新潟久紀ブログ版retrospective

財政課24「県職員なのにファイナンスに腐心(その1)」編

●県職員なのにファイナンスに腐心(その1)

 財政計画を担当する係長職相当の財政調整員として2年目に突入。県庁人事の基本として1年で異動というのはまれなので覚悟はしていたが、ギリギリとした業務に追われる日々がまた一年繰り返されるのかと思うと気が重い。でも、日々課題の矢が次々と降り注ぎ、気持ちを落ち込ませるいとまも与えられない状況に、もはや身体が馴染んでしまっている感もあるのが我ながら恐ろしい。同僚の誰かが「働き蜂症候群」だと言う。「過酷な状況が常態となった我々は、逆に急に暇になると死んでしまうかもしれない働き蜂のようなものなのだ」と。目の下にクマのできた彼の顔を見ながら、蜂蜜エキス"プロポリス"入りの栄養ドリンクを一気飲みするのであった。
 「財政計画担当」は、中長期の財政見通しと対策案を企画調整するのであるが、単年度の予算案をまとめれば終わりという「部局予算担当」と異なり、予見の難しい将来の財政負担を考えていかねばならないので、特殊な悩ましさがある。
 この頃は、世界的に経済成長が鈍化・安定してきたこともあって、金利が緩やかにかつ確実に上がる基調にあった。道路や河川、各種施設などの巨額の投資はその便益の長期性から負担を年次的に平準化させるため、自治体の借金である「起債」をするのだが、施設の耐用年数から償還期間30年としても5年ないしは10年ごとに借り換えることが通例となっていたため、最初借り入れたときの金利が借り換え時に上がっていれば、その先の負担が当初の見込みと大きく変わるというリスクがある。できるだけ長く利払いを低く押さえる手立てを講じるというのが大きな命題の一つだったのだ。
 税収という先ず財源ありきでどう有効に使うかを悩むのが役所だと思っていたのだが、よもや借金で頭を悩ませるとは…。新採用以来、イレギュラーな職務をあてがわれてきた私にはもう驚くことでもないのだが、更に私が苦労するような舞台がちゃんとできていた。役所が借金をする環境が大きく変動していたのだ。
 これまでの長きに亘り、国が用立てた財源を自治体が借り受けることができるというのが基本にあった。しかし、行財政改革や金融自由化推進の下で、それは悪しき護送船団方式の範疇とされ、民間金融業の圧迫といった指摘となり、財政力の弱い市町村などを除いて自治体も金融市場から条件交渉を通じて直接借り入れをするという事態になっていた。何も面倒をしなくても低利で長期に借りられた政府資金を止められて、自力で金利など条件交渉をして民間金融機関から借りなさいということになったのだ。
 借金するにしても、幾つもある金融機関と個別にやりとりするのは煩雑であるし、特定のメガバンクから一括して借りるというのも公平公正から見て問題がある。自治体ばかりではないが、巨額の資金の融資を得る際にはシンジケートローン方式というのがよく用いられる。最初は「シンジケート団と交渉する」などと聞いて「洋画のギャンクものか」と突っ込みを入れたものだが、複数金融機関から一体的に資金を融通できるとともにアレンジャーと呼ばれる窓口金融機関と一括して融資条件を交渉できるという効率的な方法だ。借り入れる時期で上期下期と分けて、その時点での国債金利や市中金利などをよりどころに交渉するが、確定交渉の当日は夜遅くまで条件交渉が続けられたものだ。

(「財政課24「県職員なのにファイナンスに腐心(その1)」編」終わり。「財政課25「県職員なのにファイナンスに腐心(その2)」編」に続きます。)
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