総務省統計局が今年2月に発表した「労働力調査(詳細集計2023)」によれば、国内のいわゆる「共働き世帯」(夫、妻ともに非農林業雇用者である世帯)の世帯数は1,278万世帯(前年1,262万世帯)とのこと。一方の「専業主婦世帯」(夫が非農林業雇用者で妻が非就業者である世帯)は517万世帯(前年539万世帯)ということなので、現在の日本では全勤労世帯のおよそ7割が共働きであることがわかります。
また、(その)「共働き世帯」について、働き方(週1~34時間就業、週35時間以上就業)別に見てみると、妻の働き方が、「週1~34時間」(のいわゆるパート勤務)が661万世帯。一方、「週35時間以上」(となる終日雇用)が542万世帯で、うち夫・妻とも「週35時間以上」が490万世帯に及ぶなど、完全二馬力の共働きパワーカップルの増加が窺われるところです。
こうして社会環境が変化する中、各家庭で問題となってくるのが「家事の負担をどうするのか問題」であることは想像に難くありません。総務省の社会生活基本調査(2021)によれば、6歳未満の子どもがいる共働き世帯の1日当たりの家事関連時間は、妻が6時間32分だったのに対し夫は僅かに1時間57分で、妻の3分の1にも及ばない由。米欧などと比べて女性への偏りが目立つ状況に、いら立ちを隠せない妻たちもきっと多いことでしょう。
そうした折、6月5日の経済情報サイト「現代ビジネス」では、慶應義塾大学準教授岩尾俊兵氏の近著「世界は経営でできている」をもとに、『家事を「手伝う」夫はいらない―共働き夫婦が幸せな家庭を築けない本当のワケ』と題する興味深い記事を掲載しているので、参考までに小欄に概要を残しておきたいと思います。
夫婦間には、揉め事ひとつをとっても様々な原因がある。例えば、妻には夫の奇妙な行動の数々(例えば、なぜ中身ちょっと残しのコップをところかまわず置いていくのか、なぜ空き缶が洗面所に放置されているのかなど)が全く理解できないと岩尾氏はしています。
一方の夫からすると、今まさに片付けようと思っていたコップやゴミに妻がなぜそこまでヒステリックに反応するのか理解できない。そこで夫は妻に「更年期?」などとたずね、深刻な喧嘩に発展したりする。また、例えば夫の「ボディソープきれてるよ」(←妻の気持ち:気づいたなら自分で補充しろ)、「ごはんまだ? 疲れてるなら、今日はカレーでいいよ」(←妻の気持ち:今日は風邪気味だっていっただろ、カレーが簡単だと思うならお前が作れ)」などの一言が、新婚の妻を厳しい現実に引き戻すこともあるということです。
こうした夫たちの失態(夫側はこれのどこが失態か理解できないのだが)の数々は、要するに妻に「母の役割」を求めているために引き起こされるというのが、岩尾氏がこの著書で指摘するところです。
男は独立するまでは母子関係にどっぷりと依存している。もとは母親の胎内から生まれたのだからそれも当然のこと。そして、母子関係は基本的に「私の子はいい子」の発想が強く、子というだけでさまざまに世話を焼いてもらえるのが普通だと(少なくとも子供は考えていると)いうことです。
基本的には子でいること自体が母への価値提供=幸せの源泉になっているため、子は家庭内で顧客満足を求めて問題解決するインセンティブを持つ必要がない。しかし、大抵の男(の子)は結婚を機に、依存的な母子関係を断ち切る(断ち切らざるを得ない)と氏は話しています。
断ち切れない人は「マザコン野郎」などと全女性から断罪され、百叩きされる憂き目にあう。このとき依存的な母子関係を断ち切って夫婦関係に注力しようとする真面目な夫ほど、こうして断ち切って、失ってしまった母子関係を妻に求め始めるというのが氏の感覚です。
そのため、彼氏から夫になった瞬間、夫はまるで母からみた子のように甘え始める。赤ちゃんぶって、自分の存在そのものが妻への価値提供になっていると思いたがる男たち。そしてこれを女性の側から見れば、これまであれほど頼もしく見えていた男が、わがままな始末に負えないガキに変わる瞬間になるということです。
さて、配偶者はもともと他人なのだから、本来、家庭内顧客として対応すべき相手だと氏はこの著書に綴っています。就業時間や給料も大して変わらない「共働き世帯」であればなおのこと。(にもかかわらず)対等のパートナーとしての関係という期待は見事に裏切られ、「こんな筈じゃなかったのに…」とイラつく妻たちに同情は禁じえません。そう考えれば、(それでも)多少口うるさくなるくらいで婚姻関係を継続してくれている彼女たちに、男性諸氏は(自身への反省を込め)もっと謙虚になるべきなのだろうと、私も改めて感じたところです。
※「#2609 妻が口うるさいのにはワケがある(その2)」に続く
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