つれづれなるまま(小浜正子ブログ)

カリフォルニアから東京に戻り、「カリフォルニアへたれ日記」を改称しました。

中国風信25 上海と北京、昨今(『粉体技術』9-2, 2017.2より転載)

2017-09-17 23:49:08 | 日記
 昨年の師走、上海の大学と北京の研究所に、それぞれ短い出張で出かけた。その時のとりとめない様子などを記してみよう。
 上海では、旧フランス租界地区の、古い洋館を改修した美しいこぢんまりしたホテルに泊まった。旧市街の中でもおしゃれな場所とされているこの地区は、散歩をしていてもなんとなく楽しい。街がやや暗く、歳末の賑わいも今ひとつな感じがしたのは、中国経済が失速気味だということなのか、はたまた習近平政権の腐敗取り締まりが厳しいせいだろうか。とはいえ、この地域の消費生活はすでに成熟の域に達した感があり、ハイセンスなアクセサリー店やネイルサロンなども、さりげなく店を構えている。値段は日本と同じくらいだろうか。近くの不動産屋の看板を見てみると、150平方㍍とか180平方㍍とかいう豪華マンションが、数千万元(=数億円)の値段でたくさん出ている。賃貸マンションも日本の常識を上回る家賃で、上海の中心部に住むのはたいへんだ。
 ホテルから歩いていける場所にある上海図書館では、いつものように多くの人が勉強や調べものに余念がなかった。上海の本屋で一番品揃えがよいと文化人の間で評価が高い「季風書屋」も、地下鉄の上海図書館駅構内に移転してきて、便利になった。店内には落ち着いたカフェもあり、コーヒーを飲みながら購入した本を読むこともできる。中国では、本屋もレストランも、よい店の情況はしょっちゅう変わるので、いつも最新情報を上書きしなくてはならない。

上海の街角


 北京では、街の中心の繁華街・王府(ワンフー)井(ジン)にほど近いところに、伝統ある出版社の三聯書店の店舗ビルがあった。ここはなんと24時間営業で、深夜でも若者を中心に多くの人が訪れ、熱心に本を選んでいた。机と椅子も配置してあって、座って本が読めるようになっている。
 北京といえば、私たちが行く直前、PM2.5による大気汚染がとてもひどくて、一週間のうち三日間、学校が休みになったという(だいたい夏よりも冬、南方より北方が、空気の汚染はひどい)。遠方はスモッグでかすみ、日曜日でも王府井の歩行者天国の人出はまばらだった。数日して青空が見えて「空気質指数」が良くなった日には、街をぶらつく人も増えた。人々は毎日、空気を気にして暮らさざるを得ず、雑談の中でも、PM2.5の話はたくさん出る。日本の大気汚染はどうかと聞かれて、「1960~70年代の高度経済成長期にひどくなったが、その後対策が進んで、現在はあまり大きな問題でない」と話すと、将来の改善の可能性に、友人は遠い目をした。
 中国の友人達がもうひとつ嘆いていたのは、子供の教育の大変さだ。毎日、たくさんの宿題が出て、子供たちは遊ぶ時間など全くなく、夜おそくまで勉強に追われる生活を送らなくてはならない。それは幼稚園から始まり、三才児の宿題は、「花の絵を描いてきなさい」とか「ぼんぼりを作ってきなさい」など。「三歳児がどうして一人でできる? 実質的には親の仕事で、毎日これに付き合うのはほんとに大変」と友人。翌日会った小学生のお父さんは、「パワーポイントで課題を作って、プリントアウトしてきなさいって、親が手伝うしかないだろう」とこぼす。「一人っ子政策」が「二人っ子政策」に変更になっても、そうした親の仕事をこなすのが本当に負担なので、一人で充分だという。子供が遊ぶ時間もなく勉強づけの毎日を送るのはよくない、とみな思っているのだが、周りが皆そうなので、名門大学を目ざす競争から降りられない。中国の都市の中間層の人々にとって、子供の将来へ向けての選択肢は、限りなく少なくなっているように見えた。

北京・王府井

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