「先輩、例のブツば作るけん、上陽に来んですか。泊ってもよかですよ。」
このブログにも何度か登場している後輩からの誘いだ。
この後輩、教職を退いた後は、上陽の下横山という集落で農業を営んでいる。
週に一度程度しか自宅へは帰らず、一人で生活しているのだ。
誠に風変わりな男である。
「面白そうやな。そうするか。ついでやから、午前中、グライダー山に登って来る。昼頃お前の作業場に降りてくるたい。」
この後輩は、『いにしえの道』と言う、上陽から耳納連山を越えて、草野へと延びる古道を復活させる会のリーダーでもある。
今年の3月、その道をこの後輩に誘われて、一緒に歩いたことがある。
その時点では、まだまだ復活には程遠かったが、この夏、復活したと聞いた。
旧尾久保小学校跡から登山道が始まる。
地蔵堂に挨拶を済ませると、
本格的な山道となる。
杉林の中を行く。
ホダ場。
石の道標。
前回歩いた時は、 まだまだ古道復活の途中であり、
この場所を始めとして、藪をかき分けて進まねばならない所ばかりだった。
そればかりか、枯れ枝や倒木で埋め尽くされ、迂回を余儀なくされた場所も。
ここまで整備するのは、 並大抵の労力じゃなかったろう。
耳納連山の稜線が見えてきた。
1時間程でグライダー山到着である。
この山の名前の由来は、前回の投稿古の道を行くで書いているので省く。
そんじゃ、
筑紫平野を一望しながら、カップ麺をば、
あらまあ。
また、会っちゃったね、星野みなみちゃん。
奇遇だね。
下山途中、ちょいと道迷いをするも、程なく本道を探し当てた。
その後、林道まで迎えに来ていた後輩と合流する。
ここが後輩の作業場兼宿泊所である。
主な作物は、お茶(イギリスの賞を取っている)と、原木椎茸の栽培である。
「そんじゃ、あれば始めましょうか。ヒヒヒ」(後輩)
邪悪な笑みを浮かべた後輩が言う、「あれ」とは・・・
酒粕で作る焼酎である。
あ、もとい、、、
無論、自家用であっても酒類製造はご法度だ。
焼酎のようなものと言い直しておく。
後輩は、この圧縮窯に酒粕を詰め、水を入れてかき混ぜだした。
それが済むと、やおら、圧縮窯の圧力弁に銅管を繋ぐのだ。
銅管を伝う悪魔の蒸気は、このプラスティックの桶に、グルグルと螺旋を画きながら降りていく。
そして、桶に水を張ると、
冷やされた蒸気は、やがて悪魔の液体と変わり、ここから滴り落ちるという寸法である。
恐るべき悪知恵と言うほかない。
「では、点火しましょう。」
「お、おう。ゴクリ」
「私は明日の出荷の準備があるけん。先輩、ちゃんと見とって下さいよ。」
お前、俺に悪事の片棒を担がせようってか・・・
あ、そうか。
これは焼酎に似たものだったよな。
任せとけ。
お、地獄の釜の最初の一滴が。
一滴が落ちるや否や、後は連続して銅管から流れ出す悪魔の水。
一本目が満杯となった。
どーれ、ちょっと味見を。
グビ
ほほう。
香りは日本酒そのものだが、飲み口はかなり度数の強い・・・
じゃなくて、
一見度数が強そうに舌に感じる、不思議な液体である。
合計4本分で終了である。
右から、一本目、二本目と続くのだが、面白いのは、だんだんと透明度が薄れ、濁ってくるのだ。
それに比例して、雑味も多くなる。
より日本酒に近くなる感じだ。
「作業も終わったけん、そろそろ始めましょうか。」(後輩)
ヤツの愛犬も作業場の中へ入れて、宴会開始である。
原木椎茸うめえ!!
私は原木椎茸が、キノコの中で一番好きである。
それよりなにより、先程蒸留された不思議な液体が実に旨い。
グビグビ
あれ?おかしいなあ。
なんだか酔っぱらってきたけど、どうしてだろう?
まるで酒を飲んでるみたいだぞ。
気のせいかなあ。
ウーーーイ
そんじゃ、とっておきの3種の神器も。
「お、よかですね。飲ませてください。」
「おう、飲め飲め。」
「おでんも食べんですか。」
「おう、矢でも鉄砲でも持ってこい。」
酔いどれ共の夜は更けていく。