売り上げが伸びる選択肢の設定法
達人に学ぶ「伝わる技術」 第37回
PRESIDENT Online スペシャル
著者:上野陽子=文
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「『さあ、この3つのプランでいかがでしょうか』という人を
よく見かける。なぜ、自分で決めて
「このプランに自信があります」と、ひとつに絞れないのだろう」
先日、友人のLがニューヨークからやって来たので
話をしていた。以前にも
この連載に登場した大手証券会社の世界の9割を
まかされるマネージャーだ。最近は、
自分がプレゼンを受けることも多くなり、
こんな風に感じるようだ。それは私も耳が痛い
“相手に選択の荷を負わせ、時間を浪費させること”だった。
たとえば2つのプランを提示するとしよう。
これなら、1本のときよりもヒットする確率が高まるかもしれない。
そして、3つのプランがあれば、
およそすべてをカバーしてより確実な気がしてしまう。
だから、複数のプランを用意してみる。
ところが、今度は提示された側で“選択”を迫られることになるから、
すべての資料に目を通して考えをめぐらせる時間が必要になる。
以前にも書かせていただいたが、「忙しい人にこそ、
ポイントを突いたプレゼンを投げることが重要」だ。
最たるところがエレベーターピッチであり、
短時間で複数のプランを提示することなどありえないだろう。
選択肢を増やしたことでポイントを突くことができなければ、
時間を浪費するばかりでなく、結局は
両者のニーズを満たせないかもしれない。
相手に選択肢を与えればいいというものではないわけだ。
では、今度は視点をマーケットに移して
顧客の前に選択肢を置いてみる。シーナ・アイエンガー教授が
「豊富な選択肢は売り上げを伸ばす」というお店の方針を
実証しようとした実験がある。
その結果がおもしろいので見てみよう。
多すぎる選択肢は、決定の妨げになる
「ジャムの法則」はご存知の方もいらっしゃるだろう。
カリフォルニアのあるスーパーは、
オリーブオイルだけでも75種類を取りそろえる高級スーパーマーケットだ。
ここで研究者のシーナ・アイエンガー氏と
マーク・レッパー氏は、ある週は6種類のジャム、
別の週には24種類のジャムを並べて購入反応をみた。
24種類のジャムが並べられたときは買い物客の60%が試食したが、
6種類では40%しか試食しなかった。ところが、
24種類を並べた棚では3%の人しか購入せず、
6種類のときには30%が購入するという逆転の現象が起こったという。
まとめると、こういうことだ。
試食 → 購買
ジャム24種類 60% 3%
ジャム 6種類 40% 30%
つまり、たくさんの選択肢が必ずしも相手の行動を促すとは限らず、
たくさんの選択肢は人の興味は引くものの、
むしろ意思決定の妨げになるという結果になった。
「私はこのジャムが欲しい」と、
自分の希望をすぐに把握できる程度数のほうが
売り上げにつながったのである。
アイエンガー教授はこの実験で「豊富な選択肢は売り上げを伸ばす」
というお店の方針を実証しようとしたが、
逆に「選択の難しさ」を伝えることになった。
たくさんあると、人は選べなくなるというわけだ。
ありあまる選択肢は合意を導くよりも、
むしろ相手の迷いや後悔を生み出しやすく、
決定の妨げにすらなってしまう。
そのため、用意する選択肢が効果を生むためには
「対象に合わせた絞り込みのバランス」が必要になるのである。
これに関連してTEDのプレゼン「選択のパラドックス」で、
バリー・シュワルツ氏はこんな提案をしている。
選択をするのは顧客ではなく自分自身
バリー・シュワルツ氏は「選択肢を減らすこと」でストレスや不安、
忙しい日常の負担を減らし、自分の人生やキャリアの中で本当に大切なこと、
必要なことだけにフォーカスできるようになるという。
選択肢が増えるほど、実は選択への満足度が下がってしまう。
もしかすると、自分が選択しなかった別の選択肢のほうが
よかったかもしれない……といった想像から、
自分の選択に対して不安や不満を持ってしまうというのだ。
さらに選択肢が多くなると、
いろんな比較ができるために良い選択肢の基準が上がってしまう。
こうした期待値を一定に保つためには、
ある程度こちらで選択をしてから提示してやること。
それが購買者に満足感をもたらす秘訣というわけだ。
さて、視点をプレゼンに戻してみると、
マーケットで消費者に選んでもらうことが売り上げにつながる場面とは異なり、
あるプランを通しプロジェクトを成立させることなどが目的となる。
「自分で決定することを避けるために、複数のプランを用意する。
それによってポイントがボヤけてくる。
それよりも自信を持って自分で決定し、
プレゼンをするほうが成果につながるはずだ」とLは話す。
決してプランが多ければいいわけではない。
もし2案のプランを出すとしても、
自分が自信を持つ方を多少でも声高に掲げることで価値を高め、
選択を促す助けになるだろう。マーケットであれ、
ボスへのプレゼンであれ、相手に選択を期待するのではなく
自分で決断する。そして、その選択をとことん突きつめて絞り込み、
自信を持って提示すること。これにつきるのだ。
[脚注・参考資料]
「選択の科学」(シーナ・アイエンガー 2010 文藝春秋社)
TED 「選択のパラドックス」バリー・シュワルツ Filmed Jul 2005
