徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:島田荘司著、『屋上』(講談社ノベルズ)

2019年01月29日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

御手洗潔シリーズの29冊目『屋上』(2016、ノベルズは2018年発行)は、元は『屋上の道化たち』というタイトルでしたが、ノベルズ刊行の際に改題されたようです。この作品は古き良き横浜馬車道時代の御手洗潔が探偵として活躍するエピソードですが、彼の登場は大分後で、それまでに盆栽作家の不幸な生涯と自殺、彼の盆栽作品を買い取った女優の発病と転落と自殺、その女優の形見として盆栽を引き受けると申し出た映画館長の死亡、そして女優の邸宅の処分を行った関係で盆栽も一時的に預かり、屋上をその盆栽でいっぱいにした銀行で行員が次々と屋上から飛び降りる経緯、さらにその屋上の話とどうつながるのか分からない「苦行者」と「サンタクロース」の断片的エピソードが交代で挿入され、不思議なパズルのピースが散りばめられていきます。

最初は何のホラーか(呪いの盆栽?!)と思いましたが、そういうことはなくて、すべてに合理的な理由があることを御手洗潔が例によって超人的な洞察力で解明するストーリー展開です。古典的と言えば古典的ですが、「自分は絶対自殺なんかしない」と言ってたそのすぐ後で屋上からドーンと飛び降りてしまう展開が衝撃的であり、またバラバラのピースが最後にぴったりと嵌って全体像が立ち現われて来る緻密さは圧巻です。まあ、実際問題として物理的にそういうことがあるのかどうか若干首をかしげざるを得ない部分も無きにしも非ずでしたが、面白く読めました。

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書評:島田荘司著、『火刑都市』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『占星術殺人事件 改訂完全版』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『斜め屋敷の犯罪 改訂完全版』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『御手洗潔の挨拶』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『異邦の騎士 改訂完全版』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『御手洗潔のダンス』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『暗闇坂の人喰いの木』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『水晶のピラミッド』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『眩暈』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『アトポス』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『龍臥亭事件 上・下』(光文社文庫)

書評:島田荘司著、『御手洗潔のメロディー』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『Pの密室』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『最後のディナー』(文春文庫)

書評:島田荘司著、『ロシア幽霊軍艦事件―名探偵 御手洗潔―』(新潮文庫)

書評:島田荘司著、『魔神の遊戯』(文春文庫)

書評:島田荘司著、『セント・ニコラスの、ダイヤモンドの靴』(新潮文庫)

書評:島田荘司著、『御手洗潔と進々堂珈琲』(新潮文庫)


書評:島田荘司著、『最後の一球』(文春文庫)

2019年01月28日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

御手洗潔シリーズの25冊目『最後の一球』(2006、文庫は2010年発行)は久々の長編1篇のみの本で、御手洗潔の古き良き馬車道時代(1993年)のエピソードです。自殺未遂をした母親の動機が知りたいという青年の依頼を渋々受けた御手洗潔は、彼の嫌な予感の通り原因が悪徳金融業者「道徳ローン」からの巨額の借金であることを突き止め、打つ手がないと絶望していたところに奇跡が起ります。「道徳ローン」に検察の捜査が入った日、突然屋上が火事になり、そこに緊急避難させてあった債務者を苦しめる書類が灰になったのでした。竹越警部に原因究明のための助言を求められ、現場に行った御手洗は、そこに焦げた野球ボールを見つけます。そしてこの奇跡が、偉大な才能を持った1人のスラッガー武智明秀と、プロ入りしたものの武智のバッティング投手を務めることでした解雇を逃れられなかった凡庸なピッチャー竹谷亮司との友情の賜物だったことが、竹谷によって長々と語られます。

この竹谷亮司の語る野球人生と、彼の幼少時に彼の父親が「道徳ローン」のせいで自殺に追い込まれたこと、つい最近同じく「道徳ローン」のせいで追い詰められて武智明秀の父親が結局自殺してしまったという二人の類似する境遇が、彼らの絆を強め、また彼らから野球を奪うことになるという悲劇。けれど、彼らの【最後の一球】は数多くの「道徳ローン」に苦しめられる人たちを救うことができたという感動の物語です。

