徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:松岡圭祐著、『JK II』(角川文庫)

2022年09月24日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

やはり予想通り「JK」の続編が出ました。しかも、たった4か月後に。相変わらずものすごい執筆スピードで、頭が下がりますね。

IIは、主人公・有坂紗奈の平穏だったころのバイト風景から始まり、一転して不良たちに拉致され暴行を受ける中、両親が殺されるシーンになり、さらに整形して売り飛ばされた先の「輪姦島」での悪夢の日々の中、生き残るためにJK(ジョアキム・カランブー)の「窮鼠は学ぶ。逆境が師となる。」 という教えを実践し、殺人技術を磨いていくシーンに変わり、最後に「もっとましな夢を見たかった」と目覚めます。前編のおさらいができる親切な出だしです。

この巻では、前回は謎だらけだった紗奈の江崎瑛里華としての生活が描かれます。前回、彼女の両親と彼女自身を殺した不良たちへの復讐が果たされましたが、今回はそのバックにいた地元の暴力団・衡田組が相手となります。
江崎瑛里華はK-POPダンスのYouTuber「EE」として収入を得ており、毎朝その投稿動画撮影のため河川敷に行っている。そこへ、衡田組のチンピラが登場し、江崎瑛里華の正体が有坂紗奈であることを確認するために組に連行しようとします。そのチンピラをあっさりと殺害して、彼のスポーツバッグの中にあったメモに記された日時に渋谷109へ向かう。
その前に江崎瑛里華のマンションに刑事たちが聞き込みに訪れ、念のためとDNA検査のための唾液サンプルも採取されてしまう。刑事の1人の津田は、衡田組同様に江崎瑛里華の正体が有坂紗奈で、不良たちの連続殺人の犯人なのではないかと疑いを抱いていたのだ。
そして津田も衡田組のチンピラが残したメモが麻薬取引日を示すものと考え、S109周辺の張り込みに行くことになる。本当は本格的な網を張っておくように忠言したのだが、所轄の上司にも警視庁にもロクに相手にされず、当日は交番の警察官による警戒強化だけとなっていた。
こうして惨劇は始まります。

『高校事変』の主人公・優莉結衣(ゆうり・ゆい)は、平成最大のテロ事件を起こし死刑となった男の娘で、幼少時から戦闘を仕込まれていたいわばその世界のサラブレットでしたが、それに対して有坂紗奈はダンスで体を鍛えていたとはいえ普通の女子高生で、窮地に立たされたことから驚異的な速さで戦闘力を身につけて行くヒロインです。
初めは不良たちへの復讐でしたが、次は地域社会、引いては女子高生のような弱者を脅かし、躊躇いなく食い物にしていく暴力に立ち向かうという正義感で行動しています。「法治国家」が「放置国家」になっている実情を踏まえ、幽霊となってしまった有坂紗奈が果てしない戦いに挑む!という感じのようです。

『探偵の探偵』『高校事変』『ウクライナにいたら戦争が始まった』に続く女子高生バイオレンスシリーズで、少々食傷気味ではありますが(バイオレンス描写が不快なので)、それでも先が気になって仕方がないという具合に著者の術中に嵌まってしまっています。


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書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 VI 見立て殺人は芥川』(角川文庫)

2022年08月24日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

ecritureシリーズもこれですでに6巻となります。相変わらず松岡圭祐は驚異的な執筆スピードですね。続編が出るまでに間が空きすぎると前回までの話が思い出せなくなることも多々ありますが、この著者に限っては続編をじりじり待つ必要がなく、ほとんど二か月おきに読めるのがすばらしいですね。

