私の中にはいつの頃(ころ)からか、もう一人の私がいた。その別の私は、私にいろんなアドバイスとかしてくれて。そのおかげか、良い旦那(だんな)にも出会えたし、それなりに幸せな日々を過(す)ごせていた。でもある日のこと、別の私が私にささやいたの。
「今日でお別れね。私、別の人のところへ行くわ」
私は動揺(どうよう)した。別の私がいなくなったら、私はどうなるの。私は行かないでと頼(たの)んだ。
「それは無理(むり)よ。だって、あなたの寿命(じゅみょう)が尽(つ)きるから。その前に出て行かないと」
私の身体(からだ)から、何かが出て行った感じがした。ふっと身体が軽(かる)くなったの。その直後(ちょくご)、私は気分が悪(わる)くなってトイレへ駆(か)け込んだ。
病院(びょういん)で妊娠(にんしん)を告(つ)げられたのは、翌日(よくじつ)のことだった。旦那はすごく喜(よろこ)んだけど、私は何だか複雑(ふくざつ)な気持ち。だって、私の寿命はもうなくなってしまうんだよ。つわりもひどいし、私の気分は最悪(さいあく)の状態(じょうたい)だった。そんな時、また声が聞こえたの。今度は別の声。
「大丈夫(だいじょうぶ)だよ。あたしが守(まも)ってあげるから。心配(しんぱい)しないで」
それは、お腹(なか)の中の赤ちゃんの声だった。私は、何だかホッとした。これで、一人ぼっちじゃなくなるんだ。赤ちゃんは、嬉(うれ)しそうに私にささやいた。
「これで、やっと身体を持つことができるわ。あたし、自由(じゆう)になるの。ありがとう、ママ」
<つぶやき>子供はいつか親から離(はな)れていく。産(う)まれたときから、それは始まるのです。
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