三越の理念に学ぶ“まごころの精神”
――耳と目と心で「聴く」
誠 Biz.ID
2014年7月18日 11時00分 (2014年7月18日 11時30分 更新)
画像:ITmedia
接客の心得として、「お客さまの立場に立って考えること」とは、
よく言われます。しかし、お客さまが
本当に望んでいることを見抜くのは至難の業です。
●習慣
・気がきく人は、とにかく「聴く」
・気がきかない人は、とにかく「話す」
●お客さまが何を望んでいるかを見抜く
三越の理念には、「まごころの精神」というものがあります。
私が三越で学んだのは、それを
どうやって表現していくかというスキルでした。
ひとくちに「まごころの精神」と言っても、
デパートである三越にはさまざまな売り場があり、
そこにいらっしゃるお客さまが望まれているものも異なります。
食品売場では、スピードと活気こそが
まごころの精神の表現となり、
逆に特選売場では穏やかに距離を保つことが
まごころの精神となります。
距離を保つというのは、
商品を選んでいるお客さまの時間を大切にして、
邪魔をしないということです。
笑顔でさり気なくお客さまを感じながら、
店員を必要としているときだけ、
静かに声をおかけする。
同じ「まごころの精神」でも、
人や場面によって求められるものは違うわけです。
もちろん、三越にも基本的な接客用語はあります。
「いらっしゃいませ」「大変お待たせいたしました」など、
「接客10大用語」と呼ばれるものがあり、
接遇マナーのマニュアルもあります。しかし、
それらはあくまでも基本であって、
どこに配属されるかで必要なスキルは変わってくるのです。
接客で一番大切なのは、
「お客さまの立場に立って考えること」です。
「相手の立場に立て」とはよく言われる言葉ですが、
お客さまの求めているものを、
自分なりに勝手に解釈してしまっていることが多いものです。
私は気づかいを「心を持って正しきことを行うこと」
と定義づけています。
「心」とは、思いやり、おもてなしの心のことです。
「正しきこと」とは、「相手にとって」正しいことであって、
「自分にとって」ではありません。
接客10大用語を暗記し接遇マナーを覚えたとしても、
慣れが生じてくると物事を
自分なりにいいような形にしてしまいがちです。
販売員はお相手をしようと
一所懸命になっているつもりでも、
お客さまはそっとしておいてほしいかもしれません。
この気持ちの差を埋めるのは非常に難しいことです。
黙っているお客さまが、本当は
何を望んでいらっしゃるのかを見抜くのは至難の技だからです。
しかし、あるお客さまとのやりとりから、
私は見抜く術を見つけたのです。…
●背伸びをしても仕方がない
私は、特選売場であるお客さまと
こんなやりとりをしました。
アンティークの高級時計のフェアを行ったときのことです。
私は年配の男性のお客さまのお相手をすることになりました。
お客さまはアンティークの懐中時計をお探しで、
知識も豊富。少しお話ししただけで、
コレクターであることが伝わってきました。
一方、私はと言えば、商品知識を深めようと勉強こそしていたものの、
まだまだ経験の足りない若造です。
私は、背伸びをしても仕方がない、
とすぐに腹をくくりました。
1点数十万円もする品物ばかりです。
お客さまが手に取った時計について、
付け焼き刃の知識をお伝えしても意味がない。
その価値や性能、希少度は
お客さまのほうがよくご存じだと考えて、
身を委ねてしまおうと決めました。
お客さまの話から勉強させていただく機会だととらえ、
聴くことに徹したのです。
「さようでございますか」
「誠に申し訳ありません。勉強不足で」
「本当に、すばらしいものでございますね」
1時間以上、そうして聴いていたかと思います。
最後にお客さまはこう言いました。
「君、若いのにすばらしい接客をするね。
君から買ってあげるよ」
何もしていません。
ずっとお聴きしていただけです。
それが初めて自分が特選売場で販売した高級品でした。
飾りの施された懐中時計で、73万円。
1時間以上、必死になってお客さまの話を聴いたことが、
結果的におもてなしとなっていたのです。
年配の男性のお客さまがそうしてほしいと望まれている、
と見抜いたわけではありません。
相手の立場に立とうと意識的だったとも言えません。
ただ、背伸びをするくらいなら身の丈にあった向き合い方で、
まごころの精神を発揮していこう、
と考えただけでした。
大切なのは、話すことではなく、
耳と目と心で「聴く」ことだったのです。
もしも、あなたに「折り合いが悪い」と感じる人がいたなら、
ぜひ一度、聴くだけに徹したコミュニケーションをとってみましょう。
相手が語りたいだけ語りきった後、
あなたとその人の間には新しい関係性が生じているかもしれません。
●まとめ
語りかけるだけが気づかいではない。
相手の言葉に耳をかたむけることそのものが、
気づかいであり、おもてなしになる。
[上田比呂志,Business Media 誠]
http://www.excite.co.jp/News/it_lf/20140718/Itmedia_bizid_20140718024.html
