月岡芳年 月百姿
『きぬ多能月』 夕霧
明治二十三年印刷
砧(きぬた)とは衣板(きぬいた)の意味で
当時は麻や楮(こうぞ)で織った着物は洗うと固くなってしまうので
皺を伸ばして光沢を出す為に 木槌を使って打ちほぐしていた。
国立国会図書館デジタルコレクション 042
能 『砧』より
筑前国芦屋の何某(なにがし)が訴え事のため上洛してはや三年
妻のもとへ侍女の夕霧を帰します。
夫の薄情を恨む妻は我が身の不幸を嘆き
折しも聞える砧を打つ音に 蘇武の故事を思い起し
夕霧とともに砧を打ちます。
『思ひをの述ぶる便りとぞ 恨みの砧 打つとかや』
夜更けて月冴え 砧の音に虫の音も交じり、涙を落とす妻
こうしてしばらく経ったある日のこと
今年の秋にも帰らぬという知らせに
妻は絶望の余り病に伏してついには亡くなる。
国へ帰った夫は 梓の弓により妻の霊魂を招き言葉を交わします
妻の亡霊は、生前の妄執で地獄の苦しみをうけている様を語り
夫の不実を恨みますが、夫が法華経を読誦した功徳により
亡霊の恨みは静まり成仏するのでした。