2010年 イギリス・オーストラリア合作
原題 Oranges and Sunshine
1986年
イギリス・ノッティンガム
夫と二人の子供たちと暮らしているマーガレット・ハンフリーズ(エミリー・ワトソン)
ソーシャルワーカーとして働く彼女に、ある夜シャーロットと名乗る女性が「私が誰なのか調べて欲しい」と訴えてくる
ノッティンガムの児童養護施設にいた4歳の時に、他のたくさんの子供たちとともに船でオーストラリアに送られ、自分がどこで生まれ、母親がどこに暮らしているのかもわからない、と言う
保護者の許可無く子供だけの移民など法律で禁止されているはず、と最初は信じなかったマーガレットも、別の機会に似通った話を聞いたことから夫の協力を得ながら調査を始めるのだった
事実に基づいた映画です
1618年から1970年まで孤児や貧困家庭の子供たちがイギリス政府の方針で、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ジンバブエなどに送り出されたのです
その数は何と合計13万人
白人の子供を送り出すことで本国と植民地の絆を強めることと、本国では恵まれない生を受けた子供たちによりよい生活環境と明るい未来を与えるという人道的な目的が掲げられていたのですが、実際受入国で求められたのは男子は農場労働者、女子は家事奉公人としての役割でした
こういう移民政策が実際にあったことは知りませんでした
この映画の製作中に、イギリス、オーストラリア両首相が子供たちの受けた非道な扱いを認め公式に謝罪をしているそうです
児童移民たちの親を探してあげたい、自分が誰なのか明らかにしてあげたい、という純粋な思いで調査を続けるマーガレットですが、事実が明らかになるにつれ、反対意見や嫌がらせもあります
しかし、彼女はそれらに声高に反論するのでもなく、移民政策を推進した政府や団体を非難するのでもなく、ただ児童移民たちの実情に真剣に冷静に向き合い、相手に語りかけます
落ち着いた表情で語られる言葉ほど心に響くものはありません
彼女のソーシャルワーカーとしての資質の高さが窺えます
調査の為、イギリスとオーストラリアを往復するマーガレット
曇天のイギリスと明るい太陽が輝くオーストラリアが対照的ですが、オーストラリアで成人したレンやジャックたち児童移民の辛い体験談を聞くと、オーストラリアの明るい太陽が嘘に思えてきます
オーストラリアでは毎日太陽が輝いて、毎朝オレンジをもいで食べるんだ、と聞かされていたのに
待っていたのは過酷な労働と性的虐待、暴力
嵐のような時間が通り過ぎるのを何も考えず、じっと我慢する毎日
一体、自分は何なんだろう
自分の本名は何というのか
母親は何処にいるのか
彼らの求めるアイデンティティを探す手伝いをしたマーガレット
人間の尊厳を第一に史実に向き合ったマーガレットをエミリー・ワトソンが見事に演じています
とても重い内容の映画ですが、全体から伝わってくる誠実さが何とも良い心地にさせてくれました
ラスト、当時の子供たちを撮った写真が流れます
どの子も、自分に過酷な運命が待っていようとは想像もしていない明るい笑顔です
それがまた、現実に起きたことの厳しさを伝えているように感じられました
映画からは、知らなかった歴史を分り易く具体的に学ぶことも出来ますね
そういう点でも、実に素晴しい映画だったと思います
実際、傷ついたまま大人になっている姿が切なかったです。
何もできないけれど、史実の闇を知れたこと
そして、素晴らしい活動をしている人がいることが分かって良かったです。
ハンフリーズ夫妻は今でも活動を続けてらっしゃるとか。
本当に素晴らしいですね。
この悲劇はまだ埋もれたままだったかも知れません。
政府が公式に謝罪しても子どもたちの心身の傷は治らない。
せめて彼らが家族と再会出来るように、
自分が何者かを知ることが出来るようにと祈らずにはいられません。
そういうことからすると、今はもう少し人権を尊重するという思想が世界に広がっていると見てもいいのかな?
世の中は、ほんの少しづつでもいい方に向かっている。そう思いたいです。
でも相変わらずいじめの話が横行する昨今ですね・・・。
既に起きてしまったことを元に戻すことは出来ませんが、当事者の方々が少しでも納得できるように何とかしていって欲しいと思います。
昔、こんなことがあった、では済まされません。
中学生のいじめ自殺の報道には心が痛みます。
どうして、その前に防ぐことが出来なかったのか、と思います。