しかしながら、御手洗潔が現場検証をしていた場面から竹谷の独白への移行が前置きなしであまりにも唐突なため、かなりの違和感を感じぜざるを得ず、話が再び「道徳ローン」に辿り着くまで相当の回り道を強いられ、そこまでの道のりが少々苦痛に感じられました。感動の物語ですが推理小説としてはいまいちかなという感想です。

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書評:島田荘司著、『火刑都市』(講談社文庫)

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書評:島田荘司著、『UFO大通り』(講談社文庫)

2019年01月28日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

御手洗潔シリーズの23冊目『UFO大通り』(2006、文庫は2010年発行)は、古き良き横浜馬車道時代の御手洗潔の活躍を描くミステリー中編集で、表題作の他「傘を折る女」が収録されています。

「UFO大通り」では、鎌倉のとある家で白いシーツを体にぐるぐる巻き、ヘルメットとゴム手袋という重装備で死んでいる男が発見される一方、その近所ではUFOや戦争する宇宙人を見たと証言する老女がおり、両者が関係するのか、御手洗潔と石岡和己はUFO証言の方から捜査に乗り出します。暴力団と見まごうばかりの風貌と言葉遣いのやや残念な頭の刑事さんがキャラとして面白いです。御手洗の足を使った捜査による推理と事件解決は、安定の面白さです。

「傘を折る女」では、ラジオで雨の中車で傘を折る女を目撃したという証言を聞いた石岡が御手洗にその謎を話し、そのわずかな情報から御手洗が見事にその目撃された場所の周囲で殺人があったことを推理します。御手洗の遠隔推理の思考過程と犯人の女の視点で語られる追い詰められた行動の描写との対比が面白く、また御手洗も犯人の女自身もびっくりするような最後の意外な展開も感動ものです。御手洗の推理の道筋が細かく分かるのもこの作品の魅力です。

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書評:島田荘司著、『火刑都市』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『占星術殺人事件 改訂完全版』(講談社文庫)

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書評:島田荘司著、『御手洗潔と進々堂珈琲』(新潮文庫)


 


書評:島田荘司著、『溺れる人魚』(文春文庫)

2019年01月27日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

御手洗潔シリーズの22冊目である『溺れる人魚』(2006、文庫は2011年発行)、は表題作の他『人魚兵器』、『耳の光る児』、『海と毒薬』を収録した短編集です。この中で「本格ミステリー」と言えるのは表題作のみですが、その語り口は典型的なパターンからは外れており、最初は何が謎なのか謎で、本来の事件、すなわちミュンヘン五輪で4つの金メダルを獲得した稀代の女性スウィマーがリスボンの自宅でピストル自殺を遂げ、そのほぼ同時刻、2キロ離れた自宅で彼女を無理に外科手術したリスボン大学名誉教授リカルド・コスタが射殺され、2つの命を奪ったのは同じピストルから発射された銃弾だと判明した、というミステリーに到達するまでに女性スウィマーの病状や精神外科手術の恐怖、術後の彼女の廃人ぶりなどにかなりのページ数が費やされるので、これが実は「本格ミステリー」であることに気づくのに時間がかかります。作者の自作解説を読むと、「ロボトミー殺人事件」の当事者で、チングレクトミー手術を施された桜庭章司に着想を得て、精神外科手術の問題点を作品を通して世に問うことに主眼が置かれているようです。『溺れる人魚』の語り手は御手洗潔の知り合いらしいジャーナリストのハインリッヒ。

『人魚兵器』と『耳の光る児』は、『名車交遊録』の上下二冊の完全版を作るにあたって、原書房から刊行の条件として書き下した短編だそうです。『人魚兵器』ではこのため、ハインリッヒがスウェーデンのマルメ市からオーレスンド大橋を通ってデンマークのコペンハーゲン市に向けてポルシェの356をかっ飛ばしていきます。作者の自作解説によると、ポルシェには強制収容所のガス室を連想させるような特有の毒気があるのだそうで、その連想から話はベルリンのテンペルホフ空港の下に広がる巨大地下施設で行われたナチスによる生体実験・キメラ(人魚)製造実験に繋がっていきます。御手洗潔(作中では「キヨシ」)がひょんなことから目にしたこの地下施設でベルリン陥落時の対ナチソ連軍によって火災の後に撮影された写真に写っていた奇妙な生き物の正体を探りにクルスク、ベルリン、ワルシャワを訪ねて得た情報をハインリッヒが聞いて読者に語ります。

