月島(つきしま)しずくが家へ帰ったのは、もう辺(あた)りが薄暗(うすぐら)くなりはじめた頃(ころ)だった。何時(いつ)もなら家の中には明かりが点(つ)いているはずなのだが、まだ誰(だれ)も帰っていないのか――。そんなはずはない。だって、つくねが先(さき)に帰っているはずだし、それにお母さんはこんな時間に出かけたことなんか一度もない。しずくは玄関(げんかん)の扉(とびら)に手をかけた。すると、扉が開いた。
「何だ、いるんじゃない」と、しずくは呟(つぶや)いて家の中へ入った。
しずくは、「ただいま」と声をかけたが、家の中からは何の反応(はんのう)もなかった。しずくは玄関を上がるとリビングへ向(む)かった。暗がりのなか、目をこらしてみるが人の気配(けはい)はしなかった。しずくは部屋の明かりを点(つ)けようと、スイッチに手を伸(の)ばした。
スイッチに触(ふ)れようとした瞬間(しゅんかん)、誰かに手をつかまれて、しずくは思わず声を上げそうになった。耳元(みみもと)で楓(かえで)の声がした。「明かりは点けないで。こっちへいらっしゃい」
しずくは母親に手を引かれてダイニングへ――。楓は、しずくを食卓(しょくたく)の椅子(いす)に座(すわ)らせると、しずくを抱(だ)きしめて言った。「無事(ぶじ)でよかったわ。心配(しんぱい)してたのよ」
「お母さん…。ねえ、どうしたの? 何か…」
楓は、しずくを黙(だま)らせると言った。「いい、これから言うことを、よく聞くのよ。前に、お母さんが言ったこと憶(おぼ)えてる? もし身(み)の回りで異変(いへん)が起こったら…」
しずくは小学生の時に聞かされたことを思い出した。あの時は、あんまり怖(こわ)い話だったので本気(ほんき)にはしなかった。そんなこと、あるわけないって…。
<つぶやき>差(さ)し迫(せま)った危険(きけん)に、母親が動き出します。家族(かぞく)を守(まも)ることができるのか…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。