Tシャツとサンダルの候

高森田楽は焼き方が大事なのだ。

一心行の大桜を見た後は、あそこに行くことは決めていた。

折角、南阿蘇まできたのだ。

高森田楽を食わねば、話になるまい。 

高森へ向かう。

月廻り公園から根子岳を望む。  

高森田楽数々あれど、元祖と言うべき店は、ここ高森田楽保存会だけだ。

30年ぶりに訪れた。

築140年の古民家。

座敷には縁側から通される。

店の女将さんが、

「味噌を焦がさないように注意してくださいね。」

田楽に、味噌を忙しく塗りながら、そう言う。

 

「食べ頃は?」

「味噌が乾いたら食べ頃です。そこからはすぐ焦げますからね。よかですね。」

 

女将さんに、くれぐれも念を押される。

 

ふむ。

どうやら、乾いたと見るや、電光石火、口にしなければいけないらしい。

油断も隙もない料理である。

串に刺されている田楽は、豆腐、蒟蒻、この地方特産の鶴の子芋(里芋の一種)、そして山女魚である。

 

時折、焦げないように、串を回さねばならない。

なんたって、焦がしたら一大事である。

目を離すなんてもっての外なのだ。

「焼いている間に、これをお召し上がりください。食べ方は、まずは田楽味噌で、二つ目からは生姜醤油で・・・」

 

あ、はい。

おっしゃる通りにいたします。

 

 

隣の囲炉裏に若者のグループが座った。

ガヤガヤ

「背ごしって何?」

「さあ?」

「さあ?」

「さあ?」

 

お互いに顔を突き合わせているが、一向に分からないらしい。

ついつい、 じれったくなり、

 

「生の鮎を、骨ごとぶつ切りにしたヤツたい。」(私)

「マジっすか!」

「嘘ついてどうする。」

「へー、旨いんすか。」

「んなもん、好みもあるけんね。注文してみい。」

 

その後も、顔を突き合わせて、ひそひそと相談している。

「このカッポ酒のカッポって、なんなん?焼酎?」

「さあ?」

「さあ?」

「さあ?」

「注文してみようか。」

(あ、バカ止めろ!)

「すいませーん、カッポ酒水割りで。」

 

 

以後、一切関わるのを止めた。

どうやらここの女将さんは、田楽味噌を焦がしてしまう事が、どうにも我慢ならないらしい。

頻繁に見回りに来る。

 

「あ、これはもういい頃合いですね。すぐ食べて下さい。」

 

女将さんの指令が下った。

 

ではでは。

 

努力の甲斐あって、中々の焼き具合じゃないか。

表面は、香ばしくカリッ焼けているぜ。

そして中身は、、、

 

もぐ

 

ふむ、豆腐だ。

でも、これが美味しいんだよ。

 

何しろ、素材と味噌だけの、素朴な料理だ。

それだけに焼き方に、こだわりが有るのは仕方ない事なのだ。 

山女魚。

 

旨し。

 

この後、きび飯とだご汁で締める。

食後、屋敷内のコレクションを見ていたら、御主人が話しかけてきた。

 

「立派な書ですね。」(私)

「先代は孫文先生と交流がありましてね。ちょっと、こちらに来てください。」

 

別室に案内されて、そこの掲げてある孫文や、蒋介石等の書についても、ひとしきり説明を受ける。

 

「こちらはなんと、毛沢東の・・・」

「ははあ」

 

え?書道に関心があるのかって。

全然。

何となく、成り行きでね。

だって、

「もういいです」なんて、言えないでしょうよ。

 

 

でも、 

田楽、美味しゅうございました。

ごちそうさまでした。

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