作中に登場する「ベルリン地下協会(Berliner Unterwelten e.V.)」は実在しており、現在ではちょっとした博物館みたいになっているようです。常設展示の他、企画展示会もあり、また地下施設のガイド付きツアーも提供しています。興味はあるのですが、本当に行きたいのかというとちょっと疑問が…。


『耳の光る児』は、紫外線を当てると耳が緑色に光る子供がクリミアやタタルスタンやウズベキスタンなどの4か所に1人ずつ生まれたというミステリーを解く話で、その過程で母親たちの背後にかつての大モンゴル帝国の栄光が浮かび上がってきます。

「広大なユーラシア大陸にモンゴルだけが作り出せた秩序、これによって欧州の商人が北京まで安全裏に来られたこと。異教徒に示す、モンゴルだけの寛容さ。降伏した民への寛大さ。異民族への差別感の少なさ。シベリア鉄道が現れる以前に、最も早い情報伝達の手段を構築し得た俯瞰力。北の高地の都、北京まで、大小の船を直接海から引き込んだ脅威の土木力。各種の先進科学兵器を作り出した科学技術力。
ロシアも欧州も、この偉大な帝国の先進の戦争技術に歯が立たず、小躯のアジア人にひれ伏すほかはなかった。その強さは世界各地の若者の憧れになり、現在のアメリカ合衆国にも似た、「強さと自由」という抽象概念を、国の結束理由として掲げた。現在のロシアの広大な国土は実はモンゴルの領土であった。モンゴルなしには、現在の大国ロシアはない。」(自作解説より)

こうしたモンゴル帝国の一般的な残忍なイメージとは違う史実を説明したいという動機から『耳の光る児』が書かれたらしいです。確かに歴史の興味深い片鱗に触れることができました。

最後の『海と毒薬』は石岡和己が御手洗潔に宛てた手紙で、『異邦の騎士』事件で受けたトラウマを20年の時を経て克服できたことを当時行き着けていた喫茶店などを巡ることで確認できた旨の報告と、この『異邦の騎士』に救われたという読者の女性からの手紙の紹介が主な内容です。

それぞれに味わいがありますが、「御手洗潔シリーズ」と言っていいのかもう分らない感じがしないでもないです。御手洗の魅力の一つであったエキセントリックな傍若無人さは見る影もないですね。

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書評:島田荘司著、『火刑都市』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『占星術殺人事件 改訂完全版』(講談社文庫)

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書評:島田荘司著、『最後のディナー』(文春文庫)

2019年01月26日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

御手洗潔シリーズの13冊目『最後のディナー』(1999、文庫は2012年発行)は、『龍臥亭事件』後の石岡和己と犬坊里見のエピソード「里見上京」、「大根奇聞」、「最後のディナー」の3篇を収録した短編集です。

「里見上京」はタイトルの通り犬坊里見が横浜にある女子大に転学し、石岡に会いに来た時の彼の気持ちの動きなどが綴られたもので、事件性は彼の内面を除けば一切ありません。気欝な中年男がトラウマを若い女性との(友人としての)付き合いで克服できる希望を見出した、みたいな話です。『龍臥亭事件』のスピンオフというかサイドストーリー的な位置付けですね。

「大根奇聞」は里見の大学の教授が石岡のところに持ち込んできた桜島大根に関する日本史というか薩摩郷土史上の謎についての話で、桜島が噴火してすべての作物が全滅した中、桜島大根だけは火山灰で巨大に育ち、民が飢え死にしていく中、「ご禁制」とされ、大根を盗む者は死罪とされていた中で一人の老婆が旅の僧侶とその連れ子を死なせないために大根を盗んで食べさせたが、彼女はどうやら死罪にならなかったらしく、それはなぜだったのかという謎です。この謎は御手洗潔が素早く説いてしまいますが、「なんとまあ!」と驚嘆に値するいいお話です。