さて、今回杉浦李奈が関わる事件は、改造スタンガンによる2件の殺人と犬の殺害プラス雀の負傷です。
事件が起きたのは閑静な住宅街。
殺された被害者の1人は普通の50代のサラリーマン・館野良純でしたが、その死体の上に芥川竜之介短編集から切り抜かれた『桃太郎』が置かれていたので、以前に関わったことのあった警視庁捜査一課の山崎の推薦で品川署の刑事組織犯罪対策課から李奈が文学の専門家として捜査協力を依頼されます。
もう1人の犠牲者の顔が猿に似ていたこと、犬と雀が被害に遭っていたことから、桃太郎のお供である犬・猿・雉に見立てた殺人事件なのではないかということでした。
見立て殺人の動機は何なのか、『桃太郎』は館野良純に当たるのか、復讐を果たそうとしている鬼ヶ島の鬼たちは誰なのか、館野良純が生前近所の自治会を代表して苦情を言いに行ったという愛友心望という宗教団体風の会社との関係はあったのか否か。

こうした謎解きに並行して、李奈は企画が通った新作の執筆に励み、作家としての表現力の成長が編集者から褒められ、ラノベではなく一般ノベルズとして発行することになります。

また、三重県から李奈の母親が上京し、李奈に小説は三重県でも書けるから帰るように説得しようとし、母子の対立が鮮明になります。
様々な事件を通じて人としても作家として成長してきたとはいえ、母親に対してはつい甘えが出て大人げなく感情的になってケンカしてしまうところに23歳の若さが滲み出ています。

作中の文学談義も非常に興味深いですが、私が読んだことない作品の方が多かったので、話についていけずに適当に流して読んでしまいました。
読書趣味が合っている読者ならば、その観点からももっと楽しく読めたのかもしれませんが、文学的蘊蓄を流し読みしたとしても十分に面白いミステリーです。



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書評:松岡圭祐著、『ウクライナにいたら戦争が始まった』

2022年08月19日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

商品説明:
単身赴任中の父と3か月を過ごすため、高校生の瀬里琉唯(るい)は母・妹とともにウクライナに来た。初日の夜から両親は口論を始め、琉唯は見知らぬ国で不安を抱えていた。キエフ郊外の町にある外国人学校にも慣れてきたころロシアによる侵攻が近いとのニュースが流れ、一家は慌ただしく帰国の準備を始める。しかし新型コロナウイルスの影響で一家は自宅から出ることができない。帰国の方法を探るものの情報が足りず、遠くから響く爆撃の音に不安と緊張が高まる。一瞬にして戦場と化したブチャの町で、琉唯は戦争の実態を目の当たりにする。 

琉唯という17歳の女子高生の視点で描かれているため、背景の分析のようなものは一切なく、「見たまんま」の情景描写が続きます。激しい爆撃・銃撃の中逃げまどい、英語も少ししかできず、わずかの挨拶程度のウクライナ語を知っていても満足に通じず、途中家族ともはぐれてしまった焦燥感と恐怖が真に迫っています。

著者は実際にウクライナから帰国した人たちに聞き込むなどして、現実のシーンを可能な限り忠実に再現したとのことなので、ウクライナ現地の状況の一端が知れるルポルタージュとしても読み応えがあるのではないかと思います。
九死に一生を得た瀬里一家にポーランド国境で身柄を引き受けに来た在ポーランド日本大使館員の言葉が空虚に響くエンディングも非常に説得力があるものでした。

在外邦人の保護のために大使館はさほど動かないし、「多少の漏れ」があってもたいして気にしない。全て「自己責任」で済ます風潮がそのまま作品にも現れていて、納得するものの、救いがないので読後感はそれほど良好ではありません。
小説を読んだというよりはノンフィクションドキュメンタリーを読んだ感覚の方が強いです。


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書評:三上延著、『ビブリア古書堂の事件手帖 II ~扉子と不思議な客人たち~』(メディアワークス文庫)

