徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:恩田陸著、『黒と茶の幻想』上・下巻(講談社文庫)

2018年02月28日 | 書評ー小説:作者ア行

『黒と茶の幻想』は『麦の海に沈む果実』(講談社文庫)と間接的にリンクする小説です。大学の同窓生だった男女4人、利枝子、彰彦、蒔生、節子が大人になってそれぞれ家庭を持った後に「過去を取り戻すための旅」を企画・実行する話で、語り手は4人全員で、リレーのようにバトンタッチして彼らの旅行の様子とそれぞれの内面世界が語られて行きます。目的地は屋久島をモデルとしたY島。企画者の彰彦はミステリーファンで、みんなに「美しい謎」を持参するように頼み、旅行中にそれらの謎を議論して解くという旅のもう一つの目的を提案します。旅行中に浮かび上がってきた過去の謎の一つが4人共通の知人である日を境に行方不明になってしまった梶原憂理のこと。憂理は『麦の海に沈む果実』の主人公・理瀬のルームメイトでした。『黒と茶の幻想』においては回想の中の登場人物としてしか登場しませんが、彼女の親友だった利枝子、そして利枝子の元恋人で憂理に心変わりしたらしい蒔生(まきお)の二人にとっては重要人物であり、二人の過去のしがらみを解く鍵となります。実際に憂理に何が起こったのか、彼女と蒔生の間に何があったのかは下巻・第3部「蒔生」で語られ、大部分は蒔生の胸一つに収められ、利枝子には結局真実のほんの一部だけが提供されるだけなのですが、それは憂理の名誉を守るためと利枝子への思いやりから来るものです。

それぞれ家庭を持った中年の男女が配偶者や子供を置いて旅行に行くというシチュエーション自体特殊ですが、そのうちの二人が元恋人同士というのはかなり気まずい状況です。というわけで第1部は一番行くかどうか悩むことになる利枝子が語り手です。なぜ大の親友であった憂理が行方不明になったのか、蒔生と憂理の間に何かあったのか、もしかして憂理は蒔生に殺されたのではないかーといのが彼女の疑問です。

第2部の語り手は旅行の企画者である彰彦で、類稀な美少年だった苦悩や彼の友人を次から次への食い物にする美しい姉との確執などが語られ、なぜ紫陽花が怖いのかという謎(トラウマ)が解かれて行きます。本人がすっかり忘れていたハードな記憶が蘇ってきます。

第3部の語り手は前述のように蒔生で、彼から見た利枝子との関係や憂理との経緯そして彰彦の姉との関係等の回想と彼自身の自己分析が描写されます。蒔生にとっての最大の謎は自分自身なのではないでしょうか。

第4部の語り手である節子は蒔生とは親同士が交流のある幼馴染で、誰とでもうまい距離感で付き合え、グループ内のバランスを取ることができる社交性を持っていますが、元は内気で引っ込み思案だったらしく、変わったきっかけとなる事件などが語られます。彼女の謎は、子どもの頃から繰り返し見ている紫色の割烹着を着たおばさんに追いかけられる夢。

各人の回想や謎解きのための会話などをしながらY島の自然を堪能するというなんとも贅沢で濃厚な時間が羨ましいくらいですね。

こんなところを通って

逆さ杉を見て、

逆さ杉です。<br /><br />不思議〜。<br /><br /><br />

縄文杉に到達(作中では「J杉」となってますが)

この「J杉」トレッキングは彼らのY島ツアー最終行程で、その前の2日間で体を慣らすためのハイキングコースなどが描かれているのですが、その風景描写が素晴らしくて、しんどそうだけどいつか行ってみたいと思わせるだけの力強さがあります。

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書評:恩田陸著、『夏の名残りの薔薇』(文春文庫)

2018年02月25日 | 書評ー小説:作者ア行

『夏の名残りの薔薇』というタイトルは、Heinrich Wilhelm Ernstのバイオリン変奏曲から拝借したそうです。元はアイルランド民謡で、英語のタイトルは「The last rose of Summer」で、かなりシンプルでロマンチックな美しいメロディーライン(歌詞はThomas Moore)ですが、その主旋律を様々にバリエーションさせたものがエルンストのバイオリン変奏曲で、YouTubeでなんと若き日の五嶋みどりさんの演奏が見つかりました。

