しばらくすると、水木涼(みずきりょう)の意識(いしき)が戻(もど)った。やはり朝からの出来事(できごと)はまったく覚(おぼ)えていなかった。本当(ほんとう)のことを話すわけにもいかないし、登校(とうこう)の途中(とちゅう)で倒(たお)れたってことにしておいた。
でも、涼が鏡(かがみ)を見たとき、頬(ほお)の傷(きず)に気がついて大騒(おおさわ)ぎになった。保健室(ほけんしつ)の先生(せんせい)に、傷跡(きずあと)は残(のこ)らないから大丈夫(だいじょうぶ)よって言われて、やっと落ち着いてくれた。下校(げこう)の時には、もうすっかりいつも通りの元気(げんき)な涼に戻っていた。
涼は、月島(つきしま)しずくと川相初音(かわいはつね)を呼(よ)んで、「なあ、一緒(いっしょ)に帰ろうよ」って誘(さそ)った。
「ごめんなさい」初音はすまなそうに、「あたし塾(じゅく)があるから、またね」
「お前さ、アタマ良いくせに、それ以上賢(かしこ)くなってどうすんだよ」
涼は不満(ふまん)そうに言ったが、初音は笑(わら)いながら、「あなたも、一緒に行かない?」
「冗談(じょうだん)! 私、そんなとこ行ったら、速攻(そっこう)で寝(ね)ちゃうから…。ねえ、しずくは?」
「私は、いいわよ」しずくはそう言いながら神崎(かんざき)つくねの方を見て、「あなたも――」
「いえ、あたしは」つくねは即答(そくとう)すると、「それより、先生に呼ばれてるんじゃないの?」
しずくは急に思い出して、「ああ…、そうだったわ。行かなきゃ」
「何だよ。つまんねえの」涼は口を突(つ)き出して言うと、「じゃ、部活(ぶかつ)に顔(かお)だして来ようかなぁ」
涼は剣道部(けんどうぶ)なのだが、強すぎて練習(れんしゅう)にならないって言って、部活には気が向(む)いたときにしか行かないのだ。みんなは、それぞれ教室を後(あと)にした。
<つぶやき>いつもの学校なんですが、次の魔(ま)の手がいつ襲(おそ)ってくるのか分かりません。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。