キ上の空論

小説もどきや日常などの雑文・覚え書きです。

青い

2007年01月26日 | みるいら
 ぼくは目の前でよくわからないことを説教口調で言う人の名前を思い出せずにいる。
 そういえば類は皮肉屋だ。あまり話さないけど、それだけはわかっている。冬坂家の当主がどうのって言い方は、兄さんの親戚の名士気取りが気に入らないからだろう。気取りと家の規模が一致していないから尚更。
 ぼくらの父親は冬坂のお嬢さんと結婚した。でも、ぼくらの母親は冬坂のお嬢さんではない。お嬢さんの弟の健之さんがぼくらを追い出さなかったので、一応、ぼくらの名字は冬坂。親戚の「名乗らせてもらってるだけありがたいと思え」と言わんばかりの態度には辟易している。
 ぼくはエトワール佐沢町の屋上で見た空の青を思い出した。冬らしい青。
 兄さんは何も言わなかったけど、きっと類は違ったんだろう。だからぼくに当たるわけだ。類がこんな所を見たら、鼻先で笑われるだろうな、この人。
 ぼくは何か言い返そうと思ってやめた。きっと言葉は通じない。しばらく黙っていれば嫌な気分になる捨てぜりふを置いて、どこかへぼくの態度への不満をぶちまけに行くのだ。
 空は青いけど。きっと、この人には関係ない。
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