みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0634「家主」

2019-08-21 18:39:48 | ブログ短編

 田舎(いなか)の古(ふる)い空(あ)き家へ引っ越してきた家族(かぞく)。子供(こども)たちは初めての家に目をパチクリさせていた。玄関(げんかん)から中を覗(のぞ)くと、それなりにきれいになってる。多分(たぶん)、役場(やくば)の人達が掃除(そうじ)をしてくれたのだろう。子供たちは探検(たんけん)気分で家の中へ――。庭(にわ)を見ていた妻(つま)が言った。
「こんなに広いと大変(たいへん)だわ。まず雑草(ざっそう)を取って、花の種(たね)を蒔(ま)きましょ」
 その時、家の中から子供たちの悲鳴(ひめい)が聞こえた。夫婦(ふうふ)は慌(あわ)てて家へ駆(か)け込んだ。――まだ雨戸(あまど)を閉めたままなので家の中は薄暗(うすぐら)かった。奥(おく)の座敷(ざしき)へ入ってみると、子供たちが駆(か)け寄ってきて、床(とこ)の間(ま)を指(ゆび)さして叫(さけ)んだ。「あそこに、誰(だれ)かいる! こわいよ!」
 奥の床の間の上にぼんやりと人の姿(すがた)が…。夫(おっと)は慌てて電気(でんき)のスイッチを入れるが――。
 床の間の方から声がした。「点(つ)かんぞ。電球(でんきゅう)が切れとるんじゃ。取り替(か)えてくれ」
 夫は恐(おそ)る恐る訊(き)いてみた。「あなたは、どなたですか? 何でここに…」
「わしか? わしは、家主(やぬし)じゃ。あんたたちか? 新しい住人(じゅうにん)は」
「家主って…。私たち、この空き家を土地付(つ)きで買い取ったんですが…」
「誰が大家(おおや)だと言った。わしは家主じゃ。この土地(とち)に三百年住(す)んでおる」
 夫婦は気味(きみ)が悪(わる)くなり、子供たちをかばうように抱(だ)き寄せた。家主は続けて、「掃除はしといたぞ。ひとつ頼(たの)みがあるんじゃが、トイレはぜひ水洗(すいせん)にしてくれ。それと風呂(ふろ)も最新(さいしん)のものに取り替(か)えるんじゃ。あと、庭じゃが、野菜(やさい)を作るといい。わしもがじれるようにな。あとは…、おいおいとな…」家主はそこまで言うと、忽然(こつぜん)と姿を消(け)してしまった。
<つぶやき>こいつは幽霊(ゆうれい)か妖怪(ようかい)か? でも、そんなに悪い奴(やつ)ではないのかもしれません。
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