とある料亭(りょうてい)でのお見合(みあ)いの席(せき)。着物(きもの)姿(すがた)の女性が案内(あんない)されてやって来た。彼女は廊下(ろうか)で居住(いず)まいを正して座(すわ)ると、声をかけて障子(しょうじ)を開けた。次の瞬間(しゅんかん)、彼女は言葉(ことば)を失(うしな)った。
座卓(ざたく)の前に座っていた男性が声をかけた。「柳沢(やなぎさわ)さんですか? どうぞお入り下さい」
彼女はためらった。だって、男たちは黄色(きいろ)いヘルメットをかぶり、黒(くろ)いサングラスをかけている。それに、お見合(みあ)いのはずなのに、おそろいのつなぎの作業服(さぎょうふく)姿である。
男はいぶかっている彼女を見て言った。「すいません。これが、私たちの正装(せいそう)でして…」
彼女は恐(おそ)る恐る部屋へ入り、座卓の前に座ると訊(き)いてみた。「あの、仲人(なこうど)の方は?」
「それが、別のお見合いの方で何かあったとかで…、遅(おく)れるということでした」
「そ、そうですか…」彼女は男たちを見回して、「あの…、穴掘(あなほり)さんは…」
目の前に座っていた男が答(こた)えた。「あ、私です。申(もう)し遅れました。穴掘五郎(ごろう)と言います」
彼女は、後ろに座っている男たちが気になった。それに気づいたのか、五郎は、
「あっ、こいつら…。いや、これは私の兄弟(きょうだい)でして、もしもの時のための、交代要員(こうたいよういん)といいますか…。初めてお会いするので、私があなたの好(この)みではない場合(ばあい)ですね、代(か)わりに…」
彼女は目を丸(まる)くした。お見合いに交代要員って? この人たち、何を考えてるの!
彼女はさっと立ち上がると部屋を出て行こうとした。五郎はそれを呼(よ)び止めて、
「あの、結婚(けっこん)したいんでしょ! 私もそうです。もう少し、お話ししませんか?」
<つぶやき>お見合いの席なのに常識外(じょうしきはず)れの男たち。こいつらは一体(いったい)何者なのでしょう?
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