2022年07月13日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


『ビブリア古書堂の事件手帖』の第1巻が発行されてから10年を記念して書かれた本書『扉子と不思議な客人たち』は同シリーズの10冊目となるそうです。

この巻は、探偵小説3大奇作の1つと言われる夢野久作の『ダグラ・マグラ』をめぐる物語です。

古書店・虚貝堂の跡取り息子・杉尾泰明の死により遺された約千冊の蔵書。これは、法的には高校生の息子・樋口恭一郎が相続することになっているが、虚貝堂店主・杉尾正臣がこれを全て売り払うという。恭一郎の母・佳穂は、これを阻止しようとビブリア古書堂に相談し、栞子と大輔は虚貝堂店主も出店する即売会場で説得を試みるが、即売会ではいくつものトラブルが待ち受けていた。

曲者の栞子の母・千恵子が陰で糸を引いている気配もあります。

目次
  • プロローグ・五日前
  • 初日・映画パンフレット『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』
  • 間章一・五日前
  • 二日前・樋口一葉『通俗書簡文』
  • 間章二・半年前
  • 最終日・夢野久作『ドグラ・マグラ』
  • エピローグ・一ヶ月後
全編を通じて次の謎が解明されていきます。
  • 虚貝堂店主・杉尾正臣が遺産の古書を売り払おうとしているのはなぜなのか。
  • 樋口佳穂が本を読まない息子・恭一郎に古書を相続させようとするのはなぜなのか。
  • 亡くなった杉尾泰明が一時期失踪していたのはなぜなのか。
  • 杉尾泰明と樋口佳穂はなぜ離婚したのか。二人の間に何があったのか。
  • 杉尾泰明はなぜ死ぬ前にみんなに「どれでも好きな本を一冊持って行っていい」と言ったのか。
  • 篠川千恵子はこれらにどのように関わり、何を企んでいるのか。

この巻では、高校二年生になった扉子が海外出張中の母・栞子の代わりに事件の解明に貢献します。まだ思い込みが激しく、人の話を聞いてなかったりして勘違いすることもあるものの、洞察力はかなり鋭く、外見的にもしぐさも母親そっくりに育ってきているところが面白いです。
そして、今回話題の古書の相続人・恭一郎は本を読む習慣がこれまでなかったものの、扉子の話を聞いて本に興味を持ち出します。この二人の会話は、かつての栞子と大輔の会話にそっくりで、二人の未来を予感させます。

また、エピローグでそろそろ引退を控えた千恵子の企てが大まかに明かされているのですが、そこで読み物としての『ビブリア古書堂の事件手帖』に言及されており、『ドグラ・マグラ』の中で『ドグラ・マグラ』に言及されているのを真似ているのがなかなか面白いです。
ある古書を探し求めて10年も失踪していた篠川千恵子の怖いキャラは引退間近でも健在で、このシリーズの重要なスパイスとなっています。

次巻がクライマックスになりそうな感じがしますが、ひょっとしたらまだ終わらないのかもしれません。




書評:三上延著、『ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~』 (メディアワークス文庫)

2022年07月11日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

栞子と大輔の娘・扉子が活躍するシリーズ第2弾『ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~』は、ますます母の栞子にそっくりになって来る扉子が急に祖母に呼び出され、父・大輔の付けていた事件手帖のうち、2012年と2021年の横溝正史の『雪割草』に関わるものを持って来て欲しいと頼まれ、それを持って馴染みのブックカフェに行くところから始まります。
本編の第一話~第三話はその事件手帖に書かれている内容で、扉子が祖母・篠川千恵子を待ちつつそれを読んでいる設定です。

プロローグ
第一話 横溝正史『雪割草』I
第二話 横溝正史『獄門島』
第三話 横溝正史『雪割草』II
エピローグ

第一話の時は2012年。まるで横溝正史の金田一耕助シリーズに出てきそうな元華族の上島家で、横溝正史の幻の作品と言われる『雪割草』が盗まれたと身内の中で騒ぎになり、縁故のあった書店を通じてビブリア古書堂に事件解決の相談が持ち込まれます。
ここで、盗まれた本自体は戻ってきますが、そこに挟まれていたという付録は行方不明のまま事件は終了します。
それが第三話への前振りになっており、2部構成で以前の事件を解決するという横溝正史の『病院坂の首縊りの家』に似せています。

