みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0631「暗闇の怪」

2019-08-18 18:35:40 | ブログ短編

 仕事(しごと)で帰りが遅(おそ)くなった彼女は、駅(えき)を出て家路(いえじ)を急(いそ)いだ。――歩きなれた道(みち)なのだが、今日は何だかいつもと違(ちが)う。やけに暗(くら)いのだ。夜空(よぞら)を見上げると星(ほし)ひとつ見えない。そこで彼女は気がついた。街灯(がいとう)が消(き)えているのだ。それに家からもれてくる明かりも…。
 停電(ていでん)かしら? 彼女はふとそう思った。だが、それにしても暗すぎる。足元(あしもと)も見えないし、それに自分(じぶん)の手まで見えなくなった。こうなると一歩も前へ進めない。彼女は手探(てさぐ)りで辺(あた)りをさぐった。するとザラザラと固(かた)い物(もの)が手に触(ふ)れた。これは、どこかの家の塀(へい)だわ。彼女はその塀づたいに歩き出した。
 何歩(ぽ)か歩くと、突然塀が途切(とぎ)れた。次に触れたのは、とげとげした弾力(だんりょく)のあるもの。これは生(い)け垣(がき)だわ。そうか、この生け垣は川村(かわむら)さん家(ち)の…。彼女の家の隣(となり)が川村家だ。彼女はホッとした。もう少しで家にたどり着けるはず。生け垣をたどって先(さき)を急ぐ。
 生け垣は途中(とちゅう)で切れて犬(いぬ)が吠(ほ)えるはずよ。でも、いつもなら吠え立てる犬が、今日は静(しず)かだ。彼女は不安(ふあん)になった。その時、後ろから声がした。「お姉(ねえ)ちゃん、何やってんの?」
 彼女は振(ふ)り返る。暗闇(くらやみ)の中からぼーっと人の顔が浮(う)かんできた。よく見るとそれは…。
「ああ、よかった。来てくれて…。真っ暗で、何も見えないのよ」
 彼女は半(はん)べそをかいて、弟(おとうと)に抱(だ)きついた。弟は彼女を振り払い、
「なに言ってんだよ。ああ、ひょっとして寝(ね)ぼけてんじゃないのか?」
「バカ! そんなんじゃないわよ。ほんとに、何にも見えなかったのよ」
<つぶやき>狐(きつね)か狸(たぬき)、はたまた妖怪(ようかい)の仕業(しわざ)かもしれない。夜道を歩くときは気をつけて。
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