目に見えるものが真実(しんじつ)と、誰(だれ)もが信(しん)じて疑(うたが)わない。でも、見えているものが現実(げんじつ)とは限(かぎ)らない。転校生(てんこうせい)の家に遊びに来た三人も、何の疑いも持たなかった。
「なあ、こんなすげぇ家、いつ建てたんだ?」
三個目のケーキに手をのばしながら大介(だいすけ)は言った。隣(となり)にいた香里(かおり)はあきれて、
「もう、食べ過(す)ぎよ。ちょっとは遠慮(えんりょ)しなさいよ」
「そうだ。僕(ぼく)の分も残(のこ)しといてよ」和宏(かずひろ)はマンゴーを手に取り、満面(まんめん)の笑(え)みをみせた。
「構(かま)わないさ。まだ沢山(たくさん)あるから」転校生の少年は三人の様子(ようす)を見ながら、「この家は、ついこの間、完成(かんせい)したばかりなんだ」
「ねえ、お母さんとかいないの?」香里は心配(しんぱい)そうに、「私たちだけで食べちゃっていいのかしら。後で、怒(おこ)られたりしない?」
ひとしきり楽しく遊(あそ)んだ三人は、転校生の家を後にした。道々(みちみち)、誰かがポツンと言った。
「なあ、お腹(なか)空(す)かないか? さっき、あんなに食べたんだけどなぁ」
――転校生の家の中。そこは白一色の部屋(へや)に変わっていた。外から木漏(こも)れ日が差し込んでいた窓(まど)も、高そうな家具(かぐ)も全てなくなっている。その中にたたずむ少年。少年は止まったまま動こうとしなかった。そのうち、ノイズの音とともに少年の身体(からだ)は消えてしまった。
<つぶやき>この少年は何者(なにもの)なの。何をしにここへ来たのか。いや、本当(ほんとう)にそこにいたの?
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