ある日のこと、夫(おっと)は花束(はなたば)をかかえて帰って来た。そして私に言ったの。おめでとうって。
今日は私の誕生日(たんじょうび)でもなければ、結婚記念日(けっこんきねんび)でもない。私には思い当たることが全くないの。それに、夫はそんなことで花束を買ってくるような、そんな気遣(きづか)いができるような人じゃ。夫は、私の反応(はんのう)が鈍(にぶ)いのを見て何かを感(かん)じたらしく口をつぐんだ。私は訊(き)いたわ。
「ねえ、これって…。どうしたの?」
「いや、違(ちが)うんだ。これは…、ほら、いつもいろいろしてもらってるから、感謝(かんしゃ)のしるし?」
「へえ、そうなんだ。でも、さっき、おめでとうって言ったよね?」
私の質問(しつもん)に、夫は聞こえない振(ふ)りをして、そそくさと寝室(しんしつ)へ引っ込んだ。絶対(ぜったい)あやしい。何かを隠(かく)してるのは確(たし)かだわ。そう言えば、誰(だれ)かが言ってた。夫が妙(みょう)に優(やさ)しくなる時は、何かやましいことがある時だって。私の夫も…、ついに来たんだ。
いいわ。ここは、じっくりと問(と)いただして…。夫婦(ふうふ)の間で隠しごとはしないって、ちゃんと約束(やくそく)してあるんだし。夫は寝室から出て来ると、さっきのことには全くふれずに、
「ああ、お腹空(なかす)いちゃったよ。今日の晩飯(ばんめし)は何かな?」
「さあ、何でしょう? あなたの答(こた)え方ひとつで、変わってくると思うわよ」
夫は一瞬(いっしゅん)ひるんだようだ。すかさず私は言ってやったわ。
「私は、あなたの妻(つま)よ。ちゃんと説明(せつめい)して下さい。この花、何なのかしら?」
<つぶやき>隠しごとはやめましょう。だって、すぐ傍(そば)にいるんだから。秘密(ひみつ)はなしです。
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