著者はエルンストのバイオリン変奏曲を念頭に置いているため、章も「主題」、「第一変奏」、「第二変奏」...と名付けられ、山奥のホテルを貸切って沢渡三姉妹が催す毎年恒例の豪華パーティーで起こった出来事が複数の人の視点で描かれており、視点が異なるばかりでなく、語られる出来事も微妙に食い違っています。不穏な雰囲気のなか、関係者の変死事件が起きるのですが、変死する人物が毎回変わるので、どれが真実なのか分からない不気味さがあります。

そのメインの変奏曲に『去年マリエンバートで(L'Année dernière à Marienbad)』という映画とその原作アラン・ロブ=グリエからの引用がDNAの二重らせん構造のように絡まり、独特の雰囲気を醸し出しています。これは記憶の改竄?デジャヴュ?思い込み?嘘?種明かしが最後にされているという点では「閉じている」お話ではあるのですが、何が本当に起こったのかはっきりしない点では閉じていないお話です。

巻末には杉江松恋氏による評論とインタビューも収録されています。

インタビューで恩田氏は「年間200冊しか本を読んでいない」ことを強調しているのですが、一般人にとっては「200冊」ではないでしょうか。私もこの半年くらいは療養生活だったためかなりの読書量でしたが、100冊行くかどうか怪しい所です。マンガも含めればもちろん100冊を超えるでしょうけど(笑)

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書評:恩田陸著、『球形の季節』(新潮文庫)

2018年02月24日 | 書評ー小説:作者ア行

『球形の季節』は話が見えてくるまでに少々時間がかかりますが、東北の谷津(やつ)という村にある4つの高校(男子校2校、女子高2校)で広まった奇妙な噂がなぜか真実になるというファンタジー系のストーリーです。4つの高校共同クラブである「地理歴史研究会」のメンバーが噂の出所を確かめようと4校一斉アンケートを実施します。この「地歴研」のメンバーとその友人たちが主要な登場人物ですが、視点が固定されていないため、一部「ん?これは誰の視点?」と戸惑うことも。

その世界観は、系統的には『夜の底は柔らかな幻』や『終りなき夜に生れつく』に連なる「不思議な土地」「別次元につながる場所」を題材としていて、谷津という土地ではよく行方不明者が出るという設定で、いなくなった親しい人の帰りを祈って石を拾って持ち帰り、洗って他のところに積み上げるという風習があります。多感な年頃の高校生たちがその不思議な「アレ」へ跳ぶか跳ばないかあるいは跳べるか跳べないかで振り分けられるような、奇妙な終わり方をします。

現状に満足し、「特別」を望まず、外に出たいとも思わない少女・みのりが、飛ばずに残る者を代表し、彼女が谷津に伝わる石の祈りを継承する決意を固めるところで話が締めくくられていますが、本当に誰かが居なくなったのかどうかについては明記されていません。このため読後感がすっきりせず、なんとなく不思議ワールドに放り出されたままのような感覚が残るような気がします。この不思議な余韻が恩田陸らしいと言えばそうかも知れません。

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書評:恩田陸著、『私と踊って』(新潮文庫)

2018年02月22日 | 書評ー小説:作者ア行

『私と踊って』は『図書館の海』、『朝日のようにさわやかに』に続く3番目の短編集です。短編というかショートショートばかりで、少なくとも私が知っているシリーズ作品に関連するものはありませんでした。

荒唐無稽な世界が展開したり、ブラックユーモアや風刺が効いていたり、SFっぽかったり、ファンタジー・怪奇めいていたり、方向性は色々です。中には訳の分からないものもありますが、おおむね読みやすく面白いと思いました。

表題作は女の友情というか絆の物語と見ることができ、なかなか味わい深いです。

あとがきの後に収録されている『東京の日記』は2010年の作品で、「あの震災」の後に行政戒厳下に置かれた東京での日々をリチャード・プローティガンの孫が日記に綴るというもので、ブローディガンの『東京日記』と内田百閒の『東京日記』が下敷きになっているそうです。ところどころ311以降の日本の状況を予知したような描写があり、作家の想像力に感心せざるを得ません。

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放射線治療終了(がん闘病記23)

2018年02月20日 | 健康

今日で28回の放射線照射が終了しました。2月12日のローゼンモンタークを除き平日は毎日通院するという人生初の体験でした。照射自体には時間は大してかからないので、病院に入ってから出てくるまで30分以内で済むことが多かったです。だから通院の負担は軽かったと言えます。副作用の方は、下腹部照射のため尾籠な話になってしまいますが、結局一回の便秘で痛めた肛門とその周辺の傷が治ることなく、その後便が柔らかになっても痛みが治まらずに血が混じります。処方されたクリームは塗っているのですが、傷の治りが遅いのも放射線照射の影響のようです。回復はこれから、というところでしょうね。副作用や後遺症に関して経過観察するため、6週間後に再度来るように言われました。

