JAL並みに注目されたスカイマーク経営破たん、
その明白な理由と見えない未来
マイナビニュース
2015年2月2日 06時00分 (2015年2月2日 11時10分 更新)
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●JAL・ANA対抗勢力を目指したスカイマークの途中で終わった"プレミアム戦略"
1月28日、スカイマークが民事再生法の適用を申請した。
いわゆる経営破たんである。
世界に数多ある航空会社の経営破たんは特に珍しくなく、
日本でもエア・ドゥ(旧北海道国際航空)やソラシドエア(旧スカイネット・アジア航空)など
多くの航空会社が同じ経験している。
しかし、客室乗務員にミニスカートの制服を着せ、
航空機メーカーのエアバス社に総2階建ての豪華な旅客機A380を発注したものの
資金不足でキャンセルするなど、多くの話題を振りまいてきたからだろうか。
今回は、2010年に民事再生法より制約が厳しい会社更生法を申請して
経営破たんしたJAL並みともいえるほど騒がれている。
○スカイマーク全盛期
その一方で、経営破たんのストーリーそのものはいたってシンプルだ。
2004年、スカイマークの社長に就任した西久保愼一社長(1月28日付で退任)は
中型機のボーイング767(279席)を外して燃費効率の良い小型の737(177席)に統一。
加えてサービスを簡素化するなどして運航コストの削減と業務の効率化をはかり、
1998年の初就航から低迷していた業績を見事に回復させた。
2012年3月期の決算では売上高802億円、
営業利益152億円の過去最高の業績を実現した。
一時は世の中もスカイマークに味方した。
2008年のリーマンショックにより経費削減を余儀なくされた出張旅行者は、
半ば仕方なく運賃の安い同社を使うようになった。
ところが、乗ってみると思ったより悪くなかった。
羽田~福岡や札幌といった幹線では、日に10便程度とJALやANAと比べても
さほど不便に感じない頻度で運航され、
座席も大手の普通クラスとそん色ない広さを持ち、
PC用の電源も設置されていた。
これならまた乗ってもいいと感じた乗客がリピーターとなり、
スカイマークの搭乗率を上げていった。
筆者も仕事やプライベートで何度も利用しているが、小型の737を使い、
ポロシャツなどの軽装でそつなく仕事をこなす客室乗務員の姿に、
LCCの老舗である米国のサウスウエスト航空に乗っているような印象を抱いた。
日本にも本当に手軽に空の旅を楽しる文化が
浸透したことを実感していたものである。
○道半ばで終わった"プレミアム戦略"
しかし、世の中は常に動く。より安く、
手軽に乗れる航空会社が日本に誕生した。
そう、低コスト航空会社(LCC)である。…
スカイマークが自社最高の営業利益を叩き出した2012年3月期とほぼ同時期に、
国内初のLCCであるピーチ・アビエーション(以下、ピーチ)が
関西空港を拠点に運航を開始した。
同じ年の夏には成田空港をベースにジェットスター・ジャパンと
エアアジア・ジャパン(現在、バニラエアとして運航)が相次いで定期便を開設した。
スカイマークのサービスはLCCのそれとほとんど変わらない。
使っている飛行機も同規模の小型機(180席など)だ。
当然、旅客を奪い合うことになる。
「LCCとの価格競争は会社の疲弊を招く」と見た西久保前社長は、
従来の戦略ではいずれ行き詰ると考えた。
実際、2014年3月期には5期ぶりの最終赤字を計上している。
そこで、LCCとは一線を画すサービスへの転換をはかった。
それが"プレミアム戦略"だ。国内幹線に中型のA330(271席) を就航させ、
座席は全てプレミアムエコノミーの「グリーンシート」で統一。
その後、総2階建て旅客機エアバスA380(394席を予定)で初の国際線となる
成田~ニューヨーク線を就航するという目論見だった。
○成田・関空に続き、石垣・宮古からも撤退
そして、この戦略を推し進めた結果、同社が
どうなったかは現在盛んに報道されている通りである。
A380の購入は資金不足で断念し、航空機メーカーのエアバス社からは
2014年7月に契約解除および、7億ドル(約830億円)の解約違約金の支払いに関する通知を受けた。
それが報道され悪いイメージをもたれたことも影響し、
プレミアムエコノミーを設置したA330で運航する幹線はおろか、
小型の737で運航する便さえ集客力が落ち込んだ。
2014年12月は年末のピーク需要を見込めるにも関わらず、
54.5%と過去5年で最低水準の座席利用率に低迷した。
