みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0249「別れのボート」

2018-07-04 18:53:49 | ブログ短編

 義之(よしゆき)はある噂(うわさ)を知った。市立公園(しりつこうえん)の池(いけ)で恋人同志(どうし)がボートに乗(の)ると、その二人は別れてしまうと――。彼は、最後(さいご)の望(のぞ)みをかけて彼女をボートに誘(さそ)った。
「わぁ、こんなとこにボートがあるなんて知らなかったわぁ」
 紀香(のりか)は嬉(うれ)しそうにボートに乗り込んだ。オールを握(にぎ)った義之は、少しホッとしてこぎはじめた。彼女は噂のことは知らないんだ。――ボートは静かに桟橋(さんばし)を離れる。これで彼女と別れることができる。やっと、いつもの平穏(へいおん)な暮(く)らしに戻れるのだ。
 紀香に出会ったのは半年前。彼女から告白(こくはく)されて付き合うことになったのだが、彼女の破天荒(はてんこう)な行動(こうどう)にいつも振(ふ)り回されていた。けして悪(わる)い娘(こ)ではないのだ。ただ、ちょっと彼には荷(に)が重過(おもす)ぎて…。
 ボートの上でも彼女のマシンガントークが炸裂(さくれつ)した。義之はただ相(あい)づちをうつしかなかった。別れ話を切り出そうにも、口をはさむ余地(よち)がない。ボートを桟橋に戻そうと義之がこぎ始めたとき、紀香はぷつりと口を閉じた。彼女はしばらく彼を見つめてから口を開いた。
「ねえ。これであたしたち、ずっと一緒(いっしょ)だね。もう離れないから」
 義之はビクッとして、オールを落としそうになった。彼女は嬉しそうに微笑(ほほえ)みながら、
「だって、ここのボートに乗ったカップルは、永遠(えいえん)に別れることはないのよ。だから、あたしたちもずっと一緒(いっしょ)なの。ねえ、結婚式はいつにしようか?」
<つぶやき>噂はあくまでも噂ですから。自分の思ってることははっきり言わないとダメ。
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