今月は婦人科の検診にも行ってきました。本当は去年の夏に摘出手術を受けた後すぐに行くべきだったのですが。。。まあとりあえず異常はなかったので、結果オーライということで。ただし、「膣内容塗抹で若干の変質が見られた」とのことで、引き続き「要観察」だそうです。こちらは半年後に再検診です。

この「若干の変質」って嫌な響きですね。以前、2015年に子宮筋腫で子宮掻爬手術を受けた際に子宮壁の細胞にも「若干の変質」があって、結局それが2年後に子宮内膜がんに発展したと思われるので、「心配するほどのことじゃない」と言われても心配になってしまいます。

明後日は化学療法を受けたがん専門クリニックで血液検査と担当医との面談があり、そこで今後の方針を決めることになります。恐らく「段階的復職」の段取りを決めることになると思いますが、その前に何もしないバカンスが欲しいですねぇ。温泉とかで療養できたらいいですね。

がん闘病記24


唐突ながん宣告~ドイツの病院体験・がん患者のための社会保障(がん闘病記1)

化学療法の準備~ドイツの健康保険はかつら代も出す(がん闘病記2)

化学療法スタート(がん闘病記3)

抗がん剤の副作用(がん闘病記4)

え、緑茶は膀胱がんのもと?(がん闘病記5)

ドイツ:傷病手当と会社からの補助金(がん闘病記6)

抗がん剤投与2回目(がん闘病記7)

抗がん剤投与3回目(がん闘病記8)

医者が満足する患者?(がん闘病記9)

マリア・トレーベンの抗がんハーブレシピ(がん闘病記10)

抗がん剤投与4回目(がん闘病記11)

化学療法の後は放射線治療?!(がん闘病記12)

抗がん剤投与5回目(がん闘病記13)&健康ジュースいろいろ

抗がん剤のお値段とがん代替治療の死亡率(がん闘病記14)

抗がん剤投与6回目&障碍者認定(がん闘病記15)

化学療法終了…その後は(がん闘病記16)

放射線腫瘍医との面談(がん闘病記17)

放射線治療の準備(がん闘病記18)

放射線照射第一回(がん闘病記19)

放射線治療の経過(がん闘病記20)

放射線治療半分終了~副作用キター!(がん闘病記21)

直線加速器メンテナンスのため別病院で放射線照射(がん闘病記22)

書評:Kelly A. Turner著、『9 Wege in ein krebsfreies Leben(がんが自然に治る生き方)』(Irisiana)



書評:恩田陸著、『木曜組曲』(徳間文庫)

2018年02月20日 | 書評ー小説:作者ア行

『木曜組曲』は物書きの女ばかりが登場するミステリーです。謎の死を遂げた耽美派小説家・重松時子が木曜日を愛したことから、彼女を偲ぶ宴も命日のある週の木曜日を挟んだ3日間催されることから、このタイトルが来ています。

商品説明

耽美派小説の巨匠、重松時子が薬物死を遂げてから、四年。時子に縁の深い女たちが今年もうぐいす館に集まり、彼女を偲ぶ宴が催された。ライター絵里子、流行作家尚美、純文学作家つかさ、編集者えい子、出版プロダクション経営の静子。なごやかな会話は、謎のメッセージをきっかけに、いつしか告発と告白の嵐に飲み込まれてしまう。はたして時子は、自殺か、他殺か? 気鋭が贈る長篇心理ミステリー!

感想

商品説明だけではこの作品の魅力が伝わらない気がします。亡くなった時子を含めて6人の女たちはそれぞれに一癖も二癖もあって、その独特のキャラクターがよく描写されており、また6人のうちの4人は血縁関係(静子が時子の異母妹、尚美、つかさが時子の姪)にあり、それはそれで複雑に絡んだ感情がうごめいているし、編集者のえい子は時子を見出して育ててきたという数十年に及ぶ濃厚な関係があり、また現役編集者としての若手作家たち3人(尚美、つかさ、絵里子)に対する思惑もあるので、かなり濃厚な心理ドラマが味わえます。

「謎のメッセージ」は花束と共に来ます。差出人は「フジシロチヒロ」。時子の最後の作品となった「蝶の棲む家」の主人公の名前。カサブランカの花束は、時子の旧居「うぐいす館」にある黒い花瓶のためにしつらえたかのよう。一体こんなことをしたのは誰なのか?

