MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2605 韓国で広がる核保有論

2024年07月06日 | 国際・政治

 世界の国々の中で、核兵器の保有が確認されている国は、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の国連安全保障理事会常任理事国の(第二次大戦戦勝)5か国に、パキスタン、インド、北朝鮮、イスラエルを合わせた9か国とみなされています。

 このうち、NPT(核拡散防止条約)を批准しているのは米ロ英仏中の5か国のみで、NPTの発効後に核実験を行なったインド・パキスタン・北朝鮮などは、この条約が「特定の国家のみに核保有の特権を与える差別条約である」として加盟に否定的との話も聞きます。

 こうして眺めてみると、(米英仏はともかくとしても)隣国ウクライナと交戦中のロシアに加え、パレスチナガザ地区への軍事侵攻が非難されているイスラエル、国際法に違反するミサイル開発などが問題視されている北朝鮮、拡張主義による近隣諸国との摩擦が絶えない中国など、(政治的にも不安定で)一つ間違えば大変な事態になりかねない国々が名を連ねていることに改めて驚かされます。

 特に日本を取り巻く東アジアの安全保障を考えるうえでは、北のロシアに西の中国、もちろん太平洋を挟んだ東には米国があり、そこに北朝鮮が加わるとなれば、いわゆる四面楚歌、もはや近隣に逃げ場はどこにもないといった感じがしないでもありません。

 ならば日本も核保有国に…そうした意見もないわけではないのでしょうが、世界で唯一の被爆国である日本国民の間にある反核感情、「核」へのアレルギーを思えば、そうシンプルに割り切れるものではありません。政治権力や国民の判断を信じ切れない以上、私自身も(例えば)現状日本の自衛隊が核兵器を所有することについて問われれば、反対の立場を採ることでしょう。

 しかし、北朝鮮とロシアの軍事的な協力関係が明らかにされつつある現在、北朝鮮と国境を接するお隣の韓国では「核保有」の問題が、政治的に大きな争点となりつつあるようです。

 6月28日の「Yahoo news」に、コリア・レポート編集長でジャーナリストの辺真一氏が『韓国人の66%が「核保有」に「賛成」 政府と専門家らは「反対」!』と題する論考を寄せていたので、参考までに概要を小欄に残しておきたいと思います。

 韓国国内では、北朝鮮とロシアがプーチン大統領の訪朝を機に「包括的戦略パートーナシップ条約」を結んだことで安全保障を懸念する声が高まっていると、辺氏はこの論考に記しています。

 この条約には、ロシアが朝鮮半島有事の際に軍事介入する恐れがあること、「国家主権を守護し、安全と安全を保障する発展権を擁護するための政策と措置を相互支持する」ことが盛り込まれている。そうした中で、ロシアが北朝鮮の核とミサイル開発を容認するのではと危惧する向きも多いということです。

 このような国民の憂慮を意識したのか、与党「国民の党」内では(党の代表選に出馬している)羅卿瑗議員が「今はもう私たちも核武装をしなければいけない」との声を上げた。また対抗馬とされる韓東勲前非常対策委員長も「核武装の潜在的力量を備えよう」と主張するなど、競うように核武装を容認する発言を行っていると辺氏は指摘しています。

 一方の韓悳洙首相は、「核武装論は考慮する段階ではないと考える」と政府の方針を明らかにしている。しかし、問題は世論の動向にあり、実際、韓国政府の外郭団体である「統一研究院」が実施した国民の統一意識に関する世論調査によれば、国民の66%が核武装に賛成の意思表示をしているということです。

 ポイントとなるのは、(何よりも)北朝鮮が外交手段として核を保有しているだけで「実際に使うことはない」と受けとめている国民が31.3%しかないこと。また、今後、北朝鮮の核放棄の可能性についても、「経済制裁を強化するだけでは不可能」と、64.3%が悲観的に捉えていることだと氏は話しています。

 また、調査には「国防のためには米軍の駐屯と核兵器の保有のどちらが望ましいか」との設問もあり、「核兵器保有」が44.6%と、「米軍の駐屯」の40.6%を上回ったということです。

 「米軍の駐留」と「核兵器の保有」を『二択』で聞くのも(日本人にとっては)ちょっと不思議な感覚ですが、有史以来大国に蹂躙され続けてきた朝鮮半島の人々の間に、米国の核の傘の下に入ることを潔しとしない気持ちがあるのも理解できないではありません。また、徴兵制のもとで、北朝鮮との間に未だ臨戦態勢を敷く韓国国民の間に、「自分たちの国は自分たちで守る」という意識が強いこともその理由としてはあるのでしょう。

 ちなみに、昨年6月に実施された統一研究院の世論調査では、核保有に賛成とする意見は60.2%であった由。今回の調査結果はそれよりも、6ポイントほど上回っていたことになり、韓国世論において北朝鮮の軍事的脅威への意識がますます高まっていることを感じさせます。

 しかし、辺氏によれば、(それでも)韓国政府は自国の核武装論には与しておらず、保守強硬派と言われている尹錫悦大統領は、現時点では核武装については積極的ではないとのこと。大統領候補時代の遊説(2021年9月)でも、「独自の核武装は国際社会から孤立する可能性が高いので反対だ」と述べ、以来、核開発には意欲を示してこなかったということです。

 しかし、その尹大統領も、近年の国民の間に広がる核武装を求める声を受け、2023年1月の外交・国防報告会では「韓国が戦術核を配置するとか、自ら核を保有することもできる。そうなれば、我々の科学技術で早い時期に我々も核兵器を持つことができる」と発言。(あくまで「可能性」としてではあるが)核開発の余地を残す発言をせざるを得なかったと辺氏は話しています。

 昨年上半期に行われた3度の世論調査で、「韓国も独自に核兵器を開発すべき」との声が64~76%を占めている韓国。同時に、国民の半数以上が米国に韓国への戦術核の配備を求めており、いずれにしても北朝鮮やロシア、中国に軍事的に対抗するためには、抑止力としての核の力が必要だという声が日増しに高まっているのは偽りのない真実のようです。

 国家安全保障における地政学的な状況が大きく変化している現在、(米国全土の都市を狙うまでに)ミサイル・核兵器の開発技術を磨く北朝鮮に対し、アメリカは韓国を守ってくれるのか、国民は疑問に思っているということなのでしょう。

 2016年当時、米国のドナルド・トランプ米大統領が、韓国がアメリカの防衛体制にタダ乗りしていると非難したのは記憶に新しいところ。在韓米軍の経費を韓国政府に負担させるか、さもなければ軍を撤退させるとの脅しに対し、韓国国民が受けたショックや不信感は想像に難くありません。

 つまりそれは、「韓国を守る」という米国の約束は、次の大統領が「誰になるか」で大きく変わり得るということ。それを理解したうえで核兵器の独自開発を支持する韓国国民の数が増えつつあることを、私たちは十分理解しておく必要があるのかもしれません。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