全盛期ともいえる2012年夏には国内15空港に就航していたが、
現在は13空港。LCCと競合した関空と成田からはすでに姿を消し、
この2月からは全路線の15%を減便し、
さらに3月下旬からは石垣・宮古からも撤退する計画だ。
従来の戦略ではいずれ行き詰ると考え、
LCCとは一線を画すプレミアム路線に舵を切った。
結果、経営破たんしたというわけだ。
●LCCとも差が開きつつあるスカイマーク、羽田発着がメリットにならないわけ
○旅客シェアはすでにLCCが上
さて、気になるのが今後の行方だ。
現状、スカイマークは中型のA330を撤退させ、
小型の737に統一し運航を続ける方針を打ち出している。…
分かりやすく言えば昔に戻るわけだが、時代は変わった。
国土交通省の統計によると、
2013年の国内定期便の旅客数は約9,250万人。
そのうちスカイマークのシェアは7%強だった。
一方、2012年3月からLCC便の就航がはじまり、
2012年12月時点の国内LCC全社のシェアは4.1%、
その1年後は6.9%、2014年3月には7.5%まで上がり、
スカイマークのシェアを上回るようになった。
その後、LCCはピーチのパイロット不足問題などで2,000便強を減らした時期があったものの
現在は回復。ジェットスター・ジャパンも便数を増し、
春秋航空日本が2014年夏から運航を開始するなど、
LCCの旅客数は堅調に伸びている。
対するスカイマークは中型機の運航を取りやめて小型機に統一し、
2月までに全路線の15%を減便。両社の差はますます開きつつある。
○右肩上がりの訪日需要にも乗れず
訪日外国人需要の取り込みにも差が見られる。
ピーチ、ジェットスター・ジャパン、バニラエア、
春秋航空日本の国内LCCは4社とも自社もしくは
関連会社がアジアやオーストラリアなどへの国際線を運航し、
右肩上がりの外国人旅客を取り込める強みを持つ。
各航空会社は旅客の国籍を公表しないが、
毎月のように飛行機に乗っているとLCCが就航して以来、
国際線はもちろん国内線でも外国人の旅客が増えているのが目に見えて分かる。
就航当初のピーチは台湾で人気を博し、
彼らが同社のスタートダッシュを支える力になったが、
たとえ日本人の旅行需要が冷えても訪日外国人でそれをカバーできれば、
それは経営上の強みとなる。
国際線がなく提携している航空会社もないスカイマークは、この点が弱い。
○強みではなくなってきた「羽田発着」
逆にスカイマークの強みは羽田発着という便利さだった。
だが、これも徐々に弱まっている。
JR東日本の成田エクスプレス、
京成スカイライナーなどの鉄道アクセスは増便と時間短縮で近年利便性を増した。
LCCが就航してからは、片道900円~1,000円で東京駅近辺から成田空港まで約1時間で直行できる、
いわゆる格安シャトルバスも誕生した。
このシャトルバスは好評を博し、
成田発着のLCC便の増加ともに本数も増え、
今ではバス会社3社を合計するとピーク時には10分に1本程度もの頻度で運行されている。
4月には成田空港にLCC用の第3ターミナルが開業するが、
このターミナルにも格安バスは乗り入れる。…
格安旅行の愛好者がスカイマークからLCCにシフトしている大きな要因のひとつが、
こうした地上アクセスの向上にあるのは間違いない。
○出張でもLCCを使う時代
また、最近は各LCCのディレイ(遅れ)がずいぶん解消されたからか、
LCCの機内でも出張旅行者が目につくようになった。
ビジネス利用で重視されるのは1日あたりの運航頻度だが、
この点でもLCCがスカイマークに追いついてきた。
2月現在、スカイマークの羽田~福岡線は1日11便、
ジェットスター・ジャパンの成田~福岡線は同8便とそれほど差はない。
札幌線にいたってはスカイマークが1日8便、
ジェットスター・ジャパンが同7便と僅差だ。
さらに成田~札幌はバニラエアが1日3便を運航し、
これを合わせるとLCCの便数の方が多くなる。
運賃を見ると、同月10日前予約の札幌行きの場合、
スカイマークが9,000円からなのに対し、LCCは5,000円弱からとかなり安い。
ただ、スカイマークの割引運賃は受託(預け)手荷物手数料が含まれ、
予約も取消もができるなど条件の良さがあるため、その点を考慮する必要はある。
とはいえ、スカイマークが拠点とする羽田よりLCCが拠点とする成田の方が運航コストは安く、
スカイマークが運賃の安さでLCCに優るようになるとは考えにくい。
格安旅行なら、たとえ1,000円でも安い方に旅客が流れて行くのは航空業界の常識である。
○世界でも苦心する独立系航空会社