「重松時子さんの家に集う皆様に
皆様の罪を忘れないために、今日この場所に死者のための花を捧げます。」

この差出人は何を知っているのか?「皆様の罪」は何を指しているのか?時子の謎の服毒死はやはり他殺?それぞれの記憶を突き合わせていくと色々と不自然な点が出てきます。

自殺か他殺かの結論が出てからさらに2バウンドくらいして話が終わるところがまた面白いです。

物書きの女たちって怖い(笑)

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三月・理瀬シリーズ

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書評:恩田陸著、『ブラック・ベルベット』(双葉社)

2018年02月19日 | 書評ー小説:作者ア行

『ブラック・ベルベット』は神原恵弥シリーズ第3弾の作品。シリーズ続巻ということで気になって、単行本で買ってしまいました。電子書籍の割引クーポン使ったのでそれほど高くはありませんでしたけど。

今回の舞台は「T共和国」となっていますが、イスタンブールやアンカラやパムッカレが登場するのでトルコであることはバレバレです。そこをあえて「T共和国」とすることでフィクション性を高めているのかもしれませんが、奇妙な感じしかしません。

それはともかく、神原恵弥は幻の鎮痛剤D・Fの噂を聞いてT共和国に行くことになります。それを聞きつけた多田直樹(シリーズ第2弾で登場)が彼にT共和国にいるらしいとある生物博士の探索を「ついで」に依頼します。現地では道案内役として時枝満が雇われます。満はシリーズ第1弾で恵弥にイラク国境近くの荒野で雇われたことがあり、それ以来トルコに居ついてしまったという設定です。また恵弥の高校時代の同級生であり、元恋人でもある橘も仕事の関係でイスタンブールに滞在中とのことで、恵弥は彼もついでに探すつもりでしたが、向こうから恵弥に会いに来ます。

D・Fに関して『アンタレス』という人物が恵弥に接触することになっており、その人物の指定通りに薬品業界の「見本市」に行き、その後トルコ国内の観光地をぐるっと巡ることになっていたのですが、まずついでだった探索対象の博士はすぐに見つかり、接触しようとした矢先に公衆の面前で通り魔?に刺し殺されてしまいます。恵弥は多田に電話を掛けますが、彼は交通事故に会い意識不明の重体。また満からはパンデミックの話題が出たついでに、全身を黒い苔で覆われて死んだ人間がいるらしいことを聞きます。

こうしたたくさんのバラバラのピースが、どんどん不穏になっていく状況の中で少しずつ繋がっていき、例によって「先が気になって止められない」状態に陥りました。しかし「凄腕ウイルスハンター」としての活躍はこのエピソードでもあまり見られませんでしたね。どちらかというと振り回されて終わってしまった感じです。さんざんどんな陰謀があるのかとハラハラさせられたのに、結論を聞いてみれば、「なーんだ」と拍子抜けするような。当事者にとっては大変危険な状況だったのですが、恵弥は単に利用されて巻き込まれただけで、なんだか気の毒でしたね。

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2018年02月18日 | 書評ー小説:作者ア行

 『Maze(メイズ)』は荒野の丘の上に立つ長方形の白い建物が舞台。そこは原住民の間では古くから【存在しない場所】または【あり得ない場所】などと言われている禁忌の場所で、一つしかない入口から入ると中で消えてしまう人が居るとのことで、第1章はほぼその遺跡にまつわるエピソードのみに費やされています。章の終わりごろにようやく主人公の神原恵弥(かんばらめぐみ)が登場します。男性にしては線の細い優男ですが、女系家族の中で育ったためにお姉言葉を話す強烈なキャラです。非常に頭脳明晰で、アメリカの製薬会社に就職し、どうやらウイルスハンターのようなサンプルを集める仕事をしているらしいのですが、詳細は今一つ不明。その彼に7日間雑用として雇われた元同級生の満は、過去のデータからその遺跡で人間が消えるルールを見つけ出すという依頼を受けます。

満以外のメンバーは恵弥を含めて3人で、現地に資材を運び込む兵士たちの指揮をとっていることになっていますが、どういう任務なのかは機密ということで、遺跡そのものだけでなく、任務も謎めいていて、また嵐の夜に幽霊?が登場し、メンバーの一人が行方不明になり。。。とホラーサスペンスめいてきます。

どこに辿り着くのか気になってどんどん読めてしまいます。

 

