【iRONNA発】韓国財閥危機 サムスン凋落が暗示する韓国経済の限界 加谷珪一氏
韓国最大の財閥、サムスングループが不振にあえいでいる。旧態依然の財閥支配は弊害ばかりが表面化し、国内では「財閥たたき」が過熱する。一方、自身の疑惑で求心力を失った朴政権にとっても経済崩壊とのダブルパンチで、終焉(しゅうえん)が近づきつつある。韓国はもはや「限界」なのか。(iRONNA)
このところ韓国財閥の不振が目立っている。韓国を代表する企業であるサムスン電子は最新の決算で大幅な減益となったほか、韓国の海運最大手である韓進(ハンジン)海運は経営破綻した。日本を起源とするロッテは、グループの重光昭夫会長らが韓国検察から在宅起訴されるという事態に陥っている。
だが、普通に考えて、国内の有力企業の経営が傾いたからといって、その国の経済がすぐにダメになるということはあり得ない。にもかかわらず、財閥系企業の業績低迷が韓国経済そのものへの懸念につながっている。これには韓国経済特有のある事情が深く関係している。それは、財閥系企業の影響力が圧倒的に大きいことと、国内の資本蓄積が経済規模に比べて貧弱なことである。
いまだ新興国
サムスン電子の2015年12月期の売上高は約206兆ウォンであり、同社が生み出した付加価値は77兆ウォンに達する。同じ年の韓国における国内総生産(GDP)は1559兆ウォンなので、サムスン1社で全GDPの5%を生み出している計算になる。韓国経済のかなりの割合が、こうした財閥系企業の活動によって支えられているのだ。ちなみにトヨタが1年間に生み出した付加価値は約5兆円であり、日本のGDPは約500兆円なのでトヨタの占める割合は1%である。
加えて、経済の基本構造も日本とは異なっている。日本の場合、GDPに占める消費の割合は約6割となっているが、韓国は半分程度しかない。一方、設備投資がGDPに占める割合も日本は2割だが、韓国は3割に達する。つまり、日本では十分なインフラが既に整備されており、安定した消費経済が存在することを意味している。
逆に言えば、韓国経済は新興国から先進国に移行する途上であり、企業活動が経済全体に及ぼす影響は依然、大きい。サムスンなど大手企業の業績が低迷すると設備投資が大きく減少するので、景気全体を冷え込ませてしまう。
日本では企業の経営不振が長く続いているにもかかわらず、国内経済はそれほど壊滅的な打撃を受けていない。その理由は、企業活動とは直接関係しない、層の厚い消費経済が確立しているからである。日本や韓国のような加工貿易を中心とした国の場合、輸入の代金や海外への投資に際して必ず外貨が要る。豊富な外貨の蓄積があることは、企業活動に極めて有利に働くことになる。
ただ、韓国は1997年の通貨危機の際に、国内の決済資金が不足し、国際通貨基金(IMF)からの支援を受けている。韓国は日本との間で通貨スワップの協定を結んだが、これはいざというときに資金不足に陥らないようにすることが目的である。
サムスンやロッテは、かねて財閥グループ企業同士が相互に出資し合う「循環出資」と呼ばれる手法を多用し、経営の不透明性が指摘されてきたが、実はこの現象も韓国の資本不足が遠因となっている。
資本マジック
なぜ、このような仕組みになっているのか。それは、各財閥のオーナーが限られた資金の中でグループ全体を支配するためである。これは一種の「資本マジック」といってよい。日本もかつては株式の持ち合いなど、循環出資的な慣習が残っていたが、社会の成熟化とグローバル化の進展で現在ではこうした慣行は急速になくなりつつある。
一連の韓国経済に対する不安というのは、韓国が社会の成熟化、経済のグローバル化において、いまだ途上であることに起因している。近年、グローバルな経済システムに対する否定的な見解を目にする機会も増えているが、日本と韓国の「実力差」は、日本がいち早く経済のグローバル化を達成したことによって得られたものである。
日本が強い先進国であり続けることを望むのであれば、こうした現実から目を背けてはならないだろう。
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【プロフィル】加谷珪一
かや・けいいち 経済評論家。昭和44年、仙台市生まれ。東北大工学部原子核工学科卒業後、日経BP社記者として入社。野村証券グループの投資ファンド運用会社を経て独立し、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。著書に『教養として身につけておきたい戦争と経済の本質』(総合法令出版)など。
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