スカイマークは今後、スポンサーを探しつつ経営再建の道を歩んでいく。
ただ、大手とは資本提携せず、かといってLCCにもなれない。
そうした立ち位置にある航空会社が苦心しているのは日本だけの話ではない。
スカイマークが大幅な減便を実施したのと同じ2月1日、
英国のヴァージンアトランティック航空(以下、ヴァージン)が
この日を最後に日本路線から撤退した。
ヴァージンと言えば、1980年代から1990年代にかけて画期的なサービスを次々と打ち出し、
"業界の革命児"といわれたほど有名な航空会社だ。
プレミアムエコノミークラスを世界で最初に設置したのも同社だった。
スカイマークの"プレミアム戦略"も、ヴァージンのサービスに通じるものがあった。
大手とは提携せず、長年にわたって独立経営を貫いた点も似ている。
しかし、そのヴァージンでさえも近年は赤字が続いた。
そのため、デルタ航空と共同運航より緊密な資本を含めた提携を行い、
両社にとって重要な大西洋線(ロンドン~アメリカ線)に力を入れる戦略を選択。…
日本線など高い収益の見込めない路線の運航を取りやめたのである。
日本でもLCCが旅客から支持されシェアを伸ばすようになった。
一方の大手はLCCとの差別化を図るため、サービスの質を上げている。
「羽田発着にしては安い」というだけの航空会社に、
今や以前ほどの魅力は感じられない。
たとえ経営再建を果たして運航を続けられたとしても、
LCCの増便とともにスカイマークの旅客は減っていくだろう。
他の新興航空会社のように大手と共同運航を始めるなら話は別だが、
もし単独での運航を続けるなら旅行者が
魅力を感じる航空会社に生まれ変わるしかない。
○筆者プロフィール: 緒方信一郎
航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。
25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、
テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。
著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。
http://www.excite.co.jp/News/column_g/20150202/Cobs_122797.html
その明白な理由と見えない未来
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2015年2月2日 06時00分 (2015年2月2日 11時10分 更新)
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●JAL・ANA対抗勢力を目指したスカイマークの途中で終わった"プレミアム戦略"
1月28日、スカイマークが民事再生法の適用を申請した。
いわゆる経営破たんである。
世界に数多ある航空会社の経営破たんは特に珍しくなく、
日本でもエア・ドゥ(旧北海道国際航空)やソラシドエア(旧スカイネット・アジア航空)など
多くの航空会社が同じ経験している。
しかし、客室乗務員にミニスカートの制服を着せ、
航空機メーカーのエアバス社に総2階建ての豪華な旅客機A380を発注したものの
資金不足でキャンセルするなど、多くの話題を振りまいてきたからだろうか。
今回は、2010年に民事再生法より制約が厳しい会社更生法を申請して
経営破たんしたJAL並みともいえるほど騒がれている。
○スカイマーク全盛期
その一方で、経営破たんのストーリーそのものはいたってシンプルだ。
2004年、スカイマークの社長に就任した西久保愼一社長(1月28日付で退任)は
中型機のボーイング767(279席)を外して燃費効率の良い小型の737(177席)に統一。
加えてサービスを簡素化するなどして運航コストの削減と業務の効率化をはかり、
1998年の初就航から低迷していた業績を見事に回復させた。
2012年3月期の決算では売上高802億円、
営業利益152億円の過去最高の業績を実現した。
一時は世の中もスカイマークに味方した。
2008年のリーマンショックにより経費削減を余儀なくされた出張旅行者は、
半ば仕方なく運賃の安い同社を使うようになった。
ところが、乗ってみると思ったより悪くなかった。
羽田~福岡や札幌といった幹線では、日に10便程度とJALやANAと比べても
さほど不便に感じない頻度で運航され、
座席も大手の普通クラスとそん色ない広さを持ち、
PC用の電源も設置されていた。
これならまた乗ってもいいと感じた乗客がリピーターとなり、