間に挟まれた第二話の『獄門島』は扉子が小学生の時の話で、読書感想文を書くための本にどういうわけか『獄門島』を選んで先生を心配させ、買い置きしていた古本を取りに行くために父・大輔と出かけて行ったら、目的の本がなくなっていたという事件を描きます。
これは、第三話の事件解決のための1つの鍵の役割を果たしています。
『獄門島』と『雪割草』の関係は、最後の最後に明かされますので、ここでは言及を控えさせていただきますが、とにかくなくなった「付録」は正当な持ち主の元に戻ってきます。

そして、エピローグで、千恵子の予備他紙の目的が実は扉子にその事件手帖を読ませることだったことが明かされます。
そこで手帖に書いていない真実に気付いた扉子が、千恵子に質問をしますが、それに応えないまま去っていく彼女は相変わらず謎めいた恐ろしげな人でした。




読書ノート:栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック 2 (角川文庫)

2022年06月21日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック2』は三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズの作中に登場した作品の中から13作品をセレクトした本です。

  1. 江戸川乱歩『孤高の鬼』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  2. 小林信彦『冬の神話』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  3. 江戸川乱歩『黄金仮面』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  4. 江戸川乱歩他『江川蘭子』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖4
  5. 江戸川乱歩『押絵と旅する男』~ビブリア古書堂の事件手帖4
  6. 江戸川乱歩『二銭銅貨』~ビブリア古書堂の事件手帖4
  7. 小沼丹『黒いハンカチ』~ビブリア古書堂の事件手帖5
  8. 寺山修司『われに五月を』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖5
  9. 木津豊太郎『詩集 普通の鶏』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖5
  10. 太宰治『駆込み訴え』~ビブリア古書堂の事件手帖6
  11. 黒木舜平(太宰治)『断崖の錯覚』~ビブリア古書堂の事件手帖6
  12. シェイクスピア(河合祥一朗訳)『ヴェニスの商人』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖7
  13. シェイクスピア(河合祥一朗訳)『ハムレット』抜粋~ビブリア古書堂の事件手帖7
巻末に「栞子さんの解説」と題して本書収録作品の『ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ』での登場シーンが掲載されています。
セレクトブック1の方では作者・三上延の作品への思い入れのようなものが書かれていて、それはそれでファンとしては作家・三上延を知ることのできる嬉しいあとがきでした。
でも、それぞれの作品が『ビブリア古書堂の事件手帖シリーズ』本編のどこでどのように使われていたのかを改めて確認するのもとても面白いと思いました。
本編を読んでから何年も経っており、正直詳しいことは覚えていないので、ほんのちょっと「復習」して、ストーリーを思い出すことができてよかったです。

さて、収録作品についてですが、太宰治の『駆込み訴え』(イエス・キリストを裏切ったユダが主人公で、裏切りに至るまでの心情を吐露する話)とシェイクスピア作品は読んだことがあったので飛ばしました。読んだことない方にとっては話の雰囲気が掴めて、先が気になるかどうか分かると思いますので、まずは抜粋を読んでみるというのはいいかもしれません。

江戸川乱歩の『孤高の鬼』は、あり得ない状況で発生した連続殺人事件の犯人を追ううちに、ある一族の残した暗号文の謎に巻き込まれていく探偵小説で、抜粋を読んだだけでも気味が悪い感じで、「傑作」と言われるものでもあまり読みたい気にはなりませんでした。

小林信彦の『冬の神話』は1968年に刊行された長編小説で、作者自身の体験をもとに太平洋戦争中の学童集団疎開を描いた作品です。級長を務める主人公が陰険な暴力に支配されていく生徒たちの中で次第に孤立し、追い詰められていく話らしいのですが、とりあえず、陰で自分たちの食料の上前を撥ねている疎開先の寺の夫婦の悪事を発見して、ある生徒が「もはや、敵は英米じゃない」と言うところが印象的です。
確かに子どもたちにとっては見たこともない英米という敵国よりも目の前で自分たちの食料を巻き上げている人間の方がずっと現実的問題で、憎悪を向けやすいですよね。
あまり先を読みたいとは思いませんでしたが。

