【令和5年4月号・主宰の24句】水洟は垂れる戦争まだ続く

2023年04月13日 | 主宰句・主宰句鑑賞
水洟と戦争と   大野鵠士
【獅子吼1008号(2023年4月)掲載】

天平の空聳えをり池普請
・季語 池普請(三冬)
・池普請とは、冬の渇水期に年に一度の灌漑用の池の掃除をしたり、修繕をしたりすること。

川普請曰くありげな物出たり
・季語 川普請(三冬)池普請と同様に、川の底に溜まった泥を彫り上げて深くし、春からの田畑の灌漑に備える。
・曰くありげな物が出てきたという。そりゃ、何か出て来るでしょう。こういう事、一度体験してみたいものです。

どことなく険しき目鼻薬喰
・季語 薬喰(くすりぐい・三冬)
・冬に体力をつけるために、鹿・猪・兎などの肉、又は乾鮭などを食べる事。
・これらを食べる事を嫌った時代があったため、冬季に薬として食べていた。

風花は肩のあたりに消えにけり
・季語 風花(かざはな・晩冬)
・冬の青空に舞う雪。風に舞い散る花のような雪。
・日本海側に雪が降る時、太平洋側は青空が広がり、風花日和となる。

鬼の子はこの着ぶくれを笑ふらむ
・季語 着ぶくれ(三冬)
・鬼の子は蓑虫の傍題で秋の季語。鬼の捨子、父乞虫(ちちこうむし)、みなし子、親無子(おやなしご)とも。
・枕草子43段では、この虫を鬼の子であるとする。
・「蓑虫いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似て、これも恐ろしき心あらむとて・・・」とある。

比叡颪漣は水たまりにも
・季語 比叡颪(ひえおろし・三冬)
・比叡山から吹き下ろす風。

猫舌に珈琲苦し寒四郎
・季語 寒四郎(晩冬) 主季語は寒の内
・寒に入って四日目を寒四郎、九日目を寒九という。

ガリバーの箒逆さの冬木立
・季語 冬木立(三冬)
・漂流して小人国に捕らわれの身となったガリバーが目覚めた時の図からのユニークな連想。
・俳句をすることが楽しくなる一句。
  
水洟は垂れる戦争まだ続く
・季語 水洟(三冬)
・意表を突いた反戦句。こんな風刺もあるのかとため息が出るような句です。
  
スカーフの端を遊ばせ春を待つ
・季語 春を待つ(晩冬)
・主季語は「春待つ」。傍題として、待春、春を待つ。春を待ちわびるという思い。主観が先行する季語。

二月の空青しブラインドの隙間
・季語 二月(初春)

春寒し瑣事に関はらねばならぬ
・季語 春寒し(初春)
※瑣事 少しばかりの事。つまらない事。

傘の柄も細きを好み春の雪
・季語 春の雪(初春)
・「傘の柄も」という言葉の裏に、何かは細きを好む、という「何か」があると思うのだが・・・。
  
梅見月寿司屋に長居すべからず
・季語 梅見月(初春) 主季語は如月
・どうして寿司屋に長居してはいけないのか。知らぬ間にバカ高い勘定になってしまうから?なのか。

見えずとも聞くべし闇の梅が香は
・季語 梅が香(初春) 主季語は梅
  
度外れに冴返るともたぢろがず
・季語 冴返る(初春)
・度外れ・・・普通の程度をはるかに越えている事。
・たぢろぐ・・・しりごみする。ひるむ。辟易する。

暗躍の忍者の如し恋の猫
・季語 恋の猫(初春) 主季語は猫の恋
  
当てとして目刺を頭から齧る
・季語 目刺(三春)
・当て・・・酒の肴
  
人は皆泣き声同じ寒戻る
・季語 寒戻る(初春)
・本当に、人の泣き声は皆同じなのだろうか。そもそも人の泣き声を聞く機会と言うのはあまり無い。
 そもそも比較する機会がほとんどないから真理とは思えない。と言ってしまえば身も蓋もないが。

水もやや膨るる心地猫柳
・季語 猫柳(初春) えのころやなぎ、川柳

春夕焼青く灯れる自転車屋
・季語 春夕焼(三春) 主季語は春の夕焼、傍題として春茜

舟脚は水に任せむ柳の芽
・季語 柳の芽(仲春)
・船脚は船の進む速さ。船脚が遅い、船脚が鈍る、など。
・おおい船方さんの歌に、「止めておくれよ船脚を」という歌詞を思い出す。三波春夫だったか?
※柳(晩春)は、生命力に満ちて春一番に芽吹くため、長寿や繁栄の呪力を持つ神聖な木とされてきた。
※猫柳(初春)、柳の芽(仲春)、柳(晩春)。と覚えておこう。

風の春光の春と思ひけり
・季語 春(三春)
  
城今や平和の砦山笑ふ
・季語 山笑ふ(三春)

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
春夕焼・・・ (きりぎりす)
2023-04-17 15:18:10
子供のころ遊び疲れて家へ帰る思い出が、
懐かしい情景が。
返信する

コメントを投稿