スカイマークの搭乗率を上げていった。
筆者も仕事やプライベートで何度も利用しているが、小型の737を使い、
ポロシャツなどの軽装でそつなく仕事をこなす客室乗務員の姿に、
LCCの老舗である米国のサウスウエスト航空に乗っているような印象を抱いた。
日本にも本当に手軽に空の旅を楽しる文化が
浸透したことを実感していたものである。
○道半ばで終わった"プレミアム戦略"
しかし、世の中は常に動く。より安く、
手軽に乗れる航空会社が日本に誕生した。
そう、低コスト航空会社(LCC)である。…
スカイマークが自社最高の営業利益を叩き出した2012年3月期とほぼ同時期に、
国内初のLCCであるピーチ・アビエーション(以下、ピーチ)が
関西空港を拠点に運航を開始した。
同じ年の夏には成田空港をベースにジェットスター・ジャパンと
エアアジア・ジャパン(現在、バニラエアとして運航)が相次いで定期便を開設した。
スカイマークのサービスはLCCのそれとほとんど変わらない。
使っている飛行機も同規模の小型機(180席など)だ。
当然、旅客を奪い合うことになる。
「LCCとの価格競争は会社の疲弊を招く」と見た西久保前社長は、
従来の戦略ではいずれ行き詰ると考えた。
実際、2014年3月期には5期ぶりの最終赤字を計上している。
そこで、LCCとは一線を画すサービスへの転換をはかった。
それが"プレミアム戦略"だ。国内幹線に中型のA330(271席) を就航させ、
座席は全てプレミアムエコノミーの「グリーンシート」で統一。
その後、総2階建て旅客機エアバスA380(394席を予定)で初の国際線となる
成田~ニューヨーク線を就航するという目論見だった。
○成田・関空に続き、石垣・宮古からも撤退
そして、この戦略を推し進めた結果、同社が
どうなったかは現在盛んに報道されている通りである。
A380の購入は資金不足で断念し、航空機メーカーのエアバス社からは
2014年7月に契約解除および、7億ドル(約830億円)の解約違約金の支払いに関する通知を受けた。
それが報道され悪いイメージをもたれたことも影響し、
プレミアムエコノミーを設置したA330で運航する幹線はおろか、
小型の737で運航する便さえ集客力が落ち込んだ。
2014年12月は年末のピーク需要を見込めるにも関わらず、
54.5%と過去5年で最低水準の座席利用率に低迷した。
全盛期ともいえる2012年夏には国内15空港に就航していたが、
現在は13空港。LCCと競合した関空と成田からはすでに姿を消し、
この2月からは全路線の15%を減便し、
さらに3月下旬からは石垣・宮古からも撤退する計画だ。
従来の戦略ではいずれ行き詰ると考え、
LCCとは一線を画すプレミアム路線に舵を切った。
結果、経営破たんしたというわけだ。
●LCCとも差が開きつつあるスカイマーク、羽田発着がメリットにならないわけ
○旅客シェアはすでにLCCが上
さて、気になるのが今後の行方だ。
現状、スカイマークは中型のA330を撤退させ、
小型の737に統一し運航を続ける方針を打ち出している。…
分かりやすく言えば昔に戻るわけだが、時代は変わった。
国土交通省の統計によると、
2013年の国内定期便の旅客数は約9,250万人。
そのうちスカイマークのシェアは7%強だった。
一方、2012年3月からLCC便の就航がはじまり、
2012年12月時点の国内LCC全社のシェアは4.1%、
その1年後は6.9%、2014年3月には7.5%まで上がり、
スカイマークのシェアを上回るようになった。
その後、LCCはピーチのパイロット不足問題などで2,000便強を減らした時期があったものの
現在は回復。ジェットスター・ジャパンも便数を増し、
春秋航空日本が2014年夏から運航を開始するなど、
LCCの旅客数は堅調に伸びている。
対するスカイマークは中型機の運航を取りやめて小型機に統一し、
2月までに全路線の15%を減便。両社の差はますます開きつつある。
○右肩上がりの訪日需要にも乗れず
訪日外国人需要の取り込みにも差が見られる。
ピーチ、ジェットスター・ジャパン、バニラエア、
春秋航空日本の国内LCCは4社とも自社もしくは
関連会社がアジアやオーストラリアなどへの国際線を運航し、
右肩上がりの外国人旅客を取り込める強みを持つ。
各航空会社は旅客の国籍を公表しないが、
毎月のように飛行機に乗っているとLCCが就航して以来、
国際線はもちろん国内線でも外国人の旅客が増えているのが目に見えて分かる。
就航当初のピーチは台湾で人気を博し、
彼らが同社のスタートダッシュを支える力になったが、