江戸川乱歩の『黄金仮面』は『怪人二十面相』に並び称される昭和初期の有名な怪盗の話で、私も題名は知っていたのですが、これまで読んだことはありませんでした。ここでは黄金仮面が当時としてはとんでもない大金の20万円の価値がある真珠を鮮やかに盗み出して逃走する最初の部分だけが掲載されています。全体的な設定の古さや文体の古さに最初こそ違和感を覚えますが、読んでいるうちに慣れてどんどん先を知りたくなります。
ただ、改めて全部読む気になるかと言うと、そこまでの興味は持てませんでした。他に何も読むものがなくて、『黄金仮面』だけが目の前にあったらもちろん読むでしょうけれど、積読本がまだ90冊近くある中でわざわざこれを読む気にはなれません。

江戸川乱歩、横溝正史、夢野久作などそうそうたる顔ぶれが合作した探偵小説『江川蘭子』の江戸川乱歩執筆部分の抜粋がここに掲載されています。幼い頃に両親を惨殺された美少女・江川蘭子が成長して快楽と暴力の世界におぼれて数奇な運命をたどる物語らしいですが、ここでは江川蘭子の幼少期と成長して快楽と暴力の世界に足を踏み入れるところまでが抜粋されています。
こんな合作企画があったのは面白いと思いますが、江川蘭子の異常性に興味が持てなかったので、わざわざ先を読もうとは思えませんでした。

江戸川乱歩の『押絵と旅する男』は昭和4年に発表された幻想的な短編で、作者自身も深い愛着を持っていたという代表作の1つ。魚津の蜃気楼を見に行った主人公が帰りの汽車の中で大きな押絵を持った奇妙な男に会い、ずっとお互い無言だったものの、主人公が好奇心に負けてついに男に近づき声をかけたら、その男がその押絵を見せてくれ、なぜそれを持って旅をしているのか身の上話をしてくれるという話です。その男の話す思い出話も実に現実離れした(兄が押絵の中に入ってしまっているという)話でしたが、その男自身も語り終わった後に汽車を降りて闇の中に消えて行くという謎めいた去り方をするので、狐につままれたような印象が残ります。
私が持つ江戸川乱歩のイメージとはかけ離れた作品で意外な驚きでした。

江戸川乱歩の『二銭銅貨』は日本最初の本格推理小説と言われ、傑作に数えられているものです。友人と二人暮らしの貧乏青年が主人公で、主人公が手に入れた二銭銅貨の中が空洞になっていて、その中に暗号文のようなものが入っていることを友人が発見し、その暗号文を読むうちに最近逮捕された紳士怪盗が隠した大金5万円の隠し場所が記されていると確信し、やがて大量の紙幣を持ち帰って来るという話です。この二人は普段から知恵比べのようなことをしていて、その友人は得意がって自分がいかに暗号文を説いて大金を手に入れたかを語ってくれるのですが、実はそれは全て主人公が仕組んだことだったという結末が小気味いいですね。
暗号文に南無阿弥陀仏の六文字のみを使っているところが実に凝っています。

小沼丹の『黒いハンカチ』は若い女教師が周りで起こった小さな事件を次々と解決していくシリーズ作品の1つで、たまたま試験中の生徒たちを監視しながらクロスワードをやって考え事をしてふと窓の外を見たら男女二人組の訪問者が学校に入ってくるところを見かけ、その後、女の方が教室の横を通ってお手洗いに行き、出てくるときに黒いハンカチを持っていたのを見て、さらにその数分後に今度は黒いハンカチを胸ポケットにしまった男が裏門から出て行くところを見たのでおかしいと呼び止め、それが事件解決につながるという話です。
他愛もないと言えば他愛もない話で、どことなくアガサクリスティーのミスマープルのシリーズを彷彿とさせます。

