【11月号・主宰の24句】色問へば一切無しと浜の風  鵠士

2022年11月06日 | 主宰句・主宰句鑑賞
寝待月   大野鵠士
【獅子吼1003号(2022年11月発行)掲載】

   義仲寺二句
芭蕉葉の陰にいつまで百日紅
・季語 芭蕉葉(初秋) ※主季語 芭蕉
・大津にある義仲寺は芭蕉が(なぜか)敬愛する木曽義仲を祀る寺。
・芭蕉の遺言通りに墓は義仲寺に建立されています。

御墓にいつもながらの小菊かな
・季語 小菊(三秋) ※主季語 菊

   故梅田双十雅より戴きし虎杖あり
一本の杖の縁や秋の風
・季語 秋の風(三秋) ※主季語 秋風
・虎杖(いたどり)の茎が本当に杖になるのか、と疑問ですが・・・。

鉦叩しづかに鉦を打ち始む
・季語 鉦叩(かねたたき・初秋) 
・コオロギ科に属する体調9ミリほどの見つけにくい虫。
 チンチンチンと鉦を叩くように鳴くが余韻のある音ではない、と辞書には書いてあります。

あでやかにして寂しきは鬼灯よ
・季語 鬼灯(ほほづき・初秋)
・盂蘭盆会の供花に用いるので、初秋の季語と覚えておきます。
・ちなみに浅草寺・浅草観音の「鬼灯市」は7月10日で晩夏の季語になります。

爽籟や潮満ち来たる船溜
・季語 爽籟(そうらい・三秋) ※主季語 秋風
・「籟」という字は馴染みがうすいですが、松籟ならば松に吹く風、またその音という意味。
・気持ちのいい爽やかな光景が想像されます。
※船溜(ふなだまり)・・・船舶が風波を避けるための碇泊所。船瀬。

雲去来人又去来風祭
・季語 風祭(仲秋) ※主季語 二百十日
・風を鎮めるために二百十日前後に行う祭(八尾の風の盆など)
・漢字だけで書かれた漢詩のような一句。深い味わいを感じます。

台風といふ大いなる独楽回る
・季語 台風(仲秋)
・台風を大きな独楽(こま)に見立てた楽しさか。

紫の秋茄子恋の手榴弾
・季語 秋茄子(あきなす・仲秋) 
・ユニークな発想の一句。つやつやの手榴弾を好きなあの子に軽くトスしてみたら・・・。

モンローの尻振る形秋茄子
・季語 秋茄子(あきなすび・仲秋)
・茄子を二つ並べてキュッキュキュッキュと擦り合わせてみると、というシーンかな。

色問へば一切無しと浜の風
・季語 色なき風(三秋) ※傍題 風の色、素風
・季語を分解して一句に詠み込んだ高度な技かと思います。
 ※風の色 草木などの動きで知られる風の動き、趣。風色。

秋霖や障子ほのかに皺寄れる
・季語 秋霖(三秋) ※主季語 秋の雨
・ここのところは秋晴が続いて障子はピンと張っていますね。

月を転がさむ万里の長城に
・季語 月(三秋)
・唐突な発想ですが、この月は転がるような満月に近い月ですね。

それとなく誰待宵の気配かな
・季語 待宵(仲秋)
・待宵はダブルミーニングで恋の予感のする一句。
 ※八月十四日の夜、または月。
 ※来るはずの人を待っている宵

薄雲のあらまほしきや月今宵
・季語 月今宵(仲秋) ※主季語 名月
・あらまほし・・・そうあってほしい 理想的だ
・薄雲がかかって雲間を出たり入ったりする方が、雲の動きがよく分かり風情もあるというもの。

いざよへる月に寄り添ふ星もあり
・季語 いざよふ月(仲秋) ※主季語 十六夜
・いざよふ・・・ぐずぐずする、ためらう
・この句も少し恋の風情が感じられるような気がします。

立待の月をも待たでねまりけり
・季語 立待月(仲秋)
・ねまる(古語)・・・すわる、うずくまる。 寝る、臥す。 黙って座っている。 寛いでいる。

寝待月夢にも色のあるやうな
・季語 寝待月(仲秋)
・色の付いた夢を見る人とそうでない人があると聞きました。先生はたまに色付きが出るのかな。

虫時雨四角三角丸の狭間
・季語 虫時雨(三秋) ※主季語 虫
・狭間(さま)・・・城壁や櫓などに設けて、外をうかがい、また、矢・石・弾丸などを放つための小窓。
 ※矢狭間(やざま)、鉄砲狭間(てっぽうざま)
・お城の近くで聞く虫時雨。或いはその場面を想像して詠まれた一句。

鬼の子よ自由といふは不自由ぞ
・季語 鬼の子(三秋) ※主季語 蓑虫
・「不自由といふ自由あり冷奴」という句も以前に詠まれていました。好対照ですね。

少年の長き手足よ夕化粧
・季語 夕化粧(仲秋) ※主季語 白粉花(おしろいばな)
・近所で咲いている白粉花の様を、今一度よく見てみます。

トロッコのレールの歪み吾亦紅
・季語 吾亦紅(われもこう、仲秋) 
・「山野に生える多年草。暗い赤みを帯びた紫色で楕円形の小さな花穂を付ける」と辞書の記載。
・「その寂しげな風情は詩心を誘う花名とともに愛され来た」と歳時記の記載。

やつるるになほ鶏頭の倒れざる
・季語 鶏頭(三秋)
・やつる=やつれる(窶れる)
・秋のやや物悲しい風景ですが、茎は枯れても鶏頭の花はまだまだ赤みを放っています。

カウンターの端を好みて秋灯
・季語 秋灯(あきともし、三秋) ※主季語 秋の灯
・空いたカウンターに座る時、端の席に座る人が多いでしょう。軽く一杯どうですか!

2 コメント

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良い句 (きりぎりす)
2022-11-07 07:47:18
ばかりですね。
茄子確かに手榴弾です。
カウンターの端は確かに居心地がいいですね。
私も映画でも席は端を取ります。
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茄子の二句は (健人)
2022-11-07 11:48:21
大胆に詠まれた本当に面白い句です。
俳句界で名の通った先生が公開するのには
かなり勇気がいるのではないかと想像します。
裏打ちされた自信があればこそでしょうね。
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