オオカミになりたい(遺言)

ずっとそばにいるよ

月百姿 きぬたの月

2017-07-22 | 月百姿

月岡芳年 月百姿

『きぬ多能月』 夕霧

明治二十三年印刷

 

砧(きぬた)とは衣板(きぬいた)の意味で

当時は麻や楮(こうぞ)で織った着物は洗うと固くなってしまうので

皺を伸ばして光沢を出す為に 木槌を使って打ちほぐしていた。

 

国立国会図書館デジタルコレクション 042

 

能 『砧』より

筑前国芦屋の何某(なにがし)が訴え事のため上洛してはや三年

妻のもとへ侍女の夕霧を帰します。

夫の薄情を恨む妻は我が身の不幸を嘆き

折しも聞える砧を打つ音に 蘇武の故事を思い起し

夕霧とともに砧を打ちます。

『思ひをの述ぶる便りとぞ 恨みの砧 打つとかや』

夜更けて月冴え 砧の音に虫の音も交じり、涙を落とす妻

 

 こうしてしばらく経ったある日のこと

今年の秋にも帰らぬという知らせに

妻は絶望の余り病に伏してついには亡くなる。

国へ帰った夫は 梓の弓により妻の霊魂を招き言葉を交わします

妻の亡霊は、生前の妄執で地獄の苦しみをうけている様を語り

夫の不実を恨みますが、夫が法華経を読誦した功徳により

亡霊の恨みは静まり成仏するのでした。