「あのさ、君(きみ)って、森田(もりた)のこと好きなんじゃないのか?」
付き合い始めたばかりの彼から言われた。森田君は家が近くで、小さい頃(ころ)から一緒(いっしょ)に遊(あそ)んでいた同級生(どうきゅうせい)。別に好きだとか、そういうのは…。彼は言った。
「だって森田のこと話してる君は、とっても楽しそうだからさ。君、気づいてるかな…。僕(ぼく)と話をするとき、まず森田のことから始まるんだよなぁ」
「そ、そんなことないよ。別にわたし、そんなつもり…。ごめんなさい」
それ以来(いらい)、彼とは何となく気まずくなって…。何ではっきり違(ちが)うって言えなかったんだろう。彼の言葉が妙(みょう)にわたしの心に引っかかっていた。〈森田のこと好きなんじゃ…〉
こんなんじゃダメよ、何もできないわ。わたしははっきりさせようと、森田君の家へ向(む)かった。森田君は家にいて、階段(かいだん)を上がって彼の部屋(へや)へ…。この部屋に入るのって、何年振(ぶ)りだろう。そう言えば、最近(さいきん)はあまり話しもしなくなっていた。森田君はわたしの顔を見て驚(おどろ)いて言った。「えっ、どうしたの? 何か…」
わたしは単刀直入(たんとうちょくにゅう)に訊(き)いた。「森田君は、わたしのこと好き?」
一瞬(いっしゅん)、空気(くうき)が止まった感じ…。森田君はじっと私の顔を見ていた。なに、この間(ま)は――。わたしは、とんでもないことを訊いてしまったと、気がついた。森田君は座(すわ)り直(なお)して、
「うん、好きだよ。ずっと前から好きだったさ。やっと気づいたのかよ」
<つぶやき>森田君、そういうのは自分(じぶん)から言わないと…。ずっと気づかれないままだよ。
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