典子(のりこ)はもうろうとする意識(いしき)のなかで、動物(どうぶつ)たちの声を聞いていた。
「なぜだ? なぜ動かない! 手順(てじゅん)を確認(かくにん)するんだ」
この声は、あの犬(いぬ)だ。私をこんな所へ連れて来て、何をしようとしているの? 典子は身体(からだ)を動かしてみた。でも、留(と)め具(ぐ)のせいで自由(じゆう)に動けない。どうやら、椅子(いす)の背(せ)もたれが倒(たお)され、横(よこ)に寝(ね)かされているようだ。突然(とつぜん)、お腹(なか)の上に何かが飛び乗ってきた。
「どうだい、気分(きぶん)は?」典子の目の前にぬっと顔を出した犬が、皮肉(ひにく)たっぷりに言った。
典子はか細(ぼそ)い声で、「私に、何をしたの。どうするつもりよ…」
「まだ分かっていないようだな。俺(おれ)たちが捜(さが)していたゲートは、あんたなんだよ」
「私が、ゲート? 何よ、それ」
「この装置(そうち)を動かすには、あんたが必要(ひつよう)だったのさ。だからここへ連れて来た。この装置が動き出せば、あいつらを根(ね)こそぎ倒すことができるわけさ」
「あいつらって、あのモドキとかいう…」
「ヒロシもきっと喜(よろこ)んでくれるだろう。これで、この世界は俺たちのものになるんだ」
その時、部屋の中にボールのようなものが転(ころ)がり込んできた。それは、大きな音をたて、回りながら白い煙(けむり)を勢(いきお)いよく噴射(ふんしゃ)した。瞬(またた)く間に、何も見えなくなってしまった。
<つぶやき>誰(だれ)かが助けに来てくれたのか? この装置は、いったい何なのでしょうか。
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