――耳と目と心で「聴く」
誠 Biz.ID
2014年7月18日 11時00分 (2014年7月18日 11時30分 更新)
画像:ITmedia
接客の心得として、「お客さまの立場に立って考えること」とは、
よく言われます。しかし、お客さまが
本当に望んでいることを見抜くのは至難の業です。
●習慣
・気がきく人は、とにかく「聴く」
・気がきかない人は、とにかく「話す」
●お客さまが何を望んでいるかを見抜く
三越の理念には、「まごころの精神」というものがあります。
私が三越で学んだのは、それを
どうやって表現していくかというスキルでした。
ひとくちに「まごころの精神」と言っても、
デパートである三越にはさまざまな売り場があり、
そこにいらっしゃるお客さまが望まれているものも異なります。
食品売場では、スピードと活気こそが
まごころの精神の表現となり、
逆に特選売場では穏やかに距離を保つことが
まごころの精神となります。
距離を保つというのは、
商品を選んでいるお客さまの時間を大切にして、
邪魔をしないということです。
笑顔でさり気なくお客さまを感じながら、
店員を必要としているときだけ、
静かに声をおかけする。
同じ「まごころの精神」でも、
人や場面によって求められるものは違うわけです。
もちろん、三越にも基本的な接客用語はあります。
「いらっしゃいませ」「大変お待たせいたしました」など、
「接客10大用語」と呼ばれるものがあり、
接遇マナーのマニュアルもあります。しかし、
それらはあくまでも基本であって、
どこに配属されるかで必要なスキルは変わってくるのです。
接客で一番大切なのは、
「お客さまの立場に立って考えること」です。
「相手の立場に立て」とはよく言われる言葉ですが、
お客さまの求めているものを、
自分なりに勝手に解釈してしまっていることが多いものです。
私は気づかいを「心を持って正しきことを行うこと」
と定義づけています。
「心」とは、思いやり、おもてなしの心のことです。
「正しきこと」とは、「相手にとって」正しいことであって、
「自分にとって」ではありません。
接客10大用語を暗記し接遇マナーを覚えたとしても、
慣れが生じてくると物事を
自分なりにいいような形にしてしまいがちです。
販売員はお相手をしようと
一所懸命になっているつもりでも、
お客さまはそっとしておいてほしいかもしれません。
この気持ちの差を埋めるのは非常に難しいことです。
黙っているお客さまが、本当は
何を望んでいらっしゃるのかを見抜くのは至難の技だからです。
しかし、あるお客さまとのやりとりから、
私は見抜く術を見つけたのです。…
●背伸びをしても仕方がない
私は、特選売場であるお客さまと
こんなやりとりをしました。
アンティークの高級時計のフェアを行ったときのことです。
私は年配の男性のお客さまのお相手をすることになりました。
お客さまはアンティークの懐中時計をお探しで、
知識も豊富。少しお話ししただけで、
コレクターであることが伝わってきました。
一方、私はと言えば、商品知識を深めようと勉強こそしていたものの、
まだまだ経験の足りない若造です。
私は、背伸びをしても仕方がない、
とすぐに腹をくくりました。
1点数十万円もする品物ばかりです。
お客さまが手に取った時計について、
付け焼き刃の知識をお伝えしても意味がない。
その価値や性能、希少度は
お客さまのほうがよくご存じだと考えて、
身を委ねてしまおうと決めました。
お客さまの話から勉強させていただく機会だととらえ、
聴くことに徹したのです。
「さようでございますか」
「誠に申し訳ありません。勉強不足で」
「本当に、すばらしいものでございますね」
1時間以上、そうして聴いていたかと思います。
最後にお客さまはこう言いました。
「君、若いのにすばらしい接客をするね。
君から買ってあげるよ」
何もしていません。
ずっとお聴きしていただけです。
それが初めて自分が特選売場で販売した高級品でした。
飾りの施された懐中時計で、73万円。
1時間以上、必死になってお客さまの話を聴いたことが、
結果的におもてなしとなっていたのです。
年配の男性のお客さまがそうしてほしいと望まれている、
と見抜いたわけではありません。
相手の立場に立とうと意識的だったとも言えません。
ただ、背伸びをするくらいなら身の丈にあった向き合い方で、
まごころの精神を発揮していこう、
と考えただけでした。
大切なのは、話すことではなく、
耳と目と心で「聴く」ことだったのです。
もしも、あなたに「折り合いが悪い」と感じる人がいたなら、
ぜひ一度、聴くだけに徹したコミュニケーションをとってみましょう。
相手が語りたいだけ語りきった後、
あなたとその人の間には新しい関係性が生じているかもしれません。
●まとめ
語りかけるだけが気づかいではない。
相手の言葉に耳をかたむけることそのものが、
気づかいであり、おもてなしになる。
[上田比呂志,Business Media 誠]
http://www.excite.co.jp/News/it_lf/20140718/Itmedia_bizid_20140718024.html