昨年(2024年)に「早期・希望退職募集」を行った上場企業は57社(前年41社)で、前年から39.0%増加。募集人員は1万9人(同3,161人)と3倍に急増し、2021年の1万5,892人以来、3年ぶりに1万人を超えたと企業情報の「商工リサーチ」が伝えています。
構造改革プログラムの一環として1,000人を募ったオムロンや、「ミライシフトNIPPON2025」プロジェクトで1,500人を募った資生堂、グローバル構造改革でグループ全社2,400人に及ぶ募集を行ったコニカミノルタなど、相次ぐ大手メーカーの大型募集で人数が膨れ上がった由。「早期・希望退職者」を募集した企業の直近通期最終損益(単体)は、黒字企業が34社(構成比59.6%)と約6割を占めており、収益性の高い企業が更なる構造改革の一環として進めるケースが目立つということです。
それにしても、日本中の企業から「人手不足」の声が上がる中、経験豊富な(貴重な)人材から「早期退職」を募るというのも、不思議と言えば不思議な話。それでも断行する経営陣の思惑とは、いったいどこにあるのでしょうか。1月23日のビジネス情報サイト「DIAMOND ONLINE」に、多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏が『空前の人手不足…なのに企業が「早期退職」を増やす納得の理由』と題する論考を寄せているので、指摘の一部を小サイト残しておきたいと思います。
日本商工会議所と東京商工会議所が実施した『人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査』(24年9月:全国47都道府県の2392社を対象)によると、「人手が不足している」と回答した企業は半数を大きく超える63.0%。うち65.5%は、廃業のリスクが高まるなど事業継続に支障が出る恐れがあると回答していると真壁氏はこの論考に綴っています。(帝国データバンクの調査によれば)2024年の人手不足倒産件数は実際に342件に及んでおり、同社が調査を開始した2013年以降の過去最多を2年連続で更新中だということです。
そうした中、人手不足への主な対応策として、大手企業を中心に賃上げの重要性が高まっていると氏は言います。氏によれば、賃上げができないと、従業員が転職してしまう傾向が目立っているとのこと。例えば、パート従業員数約42万人を有する小売り大手のイオンは、パートの時給を7%上げる調整に入ったと報じられており、人件費の増加額は約400億円に達する可能性があるということです。
中には、賃上げの原資を捻出するため、早期退職を実施する大手企業も増えている。業績は黒字でも、早期退職を実施する企業も多いと氏は状況を説明しています。特に、システム化が進む大手製造業種などでは、積極的な賃上げによってデジタル分野など専門性の高いプロ人材を確保し、1人当たりの付加価値創出額を増やす戦略を採る企業も多いということです。
一方、わが国の雇用を支える大多数の中小企業はどうなのか。大企業と事業規模の小さい事業者とでは、賃上げなど人手不足への対応に格差が出ていると氏は指摘しています。余裕のある大企業は賃上げを比較的行いやすい一方で、中小企業にとって大幅な賃上げは容易ではない。産業ごとに商習慣もあって価格転嫁も一筋縄にはいかない中、賃上げ以外の方策で(人手不足への)対応を模索する事業者も出始めているということです。
例えば物流分野では、ドライバー不足に対応するため、異業種を巻き込んだ共同配送や荷物を載せて運ぶパレットの規格統一などが始まっている。資本・業務提携やM&A(企業の合併・買収)戦略を重視する中小企業も増えており、事業継承に加えて、人手不足を克服するために他社と事業を統合する、あるいは自社の事業を売却する事業主が増えているということです。
事業統合した企業は、従来よりも少ない人員での業務が可能になる。こうした中小企業の事業統合やM&A増加が労働市場に与える影響は、今後ますます注目されるだろうというのが氏の予想するところ。統合により経営体力が向上することで、中小企業でも人材開発戦略が実行しやすくなるとともに、退職者が出た場合も既存の人員で事業の効率性を高める余地が拡大するということです。
しかし、今年は中小企業も早期退職を募り、人材の新陳代謝の向上を目指すことが増えるかもしれない。中小企業のM&Aの重要性が高まることも、わが国の労働市場の流動性の向上を支える要素になると氏は話しています。人手不足は一見すると逆風であるものの、これを追い風にして労働市場の改革が進む可能性はある。賃上げ自体は25年も引き続き、焦点となるだろうというのが氏の予想するところです。
大企業の中には、新卒学生の初任給を大幅に引き上げ、若年層の人員確保を目指すところが増えている。役職定年後に実力ある人材の雇用を延長する企業も増加傾向にあると氏は話しています。
「失われた30年」という言葉で表現されることが多いわが国経済も、令和時代に人手不足倒産に直面し、人材の重要性を改めて見直す段階にあるというのが氏の認識です。たとえ人口が減少しても、働く人のリスキリングや就業意欲向上を刺激することで、高付加価値の商品を生み出せれば経済成長は可能となる。政府が人材のマッチング政策を実行することは、労働市場の改革の促進、わが国経済の回復に重要な役割を果たすはずだと話す真壁氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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