みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0627「客寄せ」

2019-08-14 18:25:54 | ブログ短編

 まったく流行(はや)っていない喫茶店(きっさてん)。猫(ねこ)をかかえた妻(つま)が帰ってきた。夫(おっと)がそれに気づいて、「おい、ちょっと待(ま)てよ。どういうつもりだ」
 妻は平然(へいぜん)と、「お客が来ないから、この猫(こ)に客寄(きゃくよ)せしてもらうのよ」
「そんなことできるわけないだろ。それにうちは食べ物を扱(あつか)ってんだ。ノラ猫なんか――」
「あなたがちゃんと仕事(しごと)しないからでしょ。義父(おとう)さんがやってた時は、あんなにお客が入ってたのに。あなたに代わってから…。もう、この猫(こ)に頼(たよ)るしかないでしょ」
「大丈夫(だいじょうぶ)だよ。俺(おれ)、新しいメニュー考えたんだ。これで、どんどん客が入るぞ」
 妻はカウンターの上にあるトレーの中に並(なら)んでいるものを見て、「なに、これ?」
「見れば分かるだろ。ホットケーキだよ。でも、そんじょそこらのホットケーキじゃないぞ。中身(なかみ)が違(ちが)うんだ。こいつは絶対(ぜったい)に当(あ)たるぞ。まあ、見てなって」
「こんなのダメでしょ。大きさはバラバラだし。これなんか、真っ黒に焦(こ)げてるじゃない」
「いいんだよ。これくらい焼けてる方が美味(うま)いんだ。なあ、お前もそう思うだろ?」
 夫はノラ猫に声をかけた。ノラ猫は「ニャー」と一声鳴(な)いてカウンターに飛び乗(の)ると、ホットケーキらしきものをくわえて店から飛び出して行った。夫は慌(あわ)てて叫(さけ)んだ。
「こら! 金(かね)払えよ。食い逃(に)げすんな!」
 翌日(よくじつ)の朝。夫が店を開けようと表(おもて)に出ると、店の前には無数の猫が並(なら)んでいた。夫が唖然(あぜん)としている間(あいだ)に、猫たちは一匹、また一匹と店内(てんない)へ吸(す)い込まれていった。
<つぶやき>いったいどんな材料(ざいりょう)を使ったんだろうね。猫たちには効果(こうか)はあったみたい。
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