ヒンドゥー教でない人からは、たいてい「大変だなぁ。」という感想を聞くけれど、子どもの頃からどっぷり浸かってしまえば、当たり前な日常なんだろうなぁ。と思う、宗教儀式。
アグン家では、ひと月に6度くらいの割合で行われる。
それに、南国の夜は外でまったり話しやすいから、行事終了後、めいめいがビュッフェ形式で料理をよそい、庭のあちこちに座って夕食をとり、そのまま朝まで集っている。
最初のうち、わたしは、「終わるの何時?」とIikくんに聞いていたけれど、3回目になると、「わからないよ。たいてい・・・」と答えていた意味に納得。
解散時間は、その時の呼吸次第で決まるのだった。
先日の満月の夜は、午後4時からバロン (聖獣)のお面を8年ぶりにお取替えする儀式の後、再び夜が更けてから、深夜2時過ぎまで、満月のお祈りが行われた。
わたしも、奥さんからいただいたクバヤに着替え、庭先に荘厳さと日常が溶け合っているのを感じた。
お家の門の正面で迎えてくれる、象の神様。
その先の境内に、バロンさまのお供え物が並べられていく。
お経が唱えられ、厳かに儀式が進んでいくと、Iikくんのお父さんに異変があった。
急に身体が震えだし、咳き込み、顎がガクガクし、しばらくすると、バタン!と後ろにのけぞり返ってしまった。
後ろの男性に抱き留められたまま、ほとんど意識もないようなので、「これは大変!救急車を呼んだ方が・・・」と、周りの人が動かないのにヤキモキしていると、お父さんは押し返されて、今度は前後に揺れながら、小刻みに唇を震わせ、何かをつぶやき始めた。
その時、奥さんがそっと、「トランスよ」と、おしえてくれた。
今、彼が、神様から降りてくるお告げを伝えているという。
それがひと段落すると、男性たちが足元のおぼつかなくなっているお父さんの両脇を抱えて立ち上がらせ、剣を抜いて右手に握らせ、バロンさまにすり寄って、お顔の前で、それを振りかざすしぐさをした。
そうして、ようやく、8年間祀られてきたバロンさまのお面が外された瞬間だった!
少し前に話していた、ふっくらと温和そうな女性が突然、目の前で悲鳴を上げ、泣き叫びながらのけぞり、倒れそうになったところを、駆け寄った男性に受け留められた。
あの悲痛な叫びは、どこから来るんだろう。
8年間心を委ねてきたものから切り離された衝撃、彼女がとても母性的な雰囲気の、3人の女の子の母親で、その日もみんなが懐いて周りに身を寄せ合っていたことと、感応のしやすさ。 は、関係しているかもしれない。
ふたりの、どこか別のところとつながって見える意識の状態は、その跡に新しいお面が取り付けられ、聖水がかけられて納まるまで続き、どちらもまた、何事もなかったように戻ってきた。
今、まさに取り外されるところ。
新しく、赤いお顔の、ピカピカのバロンさまが就任。
おひげに、お花も飾ってもらって喜んでるみたい。
ちょうど、夕陽が射してきた。
人々も頭に聖水をふりかけて、祈りを奉げる。
今まで祀られてきたバロンさまは、額の宝石を取って、そのまま埋められた。
奥さん、「わたしに、ちょうだ~い」と、日本語。
部屋に帰ってから、窓越しの満月に、手を合わせた。
この地球から、どのくらいの人が、いつも同じ月を見上げてるんだろう。
かうんせりんぐ かふぇ さやん http://さやん.com/