http://president.jp/articles/-/12898
達人に学ぶ「伝わる技術」 第37回
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「『さあ、この3つのプランでいかがでしょうか』という人を
よく見かける。なぜ、自分で決めて
「このプランに自信があります」と、ひとつに絞れないのだろう」
先日、友人のLがニューヨークからやって来たので
話をしていた。以前にも
この連載に登場した大手証券会社の世界の9割を
まかされるマネージャーだ。最近は、
自分がプレゼンを受けることも多くなり、
こんな風に感じるようだ。それは私も耳が痛い
“相手に選択の荷を負わせ、時間を浪費させること”だった。
たとえば2つのプランを提示するとしよう。
これなら、1本のときよりもヒットする確率が高まるかもしれない。
そして、3つのプランがあれば、
およそすべてをカバーしてより確実な気がしてしまう。
だから、複数のプランを用意してみる。
ところが、今度は提示された側で“選択”を迫られることになるから、
すべての資料に目を通して考えをめぐらせる時間が必要になる。
以前にも書かせていただいたが、「忙しい人にこそ、
ポイントを突いたプレゼンを投げることが重要」だ。
最たるところがエレベーターピッチであり、
短時間で複数のプランを提示することなどありえないだろう。
選択肢を増やしたことでポイントを突くことができなければ、
時間を浪費するばかりでなく、結局は
両者のニーズを満たせないかもしれない。
相手に選択肢を与えればいいというものではないわけだ。
では、今度は視点をマーケットに移して
顧客の前に選択肢を置いてみる。シーナ・アイエンガー教授が
「豊富な選択肢は売り上げを伸ばす」というお店の方針を
実証しようとした実験がある。
その結果がおもしろいので見てみよう。
多すぎる選択肢は、決定の妨げになる
「ジャムの法則」はご存知の方もいらっしゃるだろう。
カリフォルニアのあるスーパーは、
オリーブオイルだけでも75種類を取りそろえる高級スーパーマーケットだ。
ここで研究者のシーナ・アイエンガー氏と
マーク・レッパー氏は、ある週は6種類のジャム、
別の週には24種類のジャムを並べて購入反応をみた。
24種類のジャムが並べられたときは買い物客の60%が試食したが、
6種類では40%しか試食しなかった。ところが、
24種類を並べた棚では3%の人しか購入せず、
6種類のときには30%が購入するという逆転の現象が起こったという。
まとめると、こういうことだ。
試食 → 購買
ジャム24種類 60% 3%
ジャム 6種類 40% 30%
つまり、たくさんの選択肢が必ずしも相手の行動を促すとは限らず、
たくさんの選択肢は人の興味は引くものの、
むしろ意思決定の妨げになるという結果になった。
「私はこのジャムが欲しい」と、
自分の希望をすぐに把握できる程度数のほうが
売り上げにつながったのである。
アイエンガー教授はこの実験で「豊富な選択肢は売り上げを伸ばす」
というお店の方針を実証しようとしたが、
逆に「選択の難しさ」を伝えることになった。
たくさんあると、人は選べなくなるというわけだ。
ありあまる選択肢は合意を導くよりも、
むしろ相手の迷いや後悔を生み出しやすく、
決定の妨げにすらなってしまう。
そのため、用意する選択肢が効果を生むためには
「対象に合わせた絞り込みのバランス」が必要になるのである。
これに関連してTEDのプレゼン「選択のパラドックス」で、
バリー・シュワルツ氏はこんな提案をしている。
選択をするのは顧客ではなく自分自身
バリー・シュワルツ氏は「選択肢を減らすこと」でストレスや不安、
忙しい日常の負担を減らし、自分の人生やキャリアの中で本当に大切なこと、
必要なことだけにフォーカスできるようになるという。
選択肢が増えるほど、実は選択への満足度が下がってしまう。
もしかすると、自分が選択しなかった別の選択肢のほうが
よかったかもしれない……といった想像から、
自分の選択に対して不安や不満を持ってしまうというのだ。
さらに選択肢が多くなると、
いろんな比較ができるために良い選択肢の基準が上がってしまう。
こうした期待値を一定に保つためには、
ある程度こちらで選択をしてから提示してやること。
それが購買者に満足感をもたらす秘訣というわけだ。
さて、視点をプレゼンに戻してみると、
マーケットで消費者に選んでもらうことが売り上げにつながる場面とは異なり、
あるプランを通しプロジェクトを成立させることなどが目的となる。
「自分で決定することを避けるために、複数のプランを用意する。
それによってポイントがボヤけてくる。
それよりも自信を持って自分で決定し、
プレゼンをするほうが成果につながるはずだ」とLは話す。
決してプランが多ければいいわけではない。
もし2案のプランを出すとしても、
自分が自信を持つ方を多少でも声高に掲げることで価値を高め、
選択を促す助けになるだろう。マーケットであれ、
ボスへのプレゼンであれ、相手に選択を期待するのではなく
自分で決断する。そして、その選択をとことん突きつめて絞り込み、
自信を持って提示すること。これにつきるのだ。
[脚注・参考資料]
「選択の科学」(シーナ・アイエンガー 2010 文藝春秋社)
TED 「選択のパラドックス」バリー・シュワルツ Filmed Jul 2005
http://president.jp/articles/-/12898