8、9の詩集は一応目を通しましたが、私とは相性が悪いようで、読んでも何も入って来ないという感覚でした。

それはともかく、このような作品集には普段の自分の読書傾向とは違う本との出会いがあって面白いですね。
本の概要を解説してくれるYouTube動画も多くありますが、このように作品そのものを集めて提示してくれるセレクトブックの方が自分で読んで味わいながら判断できるので、本好きとしてはこちらの方がありがたいです。





栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック 1 (角川文庫)

2022年06月17日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック』は三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズの作中に登場した作品の中から12作品をセレクトした本です。
  1. 夏目漱石「それから」抜粋
  2. アンナ・カヴァン「ジュリアとバズーカ」
  3. 小山清「落穂拾い」
  4. フォークナー「サンクチュアリ」抜粋
  5. 梶山李之「せどり男爵数奇譚」抜粋
  6. 太宰治「晩年」
  7. 坂口三千代「クラクラ日記」抜粋
  8. 国枝史郎「蔦葛木曽桟」抜粋
  9. アーシュラ・K・ル・グイン「ふたり物語」抜粋
  10. ロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」
  11. F・W・クロフツ「フローテ公園の殺人」抜粋
  12. 宮沢賢治「春と修羅」抜粋
巻末の「収録された作品についての諸々」で三上延ご本人のこれらの作品に対する思いや注釈が書かれています。

つくづく著者と私の読書暦が重ならないなと思いつつ太宰以外は興味深く読ませていただきました。

中でもロバート・F・ヤングの「たんぽぽ娘」はタイムマシンを扱う割にはとてもロマンチックなお宝掌編で、こんないやな世相で荒んだ心にふわっと香るミントティのような癒しを与えてくれます。四十男の視点で描かれた純愛物語なのに男の身勝手さが感じられず、女性に対する独り善がりでない優しさが感じられ、とても好感が持てました。

小山清の「落穂拾い」は、しがない物書きの「僕」の些細な日常の出来事を綴った日録・交友録の体裁で、特に古本屋を経営している少女との交流を描いています。その彼女から誕生日に耳かきと爪切りを贈られたというささやかな幸せに心温まるようです。

坂口三千代の「クラクラ日記」や梶山李之の「せどり男爵数奇譚」、F・W・クロフツ「フローテ公園の殺人」は抜粋だけでは物足りず、もっと読んでみたいと思わせる作品です。
ただ、現在、積読本をある程度減らすまではシリーズ続刊以外の新しい本を買い控えているので、そちらに手が回るのはずっと後のことになりそうです。


書評:松岡圭祐著、『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 V 信頼できない語り手』(角川文庫)

2022年06月11日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

本シリーズ『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論』のIV巻が出たのは4月半ば。2か月も経たないうちにもう続巻が書き下ろされ、しかも先月は新たにシリーズ化しそうな『JK』が上梓され、相変わらずの著者の著作スピードに頭が下がる思いです。

私はこのシリーズを自動購入に設定しており、昨晩V巻が私の電子書籍ライブラリーに追加されたので、就寝前に「出だしだけでも」と本当にちょっと見るつもりで読み始めて、結局、止まらなくなって気が付いたら最終章まで読み終わり、小鳥たちのさえずりを聴くことになってしまいました。
恐るべし、松岡圭祐。その読者牽引力は驚異的です(もちろん全作品ではありませんが)。

さて、V巻の事件は大規模な惨劇から始まります。日本小説家協会の懇親会会場で大規模火災が起き、小説家をはじめ多くの出版関係者が亡くなった。生存者はわずか2名。現場には放火の痕跡が残されていたため、大御所作家を狙った犯行説が持ち上がる。
ネット上では“疑惑の業界人一覧”なるサイトが話題になり、その中には李奈の名前もある。本当に放火犯はいたのか?

