鳴り物入りで始まった政府の「Gotoトラベル」キャンペーン。事業スタートの前倒しをはじめ、東京除外やキャンセル料の補償の有無、団体旅行の取り扱いなど場当たり的な対応から混乱を極め、当初は「Gotoトラブル」とも揶揄されていました。
おさらいすれば、 Gotoトラベル事業は、国内旅行代金の50%相当額を1人1泊2万円(日帰りは1万円)を上限に利用者へ補助する国土交通省の事業です。
50%のうち、35%分(最大1万4千円)は旅行代金から割り引き、残る15%分は旅先での買い物に使えるクーポン券を配るという仕組みになっています。
当初は、様々なトラブルの発生によりメディアなどから(それこそコテンパンに)批判されてきたこの事業ですが、(何せ国民に対しては「大盤振る舞い」とも言える政策であるだけに)その後の人気はまずまずのようです。
特に10月に東京発着旅行の追加やクーポンの配布が開始されて以降、「Yahoo!トラベル」や「じゃらん」などの一部の大手サイトでは、予約が集中し割り当てられた予算が上限に達しつつあるとの話も聞きます。
しかし、それにより一部のサイトで1万4千円だった割引上限額を3500円に引き下げるなどの対応をとったところ、今度は1万4千円満額もらえるサイトに申し込みが殺到するなど、(人気になればなっただけの)トラブルも生まれているのが現状のようです。
一方、農林水産省が所管するもう一つのGotoが、「Gotoイート」キャンペーン事業です。
予約サイトを経由して、店を利用した場合、昼食で500円、午後3時以降の夕食で1000円分のポイントが付与されるこの事業。地域ごとに使えるプレミアム付き食事券の販売含め、イート事業の予算は全体では実に2003億円もの国費がつぎ込まれています。
野上浩太郎農水相は10月20日の記者会見で、当該ポイント付与事業に関し、制度が始まった10月1日からの9日間で延べ約558万人(昼食131万人、夕食427万人)の予約があったと明らかにしています。
一方、事業にかかる「プレミアム付き食事券」の販売に関しては、ネット上でも不満の声が数多く上がっているということです。ツイッターなどでは「完売により買えなかった」との嘆きが目立ち、「何回も買っている人がいて不公平」「暇な高齢者や高額所得者に有利」などの書き込みも多いようです。
さて、こうして賛否両論の中でも不思議と盛り上がっているGoto事業に関し、10月22日の東洋経済ONLINEは、消費経済ジャーナリストの松崎のり子氏による「「GoTo」は日本人の"損得勘定"を鈍らせている」と題する興味深い論考を掲載しています。
まずは今回の「Gotoトラベル」事業に関し、松崎氏は、事業を巡る一連の騒動の根幹にあるのは、「人がトクしているのに、自分だけが損したくない」という心理だろうと説明しています。
そもそもこの事業には、東京を除外したままトラベルを見切りスタートしたところから「税金を使っているのに不公平じゃないか」という不満が蔓延していた。
さらには、「旅行に行く余裕のある金持ちばかりが恩恵にあずかるなんて不公平だ」「なぜ一部の産業ばかりが補助されるのか不公平だ」「医療関係者は旅行どころではないのに不公平だ」という「不公平」のオンパレード。
これは、日本人がいかに「自分が他人と同等の恩恵を受けられない不公平」に過敏な人たちかということの証明だろうと氏は指摘しています。
実は、今回のGoToキャンペーンには、人の心理を煽る仕組みがそこここに隠されているというのが、この論考における氏の認識です。
結果的に、人は(煽りに乗り)このキャンペーンに嬉々として参加しようとし、お金を落とす。自分だけは「損する側」に回りたくないという気持ちが先に立ち、「ついついお金を使ってしまう」ということです。
因みに、巷にはこれらの「Goto事業」に関し「税金使っているのに不公平だ」という指摘があるが、これは明らかに間違った認識だと松崎氏はこの論考で断じています。
トラベルは「甚大な被害を受けている観光業について、官民一体型の需要喚起キャンペーンを実施」(国土交通省の資料より)するもの。イートは「感染予防対策に取り組みながら頑張っている飲食店を応援し、食材を供給する農林漁業者を応援」(農林水産省のHPより)するのが目的であり、もともと(ともに)国民に割引サービスをしようという事業ではない。
だから、旅行や飲食にたくさんお金を使える余裕のある人に「もっと使ってもらおう」というのが本筋であって、「政府にまんまと乗せられて、(奴らは)たくさんお金を使わさせられている」と思った方がいいというのが氏の見解です。
実際、GoToトラベルの割引は半額といった「率」で計算されるため、高い宿に泊まった方が割引される実質金額は大きくなる。「宿代でトクしたんだから」と、そのぶん料理のグレードをアップしたり、ちょっといいランクのお酒を頼んだりすることで、余計にお金を使わせることに成功しているということです。
さて、新型コロナウイルスの感染拡大によって「不要不急の外出」の自粛を求められた「自粛生活」生活に慣れ切った体に、再び旅行や外食の快感を呼び起こさせるためのGotoキャンペーンですが、そういう意味では、私たちは(気が付かないうちに)政府に上手に「欲」をくすぐられ、話題性やお得感につられて踊らされているのかもしれません。
「不公平」ではないかといった話題が炎上し、バズればバズるほど認知度が増し消費意欲が喚起されていく。観光産業や外食産業に与える事業効果はともかくとしても、政府のこうした新しいやり口に、私も改めて舌を巻いたところです。
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