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大ヒット韓国ドラマ『愛の不時着』のヒーロー・ヒロイン像が新しい:韓流ドラマ再来

2020-07-18 01:30:00 | 日記


韓国の財閥の女性がパラグライダーで竜巻に巻き込まれて北朝鮮に不時着し、エリート軍人と恋に落ちる-。あり得ない設定の韓国ドラマ「愛の不時着」が日本で人気を集めている▼映画やテレビ番組を定額制で視聴できる「ネットフリックス」で、3カ月以上も視聴トップを争っている。中高年だけでなく20代、30代にも人気で、コロナ禍のなか再び韓流ドラマブームを引き起こした▼人気の秘密は何よりも設定にある。大部分は北朝鮮を舞台とし、頻発する停電や抜き打ちの家宅捜索、ひそかに韓国製品が流通する市場など、軍事境界線近くの田舎町の暮らしを丁寧に描く▼恋愛ものではあるが、喜劇や批評の精神があふれ、友情、信頼、家族といった普遍的なテーマもうまく盛り込んだエンターテインメント性の高いドラマだ▼男女の主人公はもちろん魅力的なのだが、北朝鮮の人々の描き方が秀逸だ。圧制下で他人への無関心を装いながらも豊かな感受性や人情を隠しきれない。人間賛歌の姿勢が視聴者をひきつける▼今月は朝鮮戦争の勃発(ぼっぱつ)から70年、南北統一と交流促進をうたった南北共同宣言から20年の節目の月でもある。時に緊張感も生じるが、朝鮮半島が休戦状態から平和体制へと移行する糸口を見いだせないか。ドラマを見た誰もが願うだろう。
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[メーキング] ヒョンビンとソン・イェジンは初キスのリハをする | 「愛の不着時」 【日本語字幕 CC】

優れたコンテンツは国境も言葉も、価値観も超えて感動を伝える。韓国ドラマ『愛の不時着』は、そんな作品のひとつだ。2019年12月~2020年2月にかけて韓国のケーブルテレビで放送され、局の最高視聴率記録を塗り替えた。日本でも今、Netflixで総合トップ3位(2020年3月24日時点)に入る人気である。


パラグライダー事故で軍事境界線を越えてしまった韓国の財閥令嬢を、北朝鮮のエリート軍人が匿っているうちに恋に落ちる――。この設定から、多くの人は思うだろう。「非現実的だ」と。おまけにタイトルが気恥ずかしい。

しかし、このドラマはマーケティングから伝わるものと実際の中身にギャップがある。

ただの「王子様がお姫さまを守る」…ではない
表層は、社会主義国に生きる軍服が似合うハンサムなヒーローと、資本主義国に生きる美人の大金持ちが政治体制を超えて愛を育む話だ。強いヒーローは徹底的にヒロインを守る。北朝鮮のエリート将校リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)は、韓国の財閥令嬢で起業家のユン・セリ(ソン・イェジェン)を無事にソウルに帰すべく尽力し、彼女を守るために母国で軍事裁判にかけられ死刑になることもいとわない。


『愛の不時着』より
これはまさに、王子様がお姫さまを守るおとぎ話の構図だ。ひとりの女を守るため、大きなものを敵にまわして戦う男――よく見るモチーフを徹底的にカッコよく描いていて、これだけでも、多くの視聴者は満足する。「すぐ、Netflixに入って!!」と私にこのドラマを勧めてくれた親友は、前半のあるシーンを指して「トム・クルーズよりカッコいい!」と評していた。

ただし、このドラマで描かれているのは、強い男が愛する女を守り抜くという、伝統的な性別役割分担に基づく「恋愛」だけではない。


「僕、作る人 私、食べる人」
リ・ジョンヒョクの献身と愛情は、ハリウッド映画のように派手なアクションより、むしろ静かで日常的な行動を積み重ねるシーンが心に響く。パラグライダーで不時着し軍事境界線を越え、勝手に北朝鮮に入ってきたユン・セリをどう扱うか。国境警備を担当する第五中隊を率いる彼の任務に照らせば答えは明らか。「抹殺するべき」だ。

しかし、彼は彼女を殺さず、保衛部(秘密警察)に通報もしない。それどころか、自宅に匿い「食べものが欲しい」というセリの要求に応え、すぐに食事を作る。麺を打ち、茹で、スープを作り野菜と卵焼きを添えて出す。「私は1日2食、お肉を食べるの」と言われたら、貴重な食料から肉を出して焼いてやる。セリが二日酔いになれば「豆もやしのスープ」を作る。ソウルに戻りたがるセリが「来週は江南のカフェにいたい」と言えば、市場でコーヒー豆を手に入れ、自宅で焙煎してひき、長年使っていなかったネルドリップの器具を出してコーヒーを淹れてやる。

『愛の不時着』より
頻繁に停電し、システムキッチンなどない北朝鮮の国境に近い村でこれらは大変に手間のかかる労働だが、それをジョンヒョクは眉一つ動かさずやってのける。それを時に部下である第五中隊の隊員たちが手伝う。セリは食べているだけのシーンが多い。まさに「僕、作る人 私、食べる人」である。

