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大江健三郎「万延元年のフットボール」

2013年08月26日 | あ行の作家

 

講談社文芸文庫

1988年4月 第1刷発行

2013年3月 第38刷発行

解説・加藤典洋

448頁

 

『群像』1967年1月号から7月号にかけて連載され、同年9月に講談社から刊行された

32歳という若さで第3回谷崎潤一郎賞受賞

 

 

重度の障害をもって生まれてきた息子

友人の衝撃的な自殺

傷心の根所蜜三郎は、学生運動の挫折からアメリカへ遊学、帰国した弟・鷹四の誘いに応じ

妻・菜採子と共に故郷・四国の谷間の村へ向かう

 

蜜三郎にとっては捨てたも同様の故郷

1860年に村で起きた万延元年の一揆の首謀者といわれているのが蜜三郎たちの曽祖父の弟で、彼はひとり森を抜け逃亡、明治政府に登用されて活躍したらしいという伝承もある

戦後には朝鮮人とのいざこざでS兄さんが殺されるという事件が起こる

昔の一揆をなぞるように現代の村に起こる暴動

鷹四から告げられる『本当のこと』

 

苦渋に満ちた登場人物たちの本質に真っ向から迫る渾身の作品です

 

ここまで力を込めて書かれた小説には滅多に出会えるものではありません

これぞ小説

人は、低い方へ、楽な方へ流されがちですが、本作でひと踏ん張りしてみてはいかがでしょう

『小説を読む』貴重な読書体験の出来る一冊です

 

 

 

鷹四が『本当のこと』を蜜三郎に告白する第8章・本当のことを云おうか

「本当のことを云おうか」は谷川俊太郎さんが1965年に発表した連作詩『鳥羽1』の中の一文です

 

何ひとつ書くことはない

私の肉体は陽にさらされている

 

私の妻は美しい

私の子供たちは健康だ

 

本当の事を言おうか

詩人のふりはしてるが

私は詩人ではない

 

私は造られそしてここに放置されている

岩の間にほら太陽があんなに落ちて

海はかえって昏い

 

この白昼の静寂のほかに

君に告げたい事はない

たとえ君がその国で血を流していようと

ああこの不変の眩しさ!

 

 

谷川さんは、1960年半ばという時代を敏感にとらえて詩にされたとのことです

大江さんの本作も時代背景の影響を大きく受けています

 

 


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