ちなみにこれはとある民話に着想を得たフィクションとのことで、薩摩藩にそのような飢饉はなかったとのことですが。

「最後のディナー」は里見に強く誘われて英会話教室に通うようになった石岡が同じ(低レベル)クラスの老人と親しくなり、その老人が横浜を離れることにしたので、記念に石岡と里見をディナーに招待するというエピソードです。後日この老人は殺害されてしまい、石岡和己に電話で事情を聴いた御手洗潔が瞬く間に推理を働かせて捜査の方向性を示唆して、その示唆をもとに事件が解決につながるわけですが、この話の主眼は事件解決ではなく、老人の人情と努力が、本人は死んでしまったにせよ少なからず実を結んだというほっこりするお話です。

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書評:島田荘司著、『火刑都市』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『占星術殺人事件 改訂完全版』(講談社文庫)

書評:島田荘司著、『斜め屋敷の犯罪 改訂完全版』(講談社文庫)

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書評:綾辻行人著、『奇面館の殺人』(講談社文庫)

2019年01月25日 | 書評ー小説:作者ア行

館シリーズの第9弾『奇面館の殺人』(2012、文庫は2015年発行)は、本シリーズの原点に返って、島田潔こと推理作家の鹿谷門実が探偵として活躍する本格ミステリーで、ファンとして納得できる作品です。

(購入はこちら)

あらすじ:舞台は1993年4月、東京都の山奥に建つ中村青司の館の一つである奇面館で、その名前から想像できるように故主人・影山透一の仮面のコレクションがあった。現主人の影山逸史はそこで奇妙な会合を3年前から開いており、その年鹿谷門実の同業者で顔立ちがそっくりの日向京介をその会合に招待するが、日向は急な病気のため、急遽鹿谷門実に代役を頼む。参加すれば謝礼金二百万円がもらえるという話なので、駆け出しの日向はそのお金をあきらめきれなかったのだ。鹿谷門実はその館が家の中村青司の手によるものだと知って、このなりすましに同意する。
奇面館では主人を始めとして客は全員仮面を被り、同じ服、同じスリッパを身につけることになっていた。使用人たちも仮面をつけていた。季節外れの吹雪のため、彼らは「吹雪の山荘」そのままにその館に閉じ込められてしまう。翌朝、影山逸史と思われる死体が壁一面に仮面がある「奇面の間」発見された。首なしだったため、誰の死体なのか確信をもって言うことができなかったのだ。指もすべて切り取られていた。
そして客たちは寝ている間に仮面を被せられ、しかも施錠されていたため、脱ぐことができない状態だった。
電話が壊され、しかもまだ吹雪いていたため警察に連絡することが叶わない中、鹿谷門実は捜査を始める。その行動が怪しまれたので、自分の正体を明かすところで前編が終わっています。

(購入はこちら)

後編では地道な探索や証言を集めて時系列作りなどで事件の形が徐々に明らかにされて行きます。中村青司のカラクリや抜け道が今回もふんだんに使われています。こうした手がかりから鹿谷門実が執事役の鬼丸の協力を得て事件を解明し、犯人を突き止める、というオーソドックスなストーリー展開でしたが、すべてが終わって鹿谷門実が日向京介に経緯を説明する際に明かされるあの会合の意味や集められた人たちの共通点が明かされ、本来のミステリーとは違った意味でびっくりさせられました。【あり得ない状況】だったことが最後に明かされるというか。そこに至って、そういえば鹿谷門実以外の客たちのフルネームは明かされていなかったなと思い至る私は鈍いのか...そういう意外性も面白かったです。

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書評:綾辻行人著、『十角館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

書評:綾辻行人著、『水車館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

書評:綾辻行人著、『迷路館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

書評:綾辻行人著、『人形館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

書評:綾辻行人著、『時計館の殺人〈新装改訂版〉上・下』(講談社文庫)~第45回日本推理作家協会賞受賞作

書評:綾辻行人著、『黒猫館の殺人〈新装改訂版〉』(講談社文庫)

書評:綾辻行人著、『暗黒館の殺人』全4巻(講談社文庫)

