新潮社
2023年2月 発行
252頁
さまざまなおばあちゃんが登場する短編集
「おつやのよる」
自分の家族、親族を恥じていて恋人・章吾に紹介できずにいる清陽(きよい)
故郷の祖母が急死したとの報せを受け、急ぎ実家に戻ります
通夜の夜というのに、もめ事ばかりが噴出してウンザリしている清陽の前に突然現れた章吾
え?
どうして?
90歳を過ぎてスマホを使いこなす祖母が生前にとった作戦(?)のおかげで家族、親族、清陽の問題がすべて解決したようです
「ばばあのマーチ」
新卒で就職した会社で苛めに遭い退職した香子
それがトラウマとなり、人とコミュニケーションが取れなくなった今では深夜の工場勤務で何とか暮らしています
学生時代、塾講師のアルバイトをしていた時に知り合った浩明は今でも香子を気遣ってくれて一応、恋人という立場なのですが、ポジティブすぎて香子には合わないタイプのようです
しかし、香子は自分が頑張って浩明についていかなくては、と思い込んでいます
そんな時、話をするようになったのが近所で『オーケストラばばあ』と呼ばれている独り暮らしの老女でした
人と上手くやっていけないのは自分が悪いのだ、と考えてしまう香子もとうとうオーバーフローしてしまい、実家に戻ることに
香子の置かれている立場が気の毒です
実家の母親の優しさが沁みました
「入道雲が生まれるところ」
ひと所で長く暮らせないタイプの萌子
その朝も恋人の部屋から私物を持って出たところに実家の母から近所に暮らす父方の祖父の従妹・藤江さんが亡くなったとの報せが入り、急遽実家に戻ることになります
誰とも繋がらずに生きて行けばいい、寂しくなることがあったとしても、後悔だけはしないと覚悟すればいい、と考えていた萌子でしたが、妹の芽衣子と一緒に藤江さんの遺品整理をしているうちに、自分がこれからどう生きていくべきか考え直すべきと気づきます
藤江さんが祖父の従妹ではなかった、という件がスパイスになっていてどんな展開になるのかワクワクしました
「くろい穴」
もう5年も付き合っている不倫相手の真淵から「妻が美鈴の栗の渋皮煮を食べたがっているから」と頼まれ祖母に教わった通りに栗の渋皮煮を作る美鈴
妻は夫の不倫に気づいていると確信した美鈴は、穴のあいた悪意の詰まった栗をひとつ、真淵の妻用の瓶に入れます
どんな仕返しがくるか、やってやろうじゃないか、構えていた美鈴でしたが、何と真淵の妻は数か月後に癌で亡くなってしまうのです
ようやく真淵の愚かさに気づいた美鈴は別れを告げます
不倫は不毛、ってどうして当人は気づかないのでしょう
ここだけの話、娘の友人が職場の社長と不倫中で、話を聞いているだけでイライラします
もっと自分を大事にして欲しいです
「先を生くひと」
幼馴染の藍生と加代
幼稚園から中学までずっと一緒で、高校は別でも二人の関係は変わらないと思っていた加代ですが、どうやら他の女性に恋をしたらしい藍生
そしてその事実を知り、自分が藍生を好きなのだと気づいてしまった加代の悩みは尽きません
藍生の恋の相手を確かめようと尾行までする加代
その家に暮らしているのは近所で『死神ばあさん』と呼ばれている老女で、手伝いに来ている親戚の女性、20代半ばと思われる菜摘がその相手なのでした
藍生にとって加代は幼馴染でしかなかったのはショックですよね
そこら辺りの気持ちの行き違い、何となくわかります
『死神ばあさん』は若い頃苦労しているのにとても素敵な女性で、若い藍生や菜摘にかける言葉が良いです
先を生きた人の言葉は、藍生や加代が年を重ねた時にじわじわと役に立つことでしょう
現実に行き詰まり、モヤモヤを抱えて生きる女性たち
酸いも甘いも乗り越えてきたおばあちゃんたちは良き師匠なのです
町田そのこさん初読み
大変面白かったです
他作品もボチボチ読んでいきたいです
単純に良い人ばかりでなく、ちょっとひねりが効いている。
もっとも『コンビニ兄弟』シリーズは挫折しましたけどね。
お勧めは『うつくしが丘の不幸の家』あたりかな。
http://blog.livedoor.jp/todo_23-br/archives/31075168.html
お薦め作、予約入れました<m(__)m>