 

『クレオパトラの夢』は神原恵弥シリーズ第2弾の作品で、不倫中の双子の妹を説得して東京に連れ戻すという名目で北海道のH市(明らかに函館市)に向かいます。ところが着いてみたら、妹の相手であった男性は既に亡くなっており、その日は葬儀が行われていました。恵弥にはウイルスハンターとしてH市と関係があるらしい「クレオパトラ」と呼ばれるものの正体を掴むという重大な目的があったのですが、いきなり何も知らないはずの妹から「クレオパトラって何?」と聞かれて驚愕することに。その後妹は「一人になりたい」と姿を消します。恵弥を取り巻く状況がどんどん不穏になっていき、妹ですら敵なのか味方なのか分からなくなってきます。彼の探している「クレオパトラ」とは果たして何なのか?

恵弥のお姉言葉とおばさんキャラの可笑しさとストーリーの深刻さが絶妙にミックスしていて、読者をぐいぐいと引っ張っていく筆致はさすがです。オチはちょっと拍子抜けする感じですが、まあそういうのもありかなと思えます。緻密なミステリーとは言い難いですが、エンタメ性は高いと思います。

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書評:池井戸潤著、『ようこそ、わが家へ』(小学館文庫)

2018年02月18日 | 書評ー小説:作者ア行

『ようこそ、わが家へ』も4年ほど前に読んだ作品ですが、当時のレビューを再発見したので、こちらに転載しておきます。

書き下ろし小説『ようこそ、わが家へ』は作者前期のミステリー・サスペンス要素に現在の登場人物一人一人の人生を掘り下げるという持ち味が加味された味わい深い小説。主人公は冴えない51才の取引先総務部長として出向中の銀行員で真面目なだけが取り柄の倉田太一。池井戸小説最弱のヒーロー、らしい。電車通勤中に割り込みを注意したことで逆恨みを買ってしまい、自宅までつけられた挙げ句に花壇は踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死のネコが投げ込まれ、さらに車は傷つけられ、部屋からは盗聴器まで見つかるという執拗な嫌がらせを受ける羽目に。出向先でも在庫と帳簿が合わないことを発端に色々なトラブルに見舞われます。平凡なサラリーマンの生活をおびやかす、実に身近な罠というかきっかけが空恐ろしいです。


書評:池井戸潤著、『七つの会議』(集英社文庫)

書評:池井戸潤著、『アキラとあきら』(徳間文庫)

書評:池井戸潤著、『架空通貨』(講談社文庫)~江戸川乱歩賞受賞作品

書評:池井戸潤著、『シャイロックの子供たち』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『かばん屋の相続』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『株価暴落 』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『BT’63 上・下』(講談社文庫)

書評:池井戸潤著、『民王』(文春文庫)

書評:池井戸潤著、『金融探偵 』(徳間文庫)

書評:池井戸潤著、『ルーズヴェルト・ゲーム』(講談社文庫)

書評:池井戸潤著、『銀行仕置人』(双葉文庫)



書評:池井戸潤著、『果つる底なき』(講談社文庫)~第44回江戸川乱歩賞受賞作

2018年02月18日 | 書評ー小説:作者ア行

『果つる底なき』も4年ほど前に読んだ作品ですが、当時のレビューを再発見したので、こちらに転載しておきます。

『果つる底なき』は池井戸潤のデビュー作。江戸川乱歩賞受賞作品だけあって、かなり完成度の高いミステリーです。

「なあ、伊木、これは貸しだからな」と、謎の言葉を残して坂本が死ぬところから話が始まります。死因はアシナガバチによるアナフィラキシーショック。

翌日、坂本が顧客の口座から金を引き出し、自分の口座に送金していたことが発覚します。伊木は、坂本の無実を信じ、坂本が生前何をしようとしていたのか調べ始めます。その過程で、自分が融資を担当した「東京シリコン」倒産の真の原因を突き止め、坂本が言っていた「貸し」の意味を理解し、痛恨の思いに駆られます。しかし、坂本の死には更に深い闇が隠されていた。真相を探る伊木の行動を邪魔する者が現れ、更なる死人・怪我人が次々に出ます。でも裏に誰がいるのかは最後の最後まで皆目見当もつかない、少なくとも私にはさっぱり分かりませんでした。

ミステリー好きには必読の書。


書評:池井戸潤著、『七つの会議』(集英社文庫)

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書評:池井戸潤著、『架空通貨』(講談社文庫)~江戸川乱歩賞受賞作品

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