「ヒモリ?」
不意に呼びかけられて、ぼくは思わずその人を怪訝そうにみた。
年上かな。社会人っぽい。
「すみません、人違いでした」
その人はそう言って、軽く頭を下げたあと、多分元々みていただろう棚の方へと歩いていった。
ヒモリ。
聞き覚えのある名前だと思った。確か、高校の頃、誰かから聞いた名前だ。
似てない? いや、でも似てる? と、くだんの棚の方からブツブツ言う声。
自分でも何の気まぐれかと思ったけど、話しかけてみることにした。
思い出せそうで思い出せない名前が、何だか気になる。
ヒモリ。漢字だと桧森なのかな。それとも違う字かな。いまいちピンと来ない。
高校の名前を挙げて尋ねると、ヒモリは高校の同級生だと答えた。それからその人は、アンドウと名乗った。安藤さんかな。
それからヒモリは桧森ではなく、
「灯台守から台を取っ払って。ヒモリって読めるから、そう呼んでた」
そう言われても、頭の中でうまく漢字に変換できなかった。ずっとカタカナのように思ってきたからかな。
安藤さんは、目的の本を数冊手に取りながら、軽く説明してくれた。
聞いているうちに、ぼくはぼくで、その名前に付随する〈伝説〉を思い出していた。
ヒモリという人とぼくは、通りすがりの人に間違えられるくらいに似ているのかな?
安藤さんは少し考えてから、「似てない」と断言した。間違えておいて、それはない。
ところで、とぼくの名前を聞く。
ぼくが名乗ると、安藤さんは目を丸くしたあと、笑い出した。そしてそのまま、ハテナに捕まっているぼくを置き去りにして
「それじゃ、君の兄さんによろしく」
とレジへ去っていった。
どっちの兄ですか、と聞く暇はなかった。
どっちの兄ですか、安藤さん。
不意に呼びかけられて、ぼくは思わずその人を怪訝そうにみた。
年上かな。社会人っぽい。
「すみません、人違いでした」
その人はそう言って、軽く頭を下げたあと、多分元々みていただろう棚の方へと歩いていった。
ヒモリ。
聞き覚えのある名前だと思った。確か、高校の頃、誰かから聞いた名前だ。
似てない? いや、でも似てる? と、くだんの棚の方からブツブツ言う声。
自分でも何の気まぐれかと思ったけど、話しかけてみることにした。
思い出せそうで思い出せない名前が、何だか気になる。
ヒモリ。漢字だと桧森なのかな。それとも違う字かな。いまいちピンと来ない。
高校の名前を挙げて尋ねると、ヒモリは高校の同級生だと答えた。それからその人は、アンドウと名乗った。安藤さんかな。
それからヒモリは桧森ではなく、
「灯台守から台を取っ払って。ヒモリって読めるから、そう呼んでた」
そう言われても、頭の中でうまく漢字に変換できなかった。ずっとカタカナのように思ってきたからかな。
安藤さんは、目的の本を数冊手に取りながら、軽く説明してくれた。
聞いているうちに、ぼくはぼくで、その名前に付随する〈伝説〉を思い出していた。
ヒモリという人とぼくは、通りすがりの人に間違えられるくらいに似ているのかな?
安藤さんは少し考えてから、「似てない」と断言した。間違えておいて、それはない。
ところで、とぼくの名前を聞く。
ぼくが名乗ると、安藤さんは目を丸くしたあと、笑い出した。そしてそのまま、ハテナに捕まっているぼくを置き去りにして
「それじゃ、君の兄さんによろしく」
とレジへ去っていった。
どっちの兄ですか、と聞く暇はなかった。
どっちの兄ですか、安藤さん。
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