彼女は会社で受付業務(ぎょうむ)をしていた。彼女が受付(うけつけ)で座っていると、取引先(とりひきさき)の社員(しゃいん)が帰りがけに彼女の前に現(あらわ)れてこう言った。「君(きみ)と合併(がっぺい)したいんですが」
いきなり真顔(まがお)で変なことを言われて、彼女は何のことだか分からなかった。その男性はたまに会社にやって来ているので、顔ぐらいは憶(おぼ)えているのだが…。彼は続けて言った。
「一応(いちおう)、月給(げっきゅう)の三か月分を考えています。それと、合併後は辞(や)めてもらうことになりますので。しかし、君に満足(まんぞく)していただけるだけの報酬(ほうしゅう)は必(かなら)ず――」
彼女は手を上げて彼の話を止めると、「あの、失礼(しつれい)ですが…。もしかして、わたしにプロポーズされているのでしょうか?」
「もちろんです。他に何があるんですか? 僕(ぼく)はあなたと――」
「あの、それっておかしいでしょ。わたし、あなたとは付き合ってもいないのに…」
「なるほど。あなたは、僕と付き合いたいんですね」彼はポケットから手帳(てちょう)を取り出すとパラパラめくりながら、「金曜日の夜ならあいていますが、お食事(しょくじ)でもいかがですか?」
「そういうことじゃなくて…。わたし、あなたと付き合いたいなんて思ってませんから」
「それは、僕の出した提案(ていあん)が気に入らないということですね。でしたら、後日改(あらた)めて、詳細(しょうさい)を検討(けんとう)して、新(あら)たな提案をさせていただきたいと思います。では、失礼(しつれい)いたします」
彼は一礼(いちれい)すると、そのまま玄関(げんかん)を出て行った。彼女は背筋(せすじ)に悪寒(おかん)が走った。
<つぶやき>話の咬(か)みあわない人っていますね。諦(あきら)めさせることができるといいんですが。
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