ちくま文庫
2015年3月 第1刷発行
後記・沢村貞子
解説・保阪正康
今年3月、柳家花緑師匠の落語を聞きにいった折り
夏に「南の島に雪が降る」の舞台をやります、というお話がありました
勿論、主役は家禄師匠です
知っているようで知らない物語
さて、どんな内容なのでしょうか
著者・加東さんの戦争体験記です
先の大戦で衛生兵として召集された西ニューギニアのマノワクリ地方で過ごしたおよそ2年
マノワクリは日本軍にとっては絶対国防圏死守の場所でしたが、たまたまアメリカ軍の侵攻を免れたためほとんど戦闘もなく、加東さんは一発の銃弾を撃つこともありませんでした
かといってマノワクリが平穏無事な場所だったわけではありません
アメリカ軍の代わりに戦った相手は飢えとマラリヤだったのです
主な話は、加東さんが中心となって立ち上げた、マノワクリで兵士たちを慰め励ました演芸分隊についてです
当たり前のことですが召集される前には皆国内で何かしらの仕事に就いていました
その経験を生かし役者や衣裳係、小道具係、大道具係、脚本家、作曲家として活躍する上官や一兵卒たち
演芸分隊の活躍のほかに、文中に紹介される数多くのエピソードからは戦争の実態が伝わってきます
空襲や銃撃戦の無い戦記物ですが、戦地という非日常のなかでの日常を描いた本書からは、真の意味での戦争の怖さが伝わってきます
使わなくなったパラシュートの布を使って舞台に雪が積もったかのような景色を作り出した演目に故郷の雪景色を思って涙し、舞台を観た後息を引き取った兵士もいたという、胸に迫ってくるエピソードがタイトルとなっています
著者の加東大介さん(1975年没)、小太りの身体と愛嬌のある笑顔が魅力ある俳優さんでした
活躍されていた頃を知っている方はもう少なくなっているのかなぁ
後記を寄せておられる大女優・沢村貞子さん(1996年没)は加東さんのお姉さんです
本書が書かれたのは戦後16年が経ってからのこと
多くの戦友たちに託された鎮魂歌のようであった、とは沢村さんの追悼の言葉です
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