1944年7月20日、Claus Schenk Graf von Stauffenberg(クラウス・シェンク・フォン・シュタウフェンベルク伯爵)参謀大佐を含む200人余りの軍民取り混ぜた反ヒトラー抵抗グループによって慎重に計画され進められてきたヒトラー暗殺作戦「ヴァルキューレ」(Operation "Walküre")が、東プロイセンの「ヴォルフスシャンツェ(Wolfsschanze、狼の堡塁)と呼ばれる総統大本営(Führerhauptquartier)で実行に移されました。この暗殺計画は用意したプラスチック爆弾2個のうち1個しか安全解除できず、解除できなかったもう1個を持ち帰ってしまったために爆発の威力が不足して失敗したと言われています(Time-Freeze: Das Stauffenberg-Attentat | Galileo | ProSieben)。ヒトラーはこの時丈夫なオーク材のテーブルが盾になったこともあり、軽傷を負っただけでした。
フォン・シュタウフェンベルク大佐を含む主な関係将校らはその日のうちに逮捕され、7月21日に入った深夜に銃殺刑となりました。彼ら国防軍(Wehrmacht)の将校らは終戦直後はまだ「裏切り者(Verräter)」「誓い破り(Eidbruch)」などと否定的な評価しか受けていませんでしたが、時間が経つとともに英雄視されるようになりました。しかし、死刑に処された「裏切り者」将校たちの遺族は戦後隠然と続いていたナチス支配の司法のもとでナチス時代の判決は有効であり続け、それにより補償を受けられないなどの苦労を強いられていました。ようやく1998年になってドイツ連邦議会はナチス時代の国民裁判所(Volksgerichtshof)および特別裁判所(Sondergerichte)の判決を無効にし、2002年に軍事裁判(Militärjustiz)の判決を全て無効化しました。しかし、Kriegsverrat と呼ばれた反逆罪による死刑判決が無効化されたのは2009年になってからでした。この Kriegsverrat の罪状は1941年に導入され、以来多くの抵抗者たちがこれによって処刑されました。
ドイツの戦後司法の闇を表すほんの一例と言えます。
しかし今日では一般に7月20日の将校たちは特に国防軍(Wehrmacht)の後継組織である連邦軍(Bundeswehr)の誇りであり、また、「ドイツ人皆がヒトラーに賛同し、かの残虐極まりない犯罪に加担していたわけではない、抵抗する勢力もいたのだ」という一種の救いを見出しているようにも見受けられます。確かに国防軍はナチス親衛隊などの生粋のナチスたちとは一線を画しており、その狂気を必ずしも共有していなかったので、戦争に勝つ見込みがないことにより早く気付くことができたとは言えるかもしれません。最初はともあれ、負けが見えてきたので最後の一人まで戦うことを強要するヒトラーを暗殺して戦争を早く終わらせようとしたのは敬意に値するとは思います。
"Es ist Zeit, daß jetzt etwas getan wird. Derjenige allerdings, der etwas zu tun wagt, muß sich bewußt sein, daß er wohl als Verräter in die deutsche Geschichte eingehen wird. Unterläßt er jedoch die Tat, dann wäre er ein Verräter vor seinem eigenen Gewissen."(今何かをなす時なのだ。しかし、なにかをなそうとする者は、裏切り者としてドイツの歴史に名を遺すであろうことを自覚せねばならない。だがその行いをしなければ、自らの良心に対する裏切り者となろう)と言ってフォン・シュタウフェンベルク大佐は爆弾を仕掛けに行ったそうです。
そうした勇気を讃えて今日ベルリンの防衛省前で記念式典が行われました。メルケル首相は抵抗者たちを現代の全ての人間の見本であると讃え、「私たちもレイシズムや反ユダヤ主義の証人になることがあれば、人間性、法治と民主主義のためにに尽力し、市民としての勇気を見せましょう(Setzen auch wir uns ein für Menschlichkeit, Recht und Demokratie und zeigen wir Zivilcourage, wenn wir Zeugen von Rassismus oder Antisemitismus werden)」と呼びかけました。
参考記事:
taz, 20. Juli 2019, "75 Jahre Attentat auf Adolf Hiltler: Der 20. Juli und die Lüge"
ZDF heute, 20. Juli 2019, "75 Jahre Attentat auf Hitler - Merkel ehrt Widerstandskämpfer als Vorbilder"