エリート軍人は「ケアする人」
セリは、シャンプー、リンス、ボディソープ、アロマキャンドルなど、北朝鮮の村にはない、様々な日用品を欲しがる。面倒な顔をせず市場の裏取引で入手してくるジョンヒョクは、服装や軍人という職業が醸し出すマッチョな印象とは裏腹に「ケアする人」だ。


『愛の不時着』より
つまり、リ・ジョンヒョクは、これまで女性たちが愛という名の下に、家族のためにしてきた「無償ケア労働」を、セリのために黙々とこなす。彼女を北朝鮮当局に通報しなかった理由を、彼は「ケガをするかもしれないし、消されるかもしれない。安全を保障できなくて心配だったから」と説明する。彼はセリを心配(ケア)し、保護し、食事や着る物など生活に必要な面倒を見る(ケア)。

ちなみにジョンヒョクはセリだけでなく、自分の部下たちのことも常にケアしている。ある場所から走って逃げる隊員が靴を忘れた時は、あとから追いかけて行って靴を履かせてやった。親元から離れて10年近く兵役に就く少年隊員を含め、部下たちを家族のように思いやり、食べ物を分けてやる。危機に際していわゆる「男らしさ」に基づく強さを発揮し大切な人を守るだけでなく、日常生活の中で相手を思いやるところが魅力だ。



このドラマのヒーローは敵を倒すだけでなく、固定的な性別役割分担をひっくり返してみせてくれる。それはヒロインも同様だ。

さらに、舞台を北朝鮮にしたこともまた、ドラマの人気を決定づけた大きな要因だ。現代社会においては当事者同士の思いが通じていれば、たいてい一緒になれる。たとえ既婚者同士であっても、離婚して好きな人と一緒になることは多くの国で可能だ。遠距離恋愛が嫌なら、どちらかが相手の住む町へ行けばいい。ここで捨てるのは、キャリアやお金や思い出だろう。愛の成就と引き換えに、命まで取られることは、少なくとも日本ではありえない。


『愛の不時着』より
しかし、北朝鮮ではそうはいかない。軍事境界線を越えてきたセリを通報せず匿ったことで、リ・ジョンヒョクは自身のキャリアはもちろん、命をも危険にさらすことになる。いくら思いが通じていても、2人は一緒にいるだけで「違法」なのだ。自宅でもホテルでも盗聴されている可能性があり、本心を話すことは危険を伴い、お互い母国にいる時は、連絡すら取れない。


『愛の不時着』より
そんな恐ろしい社会で、人々はどんな暮らしをしているのだろう。このドラマのもうひとつの魅力は、北朝鮮の庶民生活を描いた数々のシーンにある。脱北して韓国に住む人物が監修したそうで、北朝鮮出身者からも、かなり実態に近いと高評価を得ている。

例えば、冷蔵庫がなく地面に穴を掘って食べ物を保存し、遠足には豚を連れて行きその場で殺して焼いて食べる。冷蔵庫があっても停電が頻繁だから、戸棚としてしか使えず、ドラマを見る時は自転車で発電することもある。電車も停電で10時間以上停まることがざらにある。シャンプー、リンスなど韓国製品は市場で裏取引されている。

毎話訪れる、映画のようなカタルシス
さらに重要なのは、これがラブ「コメディ」であることだ。主演のふたりだけでなく、脇を固めるもう1組のカップルが政治体制に翻弄される。視聴者は何度も泣かされるが、暗い気分は長引かない。泣けるシーンの次に絶妙な「笑い」を入れてくる。物語前半から、こまめに伏線を回収してくれるから、毎話、映画を見るようなカタルシスを得られる。


『愛の不時着』より
第五中隊員や北朝鮮の主婦はそれぞれが生き生きした個性を見せてくれる。泣いたり笑ったりしながら登場人物に感情移入するうち、朝鮮半島の南北分断がもたらす悲しみについて考えている。北朝鮮の主婦や兵士たちが、大切な仲間を守るために小さな嘘をつき、体制に抵抗を試みるシーンの数々には、涙を誘われる。そして、どれだけ愛し合った人同士でも、どれだけ仲良くなった友達でも、政治的な分断ゆえに連絡すら取れない現状には、不条理を感じずにいられない。


『愛の不時着』より
ドラマの中でセリは第五中隊の隊員を「弟たち」と呼び、何度も「統一したら……」と話す。ソウルの財閥令嬢として何不自由なく育ったはずのセリは、ある大きな喪失感を抱えて生きてきた。心の穴を埋め、生きる喜びを感じさせてくれたのは、軍事境界線の向こう側に住む北の人々が与えてくれた愛情と安心感だった。家族は血のつながりだけではないし、真実の愛は離れていても生まれるものだ。

良質なコンテンツはイデオロギーを超える力を持っている。北朝鮮にこのドラマを何かの形で見ている人がいて、そこから変化が生まれることを、隣の国から願わずにいられない。


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