みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0314「くちづけ」

2018-09-09 18:38:32 | ブログ短編

「今日は楽しかったね」私は彼に微笑(ほほえ)みかける。「ねえ、お茶(ちゃ)してかない?」
 私はいつものように彼を誘(さそ)ってみた。でも、彼の答(こた)えは決(き)まって、
「今日は、もう遅(おそ)いから帰るよ。また、明日ね」
 私は別に、朝まで一緒(いっしょ)にいたいなんて思ってるわけじゃない。それなのに、ほんと意気地(いくじ)なしなんだから。この間、やっと手をつないでくれて、それからなかなか進まない。ほんとに私のこと好きなのかな? 私は彼のことを見つめていた。
 いつもならすぐに行っちゃうのに、今日の彼はいつまでもそこにいた。私は首(くび)をかしげる。彼は何か言いたそうな顔…。私は直感(ちょっかん)した。そうか、やっとその気になってくれたんだ。私は二、三歩彼に近づいて、彼の顔を見つめて微笑(ほほえ)みかける。彼も私のサインに気づいたのか、私の肩(かた)に手を置いて――。
 いよいよだわ。彼に告白(こくはく)してから、この瞬間(しゅんかん)をどれだけ待ったことか。私は顔を上げる。彼の顔がゆっくりと近づいてくる。私は目を閉じる。彼の唇(くちびる)が、私の唇に触(ふ)れようとした瞬間(しゅんかん)、けたたましい音をたてて携帯(けいたい)が鳴(な)り出した。
 彼は慌(あわ)てて私から離(はな)れると、携帯を取り耳に当てた。もう、誰(だれ)よ。こんな時間にかけてくるなんて。信じられない! 彼はしきりに電話の相手(あいて)にあやまっている。さらに、今から行くって――。まさか、女? ほかに女がいるの! 私は疑(うたが)いの目を彼に向けた。
<つぶやき>彼はキスをしようとしたのでしょうか? 何かほかのことだったのかも…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0313「ホワイトボード」

2018-09-08 18:44:32 | ブログ短編

 いつからか、娘(むすめ)は父親と一緒(いっしょ)にいることが少なくなった。思春期(ししゅんき)で仕方(しかた)のないことかもしれないが、必要(ひつよう)最低限(さいていげん)のことしか話さない。休みの日も友達(ともだち)と遊(あそ)びに行ったり、自分の部屋で過(す)ごすことが多くなった。
 ある日のこと。父親はホワイトボードを買ってきた。それをリビングにかけて、娘へメッセージを書くことにしたのだ。帰りが遅(おそ)くなった時も、かかさず父親は書き続けた。
 初めのうち、娘は何の反応(はんのう)もしめさなかった。でも、母親に訊(き)いてみると、ちらっとは見ているようだ。父親は奮起(ふんき)した。少しでも娘が興味(きょうみ)を持つように、いろんな話題(わだい)を取り入れた。時に、親父(おやじ)ギャグで笑(わら)わせようとしたことも――。
 何週間かたった頃(ころ)、ホワイトボードの隅(すみ)の方に丸印(まるじるし)がつけられた。間違(まちが)いなく、それは娘からの答(こた)えだった。その夜は、夫婦でささやかな乾杯(かんぱい)をした。でも、陰(かげ)で母親が動いていたことを父親は知らなかった。
 それからも、父親は娘にメッセージを書き続けた。ホワイトボードでの会話(かいわ)は、いつしか家族(かぞく)の習慣(しゅうかん)になった。家族での会話も増(ふ)えたが、言いにくいことも時にはある。そんな時は、ホワイトボードの出番(でばん)である。
 娘が年ごろになった頃。ホワイトボードに娘からのメッセージが書き込まれた。
〈お父さんへ 今度の日曜日、会ってほしい人がいます〉
<つぶやき>父親にとって、娘は特別(とくべつ)な存在(そんざい)なのかもしれません。邪魔者(じゃまもの)にしないでね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0312「私の取り柄」

