夜中(よなか)の十二時を過(す)ぎた頃(ころ)。玄関(げんかん)のチャイムが鳴(な)った。朋香(ともか)がドアののぞき穴(あな)から見てみると、知らない男が立っていた。朋香は恐(おそ)る恐るドア越(ご)しに、「どなたですか?」と訊(き)いた。
男は物静(ものしず)かな声で、「あの、篠原(しのはら)です。篠原安則(やすのり)。何度か、パーティでお目にかかってるんですが…。覚(おぼ)えてませんか?」
そういえば、友だちのパーティで紹介(しょうかい)されたことがある。でも、どうしてここに。
「ここを開けてもらえませんか? 大事(だいじ)なお話があるんです」
朋香は、チェーンを付けたままドアを開けた。篠原はホッとした顔で礼(れい)を言うと、「あの、近藤(こんどう)アキラを知ってますよね。お付き合いをしているとか…、聞いたんですが」
「別に、付き合ってるわけじゃ…。何度か、お食事(しょくじ)をしただけです」
「あいつの言うことは信用(しんよう)しないで下さい。もう、あいつには近づかない方がいい」
「何でそんなことを…。あなた、近藤さんとはどういう…」
「あいつは、おかしいんだ。普通(ふつう)じゃない。もう会わない方が、君(きみ)のためだ」
篠原はメモを渡(わた)して、「もし何かあったら、僕(ぼく)に連絡(れんらく)して下さい。必(かなら)ず助(たす)けますから」
数日後。どうしても気になった朋香は、メモに書かれた番号に電話をしてみた。だが、何度かけてもつながらない。近藤からも、ぷっつりと連絡がこなくなった。
いったい何があったのか? あの夜のことは、いまだに謎(なぞ)である。
<つぶやき>深夜(しんや)の訪問者(ほうもんしゃ)は、危険(きけん)な香(かお)りを運びます。けしてドアを開けてはいけません。
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