徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:中山七里著、『ワルツを踊ろう』(幻冬舎文庫)

2023年05月06日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

商品説明
容疑者は村人全員! ?

20年ぶりに帰郷した了衛を迎えたのは、閉鎖的な村人たちの好奇の目だった。
愛するワルツの名曲〈美しく青きドナウ〉を通じ、荒廃した村を立て直そうとするが……。
雄大な調べがもたらすのは、天啓か、厄災か!?

都会で金融関係の仕事をしていた溝端了衛は、リーマンショックの煽りを受けて失職し、その上、父親も病死したため、七戸9人しか住民のいない限界集落・東京都西多摩郡依田村竜川地区にある実家に移住します。移住して1週間経った朝、隣の地区長に改めて引っ越しの挨拶に行き、そこで住民全員に挨拶がてら回覧板を回すように指示され、村人たちと初めてまともに話す機会を得ます。
この主人公は30代も後半でありながら、人の機微というものが分からない不器用で、少々独り善がりな人物で、村を立て直そうという試みが悉く空回りしてしまいます。
何度か失敗した後、ようやく地区長を納得させるだけの村おこし案を出すことができ、村全体を説得して、一時、全戸団結したかのように見えましたが、盛り上がりの後の失敗は、了衛をさらに孤立させ、経済的にも追い詰めることになります。
村八分にされた了衛は、職も見つからないまま、精神的にどんどん追い詰められていき、ついにとんでもない事件を起こすに至ります。

本作品は、〈平成の八つ墓村〉または〈平成の津村事件〉と呼ばれた2018年に山口県周南市で起きた事件の経緯をなぞっています。
〈美しく青きドナウ〉は主人公のお気に入りの曲で、毎朝これで目覚めるようにしてあるばかりでなく、ことあるごとにこれを聴いていて、いわば人生のお供のようなものです。この音楽モチーフが陰惨な行為の伴奏となるとき、その猟奇性が際立ってきます。

限界集落・村社会の実情、閉鎖的で貧しい精神性を持つ村民と、中途半端な都会性と独善性を持つ移住者との間の軋轢が生んでいく過程が克明に描写され、読者の心に重くのしかかっていくばかりでなく、最後の最後で黒幕が明らかにされることで、「どんでん返しの帝王」の名にふさわしいエンディングとなっています。



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