たとえ日本人の旅行需要が冷えても訪日外国人でそれをカバーできれば、
それは経営上の強みとなる。
国際線がなく提携している航空会社もないスカイマークは、この点が弱い。
○強みではなくなってきた「羽田発着」
逆にスカイマークの強みは羽田発着という便利さだった。
だが、これも徐々に弱まっている。
JR東日本の成田エクスプレス、
京成スカイライナーなどの鉄道アクセスは増便と時間短縮で近年利便性を増した。
LCCが就航してからは、片道900円~1,000円で東京駅近辺から成田空港まで約1時間で直行できる、
いわゆる格安シャトルバスも誕生した。
このシャトルバスは好評を博し、
成田発着のLCC便の増加ともに本数も増え、
今ではバス会社3社を合計するとピーク時には10分に1本程度もの頻度で運行されている。
4月には成田空港にLCC用の第3ターミナルが開業するが、
このターミナルにも格安バスは乗り入れる。…
格安旅行の愛好者がスカイマークからLCCにシフトしている大きな要因のひとつが、
こうした地上アクセスの向上にあるのは間違いない。
○出張でもLCCを使う時代
また、最近は各LCCのディレイ(遅れ)がずいぶん解消されたからか、
LCCの機内でも出張旅行者が目につくようになった。
ビジネス利用で重視されるのは1日あたりの運航頻度だが、
この点でもLCCがスカイマークに追いついてきた。
2月現在、スカイマークの羽田~福岡線は1日11便、
ジェットスター・ジャパンの成田~福岡線は同8便とそれほど差はない。
札幌線にいたってはスカイマークが1日8便、
ジェットスター・ジャパンが同7便と僅差だ。
さらに成田~札幌はバニラエアが1日3便を運航し、
これを合わせるとLCCの便数の方が多くなる。
運賃を見ると、同月10日前予約の札幌行きの場合、
スカイマークが9,000円からなのに対し、LCCは5,000円弱からとかなり安い。
ただ、スカイマークの割引運賃は受託(預け)手荷物手数料が含まれ、
予約も取消もができるなど条件の良さがあるため、その点を考慮する必要はある。
とはいえ、スカイマークが拠点とする羽田よりLCCが拠点とする成田の方が運航コストは安く、
スカイマークが運賃の安さでLCCに優るようになるとは考えにくい。
格安旅行なら、たとえ1,000円でも安い方に旅客が流れて行くのは航空業界の常識である。
○世界でも苦心する独立系航空会社
スカイマークは今後、スポンサーを探しつつ経営再建の道を歩んでいく。
ただ、大手とは資本提携せず、かといってLCCにもなれない。
そうした立ち位置にある航空会社が苦心しているのは日本だけの話ではない。
スカイマークが大幅な減便を実施したのと同じ2月1日、
英国のヴァージンアトランティック航空(以下、ヴァージン)が
この日を最後に日本路線から撤退した。
ヴァージンと言えば、1980年代から1990年代にかけて画期的なサービスを次々と打ち出し、
"業界の革命児"といわれたほど有名な航空会社だ。
プレミアムエコノミークラスを世界で最初に設置したのも同社だった。
スカイマークの"プレミアム戦略"も、ヴァージンのサービスに通じるものがあった。
大手とは提携せず、長年にわたって独立経営を貫いた点も似ている。
しかし、そのヴァージンでさえも近年は赤字が続いた。
そのため、デルタ航空と共同運航より緊密な資本を含めた提携を行い、
両社にとって重要な大西洋線(ロンドン~アメリカ線)に力を入れる戦略を選択。…
日本線など高い収益の見込めない路線の運航を取りやめたのである。
日本でもLCCが旅客から支持されシェアを伸ばすようになった。
一方の大手はLCCとの差別化を図るため、サービスの質を上げている。
「羽田発着にしては安い」というだけの航空会社に、
今や以前ほどの魅力は感じられない。
たとえ経営再建を果たして運航を続けられたとしても、
LCCの増便とともにスカイマークの旅客は減っていくだろう。
他の新興航空会社のように大手と共同運航を始めるなら話は別だが、
もし単独での運航を続けるなら旅行者が
魅力を感じる航空会社に生まれ変わるしかない。
○筆者プロフィール: 緒方信一郎
航空・旅行ジャーナリスト。旅行業界誌・旅行雑誌の記者・編集者として活動し独立。
25年以上にわたり航空・旅行をテーマに雑誌や新聞、
テレビ、ラジオ、インターネットなど様々なメディアで執筆・コメント・解説を行う。
著書に『業界のプロが本音で教える 絶対トクする!海外旅行の新常識』など。
http://www.excite.co.jp/News/column_g/20150202/Cobs_122797.html