の約18,000件を再調査すると宣言し、およそ3か月かかるとみられる調査に約70人の人員を投入するとのことです。

ブレーメン外局は当面難民認定の決定を下す権限が凍結され、現在ブレーメン外局で進行中の難民申請については他所に引き継ぐことになっています。ドイツでは稀に見る役所スキャンダルです。

ホルスト・ゼーホーファー内相は省内調査で済まそうとしていますが、野党は国会で査問委員会を開くことを求めています。

参照記事:

Spiegel Online, 18. Mai 2018, "Bremer Flüchtlingsbehörde winkte Schleuser und Geheimdienstler durch(ブレーメン難民当局は運び屋や諜報員の難民保護も深く考えずに判を押した)

Zeit Online, 18. Mai 2018, "Auch Schleuser soll in Bremen Asyl bekommen haben(運び屋にも難民保護か)"

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書評:松岡圭祐著、『瑕疵借り』(講談社文庫)

2018年05月22日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『瑕疵借り』は松岡圭祐の久々の歴史小説でない新刊です。瑕疵物件を借りて、物件にまつわる特に心理的な瑕疵の度合いを下げるために、残っている問題を調査し、解決する瑕疵借り専業者・藤崎達也の短編集です。収録作品は、「土曜日のアパート」、「保証人のスネップ」、「百尺竿頭にあり」、「転機のテンキー」の4編です。それぞれの物語の主人公は違いますが、藤崎達也がそれぞれの主人公たちのわだかまりを解決します。

「土曜日のアパート」の主人公は薬剤師を目指して親元から通える大学に行きながらコンビニでバイトする吉田琴美。ある日クリスマスケーキ販売のノルマを果たせず途方に暮れていたところに40代と思しき男が現れ、彼女の残りのノルマの個数を聞き、その分を買っていったところからドラマが始まります。彼・峰岡修一は時々コンビニに来て、折に触れて彼女のノルマを達成する助けをしていましたが、しばらくして来なくなりました。後にコンビニ店長から彼が福島第一原発の作業員であるらしいことが判明します。琴美は気になって彼のアパートを訪れ、不在だったためお礼の手紙と共に彼女の連絡先を残していきます。その手紙のせいで後に遺品整理業者から連絡が入り、琴美は彼が急性白血病で亡くなったことを知ります。彼が住んでいたアパートは「瑕疵物件」となるはずだと聞いて、琴美がもう一度そのアパートを訪れると、そこには既に藤崎達也という入居者が居て、秘かに事情調査中でした。

「保証人のスネップ」の主人公は、いわゆる「スネップ」と呼ばれる40代の無職引きこもり・牧島譲二です。ネットであれこれと在宅収入の道を探した時に保証人紹介会社への名義貸しに登録しため、知らない間に鳴海遥香という人物の「義兄」としてアパート賃貸契約における連帯保証人になっており、彼女が行方不明のため、滞納している4か月分の家賃を突然請求されます。結局「義兄」という続柄は虚偽でも連帯保証人であることには変わりないので、総額31万円強払う羽目になります。強制執行手続きを経て、部屋の明け渡しの段に保証人として立ち会うことになり、その際に鳴海遥香のノートパソコンに「譲二お義兄ちゃん」と呼びかける自撮りビデオがいくつかあることが判明します。また、不動産業者と大家の立ち話の中で「瑕疵借り」というキーワードが出ていて、ビデオの件も含めて気になったため、後日またそのアパートを訪れると、新しい入居者・藤崎達也に出会います。

「百尺竿頭にあり」の主人公は梅田昭夫(56)。長男の務める会社から「無断欠勤が続いており、連絡がつかないので、お父様の方から連絡をとって欲しい」と連絡があり、長男のアパートの管理会社とオーナーに若干たらいまわしにされつつも部屋への立ち入りを依頼し、長男が中で自殺していたことが判明。諸々の事務手続きが済んだ後に遺品整理業者から部屋の家財搬出・清掃・原状回復にかかった工事費用などの請求がきたので、不正請求でないことを確かめるためにも長男の住んでいたアパートに確認しに行きます。オーナーは同じ間取りの別の部屋を見せ、長男の住んでいた部屋は既に新規入居者がいるために断りますが、たまたまその入居者・藤崎達也がそのやりとりを聞きつけて、昭夫に部屋を見せ、長男の自殺の原因や遺書に仄めかされた「約束」とは何だったのか、事情を聴きながら推測していきます。

「転機のテンキー」の主人公はかつてパティシエになることを夢見ていた西山結菜(20)。中学の時の進路決定の際に製菓学校への進学を一番の理解者だと思っていた母親に反対されたため、普通の公立高校、そして短大に進みましたが、両親とは不仲となり、短大生になった後は家に帰らないことが増えていました。ある日たまたま帰宅すると、母親がキッチンに倒れて亡くなっていました。検案の結果、心疾患による突然死で事件性はない(つまり警察定義の「変死」ではない)と判断されたにもかかわらず、ネットの瑕疵物件情報サイトではすでにマンション名・部屋番号と共に「変死」と記載されてしまっていました。結菜は母の死体を発見したことがトラウマとなり、自宅に入れない状態になってしまったため、父と共にマンションを出ますが、父の行動や態度に不信感を抱き、母の死因に対しても再度疑問が湧き、元のマンションへ行ってみると、新規入居者・藤崎達也に出会います。

4編のうち後半2編は遺族の行動なので、瑕疵借りの藤崎達也に出会う経緯にそれほど不自然な感じはしませんが、前半2編は赤の他人のことなので、設定に無理があるように思います。主人公たちの「気になって仕方がない」という心情は理解できますが、だからと言って新規入居者にしつこく問い質したりするものでしょうか?