沈痛かつ不穏な空気が漂う出版業界の中、III巻のクローズドサークル編で殺されそうになったところを李奈に救われたベストセラー作家・櫻木沙友理が李奈に一緒に真相を解明しようと言い、沙友理と同じ町内に住む「万能鑑定士Q」莉子も協力することになる。

著者はこのシリーズでは本格派推理小説にチャレンジしているようで、この巻も「信頼できない語り手」というミステリーの手法を取り入れているのですが、それを堂々とタイトルに使うというのは前代未聞と言えます。
このため、読者は事件の謎解きと同時に、一体誰が信頼できない証言者なのか頭を悩ますことになります。

また、ファンには嬉しい「万能鑑定士Q」の凛田莉子改め小笠原莉子の登場。30代前半で二児の母になった彼女は探偵となった小笠原の協力を得ながら鑑定士の仕事を継続しているという近況が知れて、懐かしい知り合いに再会したような喜びがあります。




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書評:松岡圭祐著、『JK』(角川文庫)

2022年05月25日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行

『JK』というタイトルと言い、表紙の写真と言い、『高校事変』に続く高校生ヒロインの話だということが容易に察しがつきます。
しかし、JKは女子高生の略ではなく、ジョアキム・カランブー(Joachim Karembeu 1922─2004)のイニシャルで、「窮鼠は学ぶ。逆境が師となる。」という格言を言った人です。
これが本作品の底流に流れるモチーフと言えます。

物語は、川崎という指定暴力団の多い土地柄、懸野高校における不良の傍若無人ぶりとは対照的とも言える懸野高校の一年生・有坂紗奈の比較的平穏な日常生活から始まります。
クラスでも人気があり、吹奏楽部とダンスサークルでも頼りにされ、バイト先の介護施設でも入所者たちに愛されていた。そんな彼女の座右の銘が上のジョアキム・カランブーの格言だ。
彼女は笑顔を絶やさず、一見何の苦労もなさそうな幸せな女子高生だが、実はうつ病で家に籠る母を抱え、会社の業績不振で減給されても身を粉にして働く父をバイトで支えていた。

そんなある日、たまたま調子がいいからと紗奈の母が自転車で少し離れたコンビニまで買い物に行き、その先で事故に遭う。父と共に母を病院まで迎えに行き、その帰りに放置した自転車を取りに行く。

しかし、そこは人通りの少ない廃工場のそばで、地元の不良たちのたまり場になっていた。その中には紗奈が学校で衝突した者たちも含まれていた。自転車を取りに行こうとした母は自転車を彼らに取り上げられ、彼らに捕まってしまう。彼女を助けようと介入した父は無残にも嬲り殺されてしまう。父を惨殺され、母を人質に取られた紗奈は彼らの言いなりになるしかなかった。

紗奈が散々不良たちにレイプされている間に母は人質として不要とばかりに殺され、彼女自身も気力も体力・筋力も失い、ほとんど瀕死の状態となる。
不良たちは気が済んだのか、死体の始末を世話になっているヤクザの1人に頼み、呼び出された大人たちが親子三人を逗子に運び、車ごと燃やして「始末した」。

この序章を読んだだけで、少年たちのあまりの倫理観の欠落ぶりや躊躇いの無さに驚愕し、読み進むのを止めたくなる衝動に駆られる一方で、この凄惨な事件から始まる物語がどのように収束するのか気になって仕方なくなることも事実で、見事に著者の術中に嵌まってしまうのです。

親子惨殺事件後、犯人は紗奈と同じ学校の同級生や上級生からなる不良集団であることが公然の事実とされていたが、警察は決定的な証拠をあげることができず、彼らの悪行が止まることはなかった。 
その流れは、ある日、謎の女子高生・江崎瑛里華の登場で一変する。彼女は驚異的な戦闘力を有する武闘派ヒロインで、親子惨殺事件に関わった不良集団に次々と制裁を加えて行く。
江崎瑛里華は顔は違っているが、なんとなく紗奈の友人たちには紗奈を思い出させる雰囲気があった。

瑛里華イコール紗奈であることは比較的容易に察しがつくのですが、何がどうなってそうなったのか、種明かしはもちろん最後になります。

ストーリーはこの一冊で完結していますが、最後に警察庁の強姦件数に関する統計が掲載され、強姦の被害者が誰にも相談できなかったケースが全被害者の67.9パーセントに上ることが示されていることを鑑みると、武闘派ヒロインが活躍する場がたくさんあることを示唆しているようにも思えるので、JK の続編が出るのだろうと予想しています。


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書評:原田マハ著、『暗幕のゲルニカ』(新潮文庫)

2022年05月18日 | 書評ー小説:作者ハ・マ行


100冊以上あった積読本の中に長いこと埋もれていた『暗幕のゲルニカ』。
どうしてこの本を買ったのか、きっかけすらもう覚えていないのですが、どこかで誰かが勧めていて、何かしら興味を惹いたので買っておいたのでしょう。

その価値はありました。
本書は「アートの力とは何か」を世に問うミステリー。
まさに『ゲルニカ』を生み出した画家、パブロ・ピカソが絵筆一本でゲルニカ空襲を行ったフランコ反乱軍とそれを支持したナチス・ドイツおよびムッソリーニ・イタリアのファシズムに、引いては戦争や暴力一般に対して「芸術は、飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ」と立ち向かったように、観賞するための飾りではないアート、世に干渉するアート、政治的・社会的メッセージ性が濃厚なモダンアートの影響力を、小説という別の表現手段のアートで描く作品です。

この作品が生み出されるきっかけとなったのは、2001年9月11日のWTCへの同時多発テロを発端とした「テロとの戦い」と標榜していたブッシュ大統領はアフガニスタン攻撃後、イラクを次の標的に定め、コリン・パウエル国務長官が国連安全保障理事会でイラクを大量破壊兵器を開発・保有していると激しく糾弾し、かつ国連安保理のロビーで記者会見を開いた際に、長官の後ろに位置する場所にあったピカソの『ゲルニカ』に暗幕がかけられていた事件です。
ゲルニカは、空爆によって阿鼻叫喚の地獄となった事態を象徴するもので、反戦のシンボルでもあります。このため、アメリカがこれから実行するイラク攻撃によって、イラク国内で同様の事態が引き起こされることを予想した何者かによって隠されたのではないかと作者は考えたのです。

本作品は史実に基づいたフィクションで、20世紀パートは「ゲルニカ」の制作過程を写真に収めた当時のピカソの恋人ドラ・マールの視点で描かれ、21世紀パートはニューヨークのMoMaのキュレーターで、夫を911で亡くした八神瑤子の視点で描かれます。ピカソに関わることで人生を変えられてしまった二人の女性の過去と現在の時間軸が交錯しながら物語が進行していきます。

「サスペンス」色が濃くなるのはかなり終わりの方で、出だしは10歳の瑤子と「ゲルニカ」との出会い、「序章 空爆」では1937年4月29日のパリに舞台が変わってドラ視点でゲルニカ空爆の知らせを受けたピカソの様子が描かれ、物語のテーマと舞台設定が提示されるのですが、個人的な印象ではあまり「引き」が強くないと思います。

「第二章 暗幕 一九三七年 パリ/二〇〇三年 ニューヨーク」でようやく例の国連安保理のロビーのゲルニカ・タペストリーに暗幕がかけられる事件が扱われ、その辺りから俄然面白くなってきて、読むスピードに勢いが付いてきて、最後まで一気に読み通しました。
様々な過去のエピソードが最後には現在に直接つながってきて、「ああ、そうつながるんだ」と納得できるすばらしい構成です。

私はアートのことはあまりよく知らないので、勉強にもなりました。
巻末の参考文献には、著者のピカソに対するこだわりの強さが如実に表れています。