みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0267「もうひとつの世界5」

2018-07-23 19:18:54 | ブログ短編

 動物(どうぶつ)たちは鼻(はな)をヒクヒクさせて、典子(のりこ)の臭(にお)いを嗅(か)いでいた。もう逃(に)げ道はなかった。彼女は震(ふる)える声で、「何なの…。私を食べたって美味(おい)しくないわよ」
 動物たちの間(あいだ)をかき分けるように一匹の小さな犬(いぬ)が典子の前に進み出ると、にっこりと微笑(ほほえ)んだ。犬が笑(わら)うなんて信じられないことだが、彼女にはそう見えたのだ。小さな犬は頭をかしげると、口を開いた。「間(ま)に合ってよかったよ」
 犬がしゃべった! それが合図(あいず)のように、回りの動物たちも良かった良かったと連呼(れんこ)する。典子は、何が何だか分からなくなった。犬は前足で地面(じめん)をかきながら言った。
「あいつらには近づかない方がいい。とっても危険(きけん)なんだ」
「危険って…。あなたたちの方が…、よっぽど」
「俺(おれ)たちは何もしないよ。あんたを助(たす)けたかっただけだ」
「なに言ってるの。あの人は、私を元の世界へ戻すために…」
「あいつらは、あんたの仲間(なかま)じゃないよ。臭いがまるっきり違(ちが)うんだ」
 周(まわ)りの動物たちも口々に、<いやな臭いだ。吐(は)き気がするよ。鼻が曲(ま)がりそうだ>
 典子は悲(かな)しくなってきた。涙が頬(ほお)をつたう。犬は慰(なぐさ)めるように彼女の頬(ほお)をなめて、
「心配(しんぱい)ないよ。俺たちが守ってやるから。あんたはヒロシと同じ臭いだ。俺たちの味方(みかた)」
 典子は、暑苦(あつくる)しいくらい側(そば)に寄(よ)ってくる動物たちを押(お)しやりながら、
「分かったから、こないで。向こうへ行ってよ。もう、なめないで…」
<つぶやき>望(のぞ)みを絶(た)たれて落ちこむ典子です。でも、哀(かな)しんでいても仕方(しかた)ありません。
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