確(たし)かに、彼女はそれを望(のぞ)んでいた。今まで何度もお見合(みあ)いをして、それがことごとく失敗(しっぱい)に終(お)わっていた。今度こそはと…、そういう気持ちでここに来ていた。だが、目の前の男を見て、張(は)り詰(つ)めていた糸(いと)がぷつりと切れてしまった。彼女は席(せき)に戻(もど)ると、
「分かりました。じゃ、仲人(なこうど)の方がお見えになるまで、ということで…」
「ありがとうございます。柳沢(やなぎさわ)さんは、お優(やさ)しい方なんですね。気に入りました」
「あの、そんなんじゃありません。仲人の方にご挨拶(あいさつ)をしたら、すぐに帰りますから」
「じゃあ…、とりあえず、自己紹介(じこしょうかい)をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
彼女がしぶしぶ同意(どうい)すると、五郎(ごろう)は居住(いず)まいを正(ただ)して話し始めた。
「実(じつ)は、私たち、地底人(ちていじん)なんです。地底人といっても、地底に住(す)んでいるってことで…」
彼女は大きな溜息(ためいき)をついた。私って、まともな男性とは付き合えないのかな…。どうして、こんな変な男ばかり寄(よ)ってくるのよ。
五郎は彼女の顔を覗(のぞ)きこむようにして、「あの…、どうかされましたか?」
彼女は不機嫌(ふきげん)に答(こた)えた。「いいえ、何でもありませんから…」
「では、続けますね。私たちの曾祖父(そうそふ)は炭鉱(たんこう)マンだったんです。その当時(とうじ)は、苛酷(かこく)な仕事(しごと)で、事故(じこ)なんかも多かったようです。ある時、落盤(らくばん)事故がありまして…」
<つぶやき>地底人って何なんだ? ますます変な男じゃないですか。どうする彼女…。
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