書評:綾辻行人著、『びっくり館の殺人』(講談社文庫)


書評:デイビッド・セイン著、『ネイティブはこう使う!マンガでわかる前置詞』(西東社)

2019年01月23日 | 書評ー言語

期間限定で1冊199円になっていたので、思わずまとめ買いしてしまった『ネイティブはこう使う!』シリーズ。時制・仮定法の次に「もやもや」が多い前置詞について書かれた本書をざっと読んでみました。図解でイメージがしやすく、「in time(間に合う)」と「on time(時間ぴったり)」や「talk to(話し合う)」と「talk at(一方的に話す)」などの似ている表現のニュアンスの違いが分かりやすく説明されていて、勉強になります。

【目次】

はじめに
登場人物紹介
前置詞のビジュアル解説
本書の使い方
Part1 「時間」を表す前置詞
Part2 「場所」を表す前置詞
Part3 「動作」を表す前置詞(基本編)
Part4 「動作」を表す前置詞(応用編)
前置詞から引ける索引
動詞から引ける索引


書評:デイビッド・セイン著、『ネイティブはこう使う!マンガでわかる時制・仮定法』(西東社)

書評:デイビッド・セイン著、『NGフレーズでわかる! 正しく伝わるビジネス英語450』(西東社)


Brexitを嫌ってドイツに帰化するイギリス人

2019年01月23日 | 社会

メイ英首相がEUと交渉して合意に達したEU離脱ディールが議会で大差で否認され、しかし、続く不信任決議では解散総選挙を嫌う議員たちのおかげで辛うじて生き延びることになりました。とはいえ、EU離脱の延期や国民投票のやり直しには応じない構えで、今後どうなっていくのか不透明なままです。

こうした状況の中、在独イギリス人たちはどんどんドイツに帰化しています。2017年度は前年比162%増の7493人でした。2018年度の数字はまだありませんが、もしかするともっと増えているかもしれません。

BBCの2018.6.30の記事によると、2017年度はトータル13,141人のイギリス人がEUの他の国の国籍を獲得したとのことで、ドイツ国籍を獲得した7493人がダントツです。それにフランス国籍獲得の1518人、ベルギー国籍獲得の1381人、スウェーデン国籍獲得の1203人が続きます。
2015年度の英国籍離脱者はトータル1826人だったのが、EU離脱の国民投票のあった2016年は5056人に増えて前年比177%増、2017年は前年比160%増。

EU国2014201520162017
オーストリア 6 10 10 24
ベルギー 110 127 506 1381
チェコ 3 2 5 26
デンマーク 21 70 85 164
エストニア 0 0 0 0
フィンランド 13 26 31 147
フランス 279 320 439 1518
ドイツ 496 594 2702 7493
ギリシャ 43 46 31 56
ハンガリー 4 3 11 29
アイルランド 51 54 98 529
ルクセンブルク 63 74 128 366
ポーランド 0 6 5 7
ポルトガル 13 11 20 147
ルーマニア 2 0 1 2
スロバキア 0 2 0 1
スペイン 67 28 44 48
スウェーデン 436 453 940 1203
合計 1607 1826 5056 13141


私の同僚にも在独20年くらいのイギリス人がおり、彼も2017年にドイツに帰化しました。やはり、EU離脱によって不利益を被るのを避けることが帰化の目的だと言っていました。

また、私の元同僚で、イギリス人と結婚して渡英したドイツ人女性がいますが、彼女は逆にイギリスに帰化するのかな、と思ってます。

メイ首相は「ノーディール・ブレグジット」を相変わらず脅迫材料として使っているようですが、期日まであと2か月しかないので、現状のEUとの合意で議会からの承認を得られない以上、離脱の延期を申請する以外はないと思うんですけどね。残りのEU側にしてもノーディールでは実際に困るわけで、だからメルケル独首相は「妥協も必要」と言いだしてます。今後どうなるのか、要注目です。

参照記事:

Statista, Lieber German als Brexit, 16.01.2019

BBC News, Surge in Britons getting another EU nationality, 30.06.2018


書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『ドルリイ・レーン最後の事件~1599年の悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