また、業界内では結構名が知られているという藤崎達也の生業もそのようにしつこく疑問を明かそうとする人たちが居なければそもそも成立するものでもないのではないかという違和感がぬぐえません。

原発作業員に対する労災申請権放棄を強要する違法契約や、保証人紹介という詐欺、引きこもり、サブリース契約、ブラック企業、ネットの瑕疵物件情報サイトなどさまざまな現代の社会問題が「てんこ盛り」な感じがするのもマイナス要因のように思います。

読み物としてそれなりに面白いと思いますが、どれもなんだか無理があるようで、説得力がいまいちです。


歴史小説

書評:松岡圭祐著、『黄砂の籠城 上・下』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『八月十五日に吹く風』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『生きている理由』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『ヒトラーの試写室』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『黄砂の進撃』(講談社文庫)

推理小説 

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理』(講談社文庫) 

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理2 インパクトファクター』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理3 パレイドリア・フェイス』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理4 アノマリー』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理5 ニュークリアフュージョン』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『水鏡推理 6 クロノスタシス』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定I』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の鑑定II』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『探偵の探偵IV』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『千里眼完全版クラシックシリーズ』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの≪叫び≫』(講談社文庫)

書評:松岡圭祐著、『被疑者04の神託 煙 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『催眠 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『カウンセラー 完全版』(角川文庫)

書評:松岡圭祐著、『後催眠 完全版』(角川文庫)


書評:雪村花菜著、『紅霞後宮物語』第零~七幕(富士見L文庫)

2018年05月22日 | 書評ー小説:作者ヤ・ラ・ワ行

『紅霞後宮物語』は、2014年第2回ラノベ文芸賞で金賞受賞した『生生流転』を改題・改稿したもので、作者のデビュー作です。第1巻は「第1幕」という表示がないことからも分かるように、シリーズ化は取りあえず想定されておらず、これ一冊で一応完結している中国風歴史ロマンです。主人公は大辰帝国の貧農出身で足の悪い兄の代わりに徴兵され、軍人として特に用兵の巧みさで頭角を現し、将軍位にまで出世した女性・関小玉がいきなり皇后になるところから始まり、その活躍ぶりが語られます。

関小玉が33歳で後宮入りしたのは、彼女の元副官・周文林が実は先々々帝の庶子で、彼が皇帝に即位し(てしまっ)たことに起因します。この文林は小玉の軍事の才能にほれ込んでおり、彼女を何とか重用し活躍させることができないか模索した結果、皇帝の妃が軍を率いた故事に倣って彼女を妃にしてしまう策を思いつきます。小玉は快くではありませんが、皇帝命令なのでそれに従って後宮入りします。しかしこんな突然の人事が後宮という女の園で快く受け入れられるわけはないので、小玉は当然いじめの対象になってしまいますが、彼女は軍隊でたたき上げられた人なので全く気にしません。本人よりもむしろ彼女の能力を高く買っている文林の方がその状況に耐えられず、彼女を後宮の最高位である皇后の座に着けてしまいます。こうして皇帝・皇后のコンビで内憂外患の国を治めていきます。内憂外患ですから陰謀・謀略・粛清・戦争のオンパレードで血なまぐさいのですが、『三国志』的な面白さがあり、また友情・主従関係のドラマに加えて、文林と小玉の形式的には夫婦でも友人なんだか主従なんだかちょっと恋愛入ってる?的な微妙な、基本セックスレスな関係が見所です。

第零幕、一「伝説の始まり」は番外編で、小玉の子供時代から軍隊に入って彼女の才能が見出され抜擢されるまでの物語です。

第零幕、二「運命の胎動」は番外編第2弾で、親友・明慧や文林との出会いなどが描かれています。部下を守れるように出世して力をつけようと小玉は決意し、文林は彼女のそばにいて補佐する決意をするところで終わっています。

この第零幕シリーズはまだまだ続くようです。

本編の第七幕では小玉が隣国・寛との最前線で矢傷を負って、矢の汚れによって症状が悪化し、かなりピンチに陥っているところで終わっています。典型的な「次巻に続く」のパターンで、読み終わった時に「なんでまた次が出ていないんだ?!」と悶絶した次第です。まあ、それくらい面白いわけなんですが、所々で「後の世では...」「100年後には...」云々という説明が蛇足的で目障りなのが玉に瑕のように思います。「辰という国の歴史を古代から近世にわたってきちんと設定してます」という作者の設定の綿密さをひけらかす以外に本筋に深みや含みを持たせるような感じでもないので、そういう言及はない方がストーリーの流れが阻害されなくていいのではないかと感じました。この唯一の難点を除けば、読み手をぐいぐい引っ張っていく力強い筆致で、私はどっぷりと嵌ってしまい、週末から昨夜まで睡眠時間を極限まで削って、発行されている全9冊を一気に読破してしまいました。