2018-09-07 19:07:44 | ブログ短編

「朝から暗(くら)~い顔してどうしたの?」教室(きょうしつ)の席(せき)でうつ伏(ぶ)せている頼子(よりこ)を見て夏紀(なつき)が言った。
 頼子はため息(いき)をつき、「夏紀はいいよね。取(と)り柄(え)があってさ。私なんか…」
「なに、どうしたの?」もう一人、あすみが駆(か)け寄って来て話に加(くわ)わる。
「だってさ…」頼子は二人の顔を見て、「夏紀はバスケで優勝候補(こうほ)でしょ。あすみは学年一番の秀才(しゅうさい)。私には何にもないんだもん。これからやりたいことだって、分かんないし」
「なに言ってるの」夏紀は呆(あき)れた顔をして、「優勝候補っていっても、私一人の力じゃないのよ。チームみんなで頑張(がんば)ってるんだから」
「そうよ。あたしもそれなりに勉強(べんきょう)してるのよ」あすみは眼鏡(めがね)に手をやり、「それに、将来(しょうらい)何をやりたいかなんて、あたしもまだ決めてないわよ」
「でも~ぉ」頼子は口をへの字に曲(ま)げて、「私、勉強ができるわけでもないし、運動(うんどう)だって得意(とくい)じゃない。何かの資格(しかく)や特技(とくぎ)があるわけでも…。それに比(くら)べたら、二人は――」
「そんなこと比(くら)べることじゃないでしょ」夏紀は怒(おこ)ったように言った。
「頼子にだって、いいところはあるはずよ。それに気づいてないだけ」
 頼子はあすみの手を取り言った。「たとえば? 私の取り柄(え)って何なの? 教えて」
 あすみは首(くび)を少し傾(かたむ)けて、「そうねぇ、たとえば……、素直(すなお)なところかな?」
「そんなの、自慢(じまん)できることじゃないじゃん」頼子は、またため息をついた。
<つぶやき>誰(だれ)でも将来(しょうらい)に不安(ふあん)はあるものです。地道(じみち)にやりたいことを探してみませんか。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0311「おめでとう」

2018-09-06 18:46:43 | ブログ短編

 会社(かいしゃ)の備品(びひん)置き場の片隅(かたすみ)に、段ボール箱(ばこ)が置かれていた。私は何かなって思って、その箱を開けてみた。すると、中にはきれいな花束(はなたば)が。これってサプライズ? 私は胸(むね)が高鳴(たかな)った。だって、今日は私の誕生日(たんじょうび)。みんなが私のために…。
 箱を元通(もとどお)りにして――。私が気づいたってことが分かったら、みんなガッカリするじゃない。私は知らないふりをすることにした。何か、とっても楽しみ。私はその時が来るのを、わくわくしながら待っていた。
 終業(しゅうぎょう)間際(まぎわ)、みんなの動きが慌(あわ)ただしくなる。いよいよその時が――。上司(じょうし)がみんなを集める。そして花束の登場(とうじょう)。上司が私の名前を呼ぶ――、はずだった。
 呼ばれたのは、後輩(こうはい)の女の子。花束がその子に渡(わた)されて、上司からのお祝(いわ)いの言葉(ことば)。
“ご結婚(けっこん)、おめでとう”――何よそれ。私、そんなこと聞いてないから。
 どうせ私は、職場(しょくば)の中では結婚してない女の一番の年上(としうえ)よ。きっと、気を使ってくれたのかもしれないけど。でもね、それってどうなのよ。私だって、気持ちよくお祝いしたいじゃない。彼女も彼女よ。先輩(せんぱい)としていろいろ仕事(しごと)を教えてあげたのに、何で私に教えてくれなかったの。付き合ってる人がいたことも知らなかったわよ。
 花束を抱(かか)えて涙(なみだ)ぐんでいる彼女を見ながら、私は何だが自分が負(ま)け組にいるんだなって、改(あらた)めて実感(じっかん)してしまった。もう、絶対(ぜったい)良い男を見つけて結婚してやる!
<つぶやき>せっかくの誕生日。気持ちを新たに、美味(おい)しいものでも食べに行きましょ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

0310「本命の彼」

2018-09-05 18:46:24 | ブログ短編

「ねえ、木村(きむら)君だったら、何が欲(ほ)しい?」
「僕(ぼく)? 僕は、そうだな…。何がいいかなぁ――」
 私の質問(しつもん)に、彼は真剣(しんけん)に考えてくれていた。何か、そういうところがいいのよね。真面目(まじめ)っていうか…。木村君とは友達(ともだち)としてのお付き合いだったけど、それ以上(いじょう)になってもいいかなって。だから、今度のバレンタインは何か特別(とくべつ)なものを贈(おく)ろうって思ってる。
 チョコじゃ、何かつまんないし、彼の印象(いんしょう)に残(のこ)らないじゃない。木村君は、まだ私のこと何とも思ってないみたいだし。彼の欲しいものをリサーチして、彼の心をギュッとつかんじゃうんだ。私は、彼の答えをドキドキしながら待っていた。
「僕が欲しいのはね…、土地(とち)かな。今、ちょっと気になってるんだよね」
「土地? えっ、土地が欲しいの」そんなの無理(むり)よ。私に買えるわけないじゃん。
 困惑(こんわく)している私を見て、彼は、「ああ、土地っていっても、月のなんだけどね」
「月の土地って…、そんなの買えるの?」
「それがさ、けっこう安いみたいなんだよね」
 彼は、子供みたいに嬉(うれ)しそうに笑(わら)ってる。どうしてそんなのが欲しいのかなぁ。男の人の気持ちってほんと分かんない。あーっ、プレゼント…、どうしようかなぁ?
<つぶやき>男はロマンを求(もと)めるのです。どんなプレゼントでも、男性は喜(よろこ)ぶんじゃない。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする