谷瑞恵はこれまでコバルト文庫などの少女向け小説家というイメージがありましたが、この作品は新潮文庫というだけあって、文学性が高いです。
主人公は、婚約者を事故で亡くし、その婚約者の職業であった額装を自分で始めることで、亡くした人とのつながりを保とうとする奥野夏樹。
彼女の元にくる変わった額装の依頼(宿り木の枝、小鳥の声、毛糸玉にカレーポット)のために依頼主の背景や動機など依頼の裏に隠されているものを探し、その心を祭壇のような額で包み込む。そうした額装は夏樹の祈りのようなもの。
彼女の額装に興味を示し、何かと話しかけたり、手伝ったりする純。彼もまた子どもの頃に友だちと川でおぼれ、不思議な臨死体験をしたことがあり、後遺症や罪悪感にもがいています。
登場人物たちは皆、心に傷を負っており、その思いを額装してもらうことで観賞可能にし、心の折り合いをつけていきます。
身近な人を失った喪失感とそこからの立ち直りが本書の根底にあるテーマで、作品全体に祈りが込められているようです。
額装というなじみのない世界を垣間見ることもできて、その奥深さにも感動を覚えます。