2019年01月23日 | 書評ー小説:作者カ行

『悲劇』シリーズというと、この最後の作品のタイトルが合わないので、『ドルリイ・レーン』シリーズと言うべきでしょうか。まあ、原作の副題は『1599年の悲劇』らしいので、『悲劇』シリーズでもいいのでしょうけど。

あらすじ:髭をまだらに染めた異様な風体の男がサムのもとを訪れた。「数百万の価値があるものに至るカギ」だという一通の封筒を預けて男は消えたが、自分の身に何かあった場合はドルリイ・レーンの立会いのもとで封筒を開けて、その価値あるものの探索をするように言い残した。同じ頃ブリタニック博物館でシェイクスピアの稀覯本すり替え事件が起きる。すり替えはどうやら改修中の博物館に特別許可をとって見学に来た教師の集団に混じっていた青い帽子の男によるものらしく、その男を追って警備員ドノヒューが行方を絶つ。彼の友人がサム探偵事務所に彼の行方を追うように依頼する。ドノヒューは元巡査で、サム警視とも顔なじみだった。

後日すり替えにあった稀覯本『情熱的な聖地巡歴』の1599年版ジャガード本は裏表紙に何かを取り出したらしい傷がつけられており、その修理代が添えられて返却された。果たしてその取り出された紙片は何なのか?

この作品には謎の人物が数人登場します。誰と誰が同一人物なのか、そしてその正体は何なのかを突き止める必要があり、かなりややこしい様相を呈しています。 探偵的推理を働かせているのはもっぱらペイシェンス・サムで、ドルリイ・レーンは対立意見の調停や、補足的推理を働かすのみです。

また、『Xの悲劇』、『Yの悲劇』、『Zの悲劇』で探偵として活躍してきたドルリイ・レーンが最終章ではこれまでとは違う正義に身を殉じ、探偵業ばかりでなく自らの人生の幕引きをしてしまいます。これは、探偵シリーズの終わらせ方としてはかなり異色なのではないでしょうか。


書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Xの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Yの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Zの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)



書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Zの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

2019年01月21日 | 書評ー小説:作者カ行

エラリイ・クイーンの悲劇シリーズ第3作『Zの悲劇』(1933)は『Yの悲劇』から10年後の事件がサム警視の娘にして探偵希望のペイシェンス・サムによって語られます。元俳優の老いた聾者探偵ドルリイ・レーンの苦悩や、冤罪による死刑は免れたものの結局救われなかったアーロン・ドウを鑑みれば、これまでの作品の中で最も『悲劇』というタイトルが相応しい作品と言えます。

あらすじ:悪名高い上院議員ジョエル・フォーセットが殺害され、遺品の中からは、いわくありげな3分割された小箱の一つと、出所したばかりの囚人アーロン・ドウからの復讐をにおわす脅迫状が発見された。このため、残された足跡の矛盾があるものの、アーロン・ドウが殺人犯として起訴され終身刑の判決が出る。
ジョエル・フォーセットの兄アイラ・フォーセットは大理石採掘会社の共同経営者となっており、同社の社長エリヒュー・クレーはサム父娘にアイラの契約案件に汚職の影がないか捜査を依頼するが、捜査中に殺人事件が起こったため、殺人事件の方にも関わるようになり、推理が煮詰まったところでドルリイ・レーンに協力を求めるが、同の有罪判決は覆せなかった。
間もなくアイラ・フォーセットもドウから3分割された小箱の一つと脅迫状を受取り、ドウが脱走した日に殺害された。ドウは「殺しはしていない」と言い張るが、真実はどうなのか。3分割された木の箱の残りの1つは誰に宛てられたのか。ドウの握っているフォーセット兄弟(ともう一人)の弱みとは何か?真犯人は誰で、動機は何か?

第2の殺人でも有罪・死刑判決を受けてしまったアーロン・ドウの死刑が実行される直前に、ドルリイ・レーンが元地方検事のブルーノ知事に死刑を取り止めさせ、真犯人を消去法で明らかにしていく様子はドラマチックです。なのに救おうとしていたドウが心臓麻痺で死んでしまうのは、やるせないエンディングです。


書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Xの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Yの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Zの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『ドルリイ・レーン最後の事件~1